咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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私が、1番だぁぁっ!!

 内ラチギリギリまで食い込んで前を目指す。第4コーナーで大きく遠心力に振られながらも最内のポジションをキープ出来た。ここからは直線、そして坂だ。

 

 私の現在の位置は4番手、先行者の中にはヴィブリンディさんも残っている。彼女が今どんな表情をしているのかは後ろからでは計り知れない。

 脚に力を入れ速度を上げる。私の『差し』はここからが本領を発揮する。

 1人抜いた所で坂になった。中山の坂対策は何度も何度も新代トレーナーとシミュレーションしたり、実地で走ったりして体に染み付いている。膝を柔らかく構え、歩調をこれまでよりも小刻みにしていく。そうする事で坂の登りやすさが格段に上がるのだ。

 

 坂の中段でヴィブリンディさんが1人抜いて先頭に躍り出る。坂で速度を落とした先頭の2人は既に私の射程内だ。

 更に私も今ヴィブリンディさんに抜かれたばかりの1人を抜く。これで私の前にはヴィブリンディさんのみ。でもヴィブリンディさんの速度がまた少し上がってくる。坂の終わり、もうゴールまで100mも無い。

 

 ここまで来て負けられない。私も息が苦しい、脚が上がらない。それでも、それでも……。

 

「私が、1番だぁぁっ!!」

 

 走る。息が苦しい。走る。体中の関節が痛い。走る。自分の体が重い。走る。体が全然前に進まない… でも、でも絶対に負けたくない!

 

 ゴールの直前にヴィブリンディさんを捉えた。今から抜けるか? それとも逃げ切られるか? 結果なんか今は考えられない。とにかく走る。走る事が私の全て。ここから勝ちまくってティアラを戴冠するのは私なんだ!

 

 私とヴィブリンディさん、そのまま2人(もつ)れる様にゴール板を駆け抜けた……。

 

 ☆

 

「ハァ、ハァ、ハァ… ゼェ、ゼェ…」

 

 全ての力を出し切った。息が続かない。視界が暗い。ゴールの後、私は芝の上に大の字になってとにかく息を整えていた。横目に捉えたヴィブリンディさんも、同様に土下座みたいなポーズで息を切らせたまま立ち上がれないみたいだった。

 

 掲示板に表示されている順位は… 写真判定みたいだ。そう思った瞬間に順位が発表された。

 掲示板の1着の位置に灯った数字は『8』、私の枠番だ。2着との着差は『ハナ』、その瞬間観客席に大歓声が巻き起こる。

 

 今日の中山レース場のメインレースはGⅡの中山記念、GⅠほどでは無いがやはり重賞だとそれなりに客の入りも多い。その分聞こえてくる拍手や歓声も大きくて多い。

 

「良いレースだったぞーっ!」

「2人共よく頑張った!」

「ヴィブリンディ惜しいーっ! また頑張れーっ!」

「コスモスキュートーっ! 連勝おめでとうーっ!!」

 

 耳に聞こえてくる声と併せて、寝転がっている芝生から大地を通じて観客席の声が振動として体に伝わってくる。

 

 やった! 勝てた! 嬉しい! もう最高!!

 

「お疲れ様… あそこから差してくるなんて凄い末脚だね〜」

 

 誰かが、まだ行儀悪く大の字に寝そべっている私の横に来て腰を下ろした。

 

「ヴィブリンディさん…」

 

 まだハァハァ息切れしているが、なんとか喋れる様になった私を見下ろす形で目が合った私達は、どちらからともなく笑顔を浮かべる。

 そこから無言のまま、だがニッコリと手を差し出すヴィブリンディさん。私はまだ力の入らない手を上げて、ヴィブリンディさんの手を取り返す。

 

 ヴィブリンディさんが「フンっ」と握った手を引っ張り上げると、その勢いのまま私は起き上がり小法師の様に立たされてしまった。

 

「ウィナーズサークル、行ってきなよ… 今日は(すっご)く楽しかった。でもその何倍も悔しい! 絶対リベンジするからまた走ろうね!」

 

「ありがとう。改めてコスモスキュートです、よろしくね。リベンジはいつでも!」

 

 ヴィブリンディさんは再度ニッコリと笑って、手を振りながら地下道へと消えていった。

 

 …何だか既視感(デジャヴュ)がある。確か前走の未勝利戦の時にも似たようなやり取りをした気がする。

 そう、あの時はメジロパラディンさんと会話を交わしたんだった。パラディンさん元気かなぁ? 凛としてて格好良かったよなぁ。あれから勝てたのかなぁ…? また会いたいなぁ……。

 

 おっと、そんな事を考えている暇はない。ウィナーズサークルでの勝利者インタビュー、そしてウイニングライブと仕事は山積みなのだ。私がボーッとしていたら、それだけ多くの関係者に迷惑がかかる。

 ようやく戻ってきた脚の感覚に神経を集中させながら、私はウイナーズサークルへと歩いていった。

 

 ☆

 

「いやぁ素晴らしかった! 予想以上だったよコスモス。中盤一瞬囲まれて『ヤバいか…?』とか思ったけど、あそこから大内に飛び込んでいった判断力と決断力は、もう脱帽としか言えないな!」

 

 控室に帰って新代トレーナーがレースの総括をしてくれる。今回はべた褒めで、私も少し面映(おもは)ゆい。

 

「この間話した《領域(ゾーン)》でしたっけ? 足元から矢印が伸びるやつ。あれがまた出たんですよ。それが無かったら多分誰かの垂れウマに引っ掛かって順位を落としていたと思います」

 

 そう、今回も謎の矢印に助けられた。あれが《領域(ゾーン)》なのかどうなのかまだ判然としないけど、私の勝利に大きく寄与してくれた事は確かだ。

 

「こうやって勝ちを重ねて自信を付けて、次のアネモネステークスもぶっちぎって行こうぜ!」

 

 新代さんも浮かれているのが分かる。やっぱり私が勝つ事でこんなに喜んでくれる人がいるのなら、もっと頑張りたい、共に夢を見ていきたいと思える。

 アネモネステークスの開催は再来週だ。正直2週間しか時間がないのはかなりキツい。場所は今日と同じ中山レース場だから、場所に応じた調整が必要ないのは助かるけど……。

 

「はいっ。次に勝てばいよいよGⅠの桜花賞ですからね。気合い入れて行きますっ!」

 

 実はアネモネステークスには無理に優勝する必要はない。2着までに入れば桜花賞の優先出走権は与えられるのだ。更に言うなら3〜4着位までに入れれば、ファン数の関係で桜花賞にねじ込める可能性もある。

 

 もちろんアネモネステークスは本日のデイジー賞より上のオープンクラスのレースであり、出走者のレベルもそれだけ高くなる。「4着くらいに入れば良いやぁ」どころか、全身全霊で打ち込んで『その結果着外』なんて事も十分に考えられる。

 

 第一トライアルレースで負けていたら、本番のGⅠでも同じ娘に負ける可能性が高いという事でもある。ならばやはり「目指すは1等賞」しかない。次のアネモネステークスでも『絶対に勝つ!』そして新代トレーナーをまた喜ばせて上げるんだ!

 

 気合を新たに入れ直して、私は本日のウイニングライブの舞台へと向かったのだった。

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