咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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プレオープンなんかで負けていられるかぁぁっ!

 私のデイジー賞の前日にはババヤーガ先輩の出走する幕張ステークスが中山レース場で行われたのだが、バー先輩は残念ながら13着という結果に終わった。

 

 いつもは飄々としたバー先輩だが、さすがにレースは真面目に走っているし、実力の無い人ではない。それでもこの様に惨敗を喫するのがレースの怖さであり、奥の深い所だと思う。

 

 そんなバー先輩をカルチャー先輩は「勝つ気が無いからよ」と一蹴する。これは冷たい様だが多少は理解できる。かつての私がそうだったから。

 

 バー先輩は勝つ気が無いというよりも、オープンクラスに上がって満足してしまった様にも見える。

 トレセン学園からの進学や就職は、オープンクラスの実績があれば大抵の所は推薦で進めるようになる。

 

 もちろん大学や企業によって条件は異なってくるが、ウマ娘レーサーとして最も華やかな就職先はやはり『ドリームトロフィー・リーグ』だろう。

 進める条件は「GⅠを1勝以上、その他複数の重賞制覇」ととんでもなく厳しいものだが、トゥインクルシリーズ以降に『走れる』進路は意外と少ないし、基本学生競技のトゥインクルシリーズよりも華やかで演出が派手だ。

 

 私もトレセン学園卒業後の進路はドリームトロフィーが第一志望だが、その為にはGⅠレベルのレースで勝ち続ける必要がある。初勝利で浮かれている場合ではない。

 

「お疲れちゃ〜ん、まぁこういう日もあるよね〜」

 

 レース後もバー先輩はヘラヘラと笑っていた。それが『悔しさを押し殺した』物なのか、『大望を諦めてしまった』物なのかの判断は私にはつかなかった……。

 

 ☆

 

 翌日のデイジー賞、場所は昨日と同じく中山レース場。実は私は乗り物酔いしやすく、遠方のレース場とは相性が悪い。過去のデビューから未勝利戦は6戦全てが府中の東京レース場か西船橋の中山レース場だ。

 

 府中のトレセン学園から中山レース場まで、鈍行電車でも1時間半で着けるのはとても助かっている。まぁ重賞を走るようになったらそんな事も言ってられなくなるんだろうけど、地方へ遠征するのは少し怖い……。

 

「デイジー賞はコスモスと同じ『1勝』してきた娘ばかりが出走するレースだ。選手に大きなレベルの違いはない。気負わずリラックスして走れば、コスモスなら勝てるレースだと思う」

 

 新代トレーナーの激励も心強い。ある意味ここからが私のレースの本番だ。今日のデイジー賞… 次にアネモネステークス… そして桜花賞… 少なくとも今から2勝出来れば憧れのティアラレースに参加出来るのだ。「気負うな」という方が無理な話だろう。

 

 ☆

 

 パドックから本場入場までは大きなイベントは無く淡々と進んでいく。出走メンバーは私を含む9名、初めて見る娘ばかりで少し緊張する。

 新代トレーナーは「特に注意するべき娘はいない。無心で走れ」と、他メンバーのデータを教えてくれなかった。これが本当に私を集中させるための雑音切りなのか、密かに出場している強豪相手にビビらない様に気を遣ったのかは分からない。

 

 私は大外、8枠でのスタートとなる。私の様な後半スパートのタイプは、混み合う内側よりも外の方が走りやすいのだが、単純に外回りの方が走る距離が伸びる分不利だ。

 

「こんにちは。お互い頑張ろうね」

 

 ゲートインの直前、私と同じ黒鹿毛で髪をツインテールにした娘から声を掛けられた。ゼッケンには大きく『9』の文字と、その下に『ヴィブリンディ』という名前が書かれていた。私より外枠で走る娘なのね。

 

 ゲートには奇数枠から入るルールがある。その娘は私が返事をしようと口を開けた時には既にゲートに向かっていた。

 

「ヴィブリンディさんか… お返事出来なかったな…」

 

 レースが終わったら改めてきちんとお返事しよう。そう考えながら私もゲートに入る。今は眼の前のレースに集中だ……。

 

 ☆

 

 ゲートが開き9人のウマ娘が一斉に飛び出す。デイジー賞は中山レース場の1800mであり、ホームストレッチが短い中山レース場は『差し』や『追上』の脚質を持つウマ娘には仕掛け所の難しい難所だ。

 高低差の深い『中山の急坂』もスタート直後とゴール間際で私達の前に立ち塞がる。

 

 更に坂を乗り越えたすぐ先には第1コーナーのカーブが待ち構えており、カーブのルート取り、他のウマ娘との良い位置の奪い合いの駆け引き等、ゆっくりとレースをさせてもらえない。

 

 第1、2コーナーを回った所で私は先頭から6番手。流れに乗ったまま向こう正面の坂を駆け降りる。先程のヴィブリンディさんは『先行』タイプなのか大外で2〜3番手に付けているようだ。まだ全員が探りを入れている段階で、大きく動く娘はいない。そのまま大きな順位変動の無いまま向こう正面の直線から第3コーナーへと差し掛かり、この辺りで徐々に動きが出てくる。

 

 中段に控えていた娘が前に上がる為に外側に膨らむ。全員が接触を嫌って間隔を大きく取っている。

 場の荒れた内側か? 或いは遠回りの外側か? 判断が遅く仕掛けが出遅れた私は為すすべもなく前を塞がれてしまう。

 更にタイミング悪く私の後ろを走っていた娘も上がってきて私のすぐ左側に並んできた。

 

 これでは抜けられないじゃないか。一瞬の判断ミスが全てをぶち壊す、これがウマ娘レースの恐ろしさだ。視界が暗くなり脚に力が入らなくなる。これは悪い兆候だ、負ける時の兆候だ。

 昨日のバー先輩の惨敗がフラッシュバックされる。そして頭の中の映像のバー先輩の姿がいつの間にか私に変わっていく。

 嫌だよ… 私はまた負けるの…? やっぱり私なんかがティアラに挑むなんて絵空事なの…?

 

『気負わずリラックスして走れば、コスモスなら勝てるレースだと思う…』

 

 不意に新代トレーナーの声が脳裏に蘇る。そうだ、私には私以上に私を信頼して夢を託してくれる(トレーナー)がいる。その人の気持ちに、祝福して送り出してくれた家族に応える義務が私にはあるんだ……。

 

「プレオープンなんかで負けていられるかぁぁっ!」

 

 気持ちと同時に自然と声が出た。その瞬間、また『あれ』が始まったのだ。

 足元から矢印が伸びていき、私の進むべき道を示す。今度は内ラチギリギリの大内に太い線が伸びていく。そしてみるみる内に他の娘の軌道が内側から離れていき、完全に1人分の道が出来上がった。

 

 私は迷うこと無く、体を大きく内へと斬り込んでいく。さぁ最終直線、目の前にはほんの1分前に走った坂… 今度は速度が乗っている分、『壁』と見紛うほどに急な角度に見えてくる坂へと私は意を決して突進して行った。

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