咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「ねぇコスモス、今度のドロワで私の『デート』になってくれないか…?」
デイジー賞の翌日、私はクラスで隣の席のフォーゲルフライから突然すぎる告白を受けた。
☆
『リーニュ・ドロワット』、通称『ドロワ』。学園の卒業生並びに
アメリカ式の卒業ダンスパーティー『プロム』とよく似たシステムで、意中の
アメリカのプロムが『意中の人』を誘うのに似て、ドロワも関係の深い友人や憧れの先輩に対して親愛の意味を込めて「『
個人的には恋愛の告白に等しい請願だと思っているのだが、まさかフォーゲルが私に…? えっと、それはちょっと心の準備が……。
「き、急にどうしたの? まだドロワまで結構時間あるからペア決めなんて今急いでしなくても… それに私達クラッシック級の生徒がドロワに参加するなんて普通は無いよね…?」
そうなのだ。ドロワは一般的に『卒業』か『中途退学』する「やり切った」娘の為のイベントであり、春のGⅠを控えた現役選手、特に一生に一度しかチャンスが無く、やり直しの利かないレースの続くクラッシック級の娘が関わる様なイベントではない。
「あうぅ… 実は事情があってな…」
「そこから先は私が説明するわ…」
そう言って横から現れたのは佐目毛のロングヘアのウマ娘、うちのクラスの学級委員長『アバロンヒル』だ。
切れ長の茶色い目に落ち着いた雰囲気を纏ったウマ娘で、とても同年齢とは思えない貫禄がある。ちなみに昨年のジュニア級GⅠ『朝日杯フューチュリティステークス』の優勝者で、勉強の成績も学年1位。
初見は怖そうな話しづらいオーラが出ている娘だけど、慣れるととても気さくでバカ話のノリも悪くない。更に時おり見せる笑顔は年齢相応の可愛らしさがある。
「えっと、まずは2勝目おめでとうコスモス。白熱した良いレースだったわね」
「…あっ、どうもありがとう。アバロンの次走は来週の弥生賞?」
「ええ。
次第に声のトーンが落ちていくアバロン。隣りのフォーゲルもお通夜みたいな顔をしている。一体何があったのだろう? この暗い雰囲気とドロワと何の関係があるのだろう…?
「実はね、フォーゲルが単位不足で落第しそうなのよ…」
アバロンの言葉に更に顔色を暗くして『はぁ…』とため息をつくフォーゲル。まぁ確かにフォーゲルってずっと居眠りしていて、隣の席なのにまともに授業を受けているのを見た試しが無いのだ。
マンガとかだと「授業が簡単すぎて退屈で寝ているが実は成績優秀」とか、「スポーツ特待生だから学業は免除」みたいな展開があるものなのだけれども、地方はともかく中央のトレセン学園には特待生制度は無い(在校生全員がスポーツ特待生みたいなものだし)。
「ご存知の通り
「…うん、『今度のドロワのエキシビジョンダンスで場を盛り上げてみせろ』と言われたんだ… 成功したら成績の事は生徒会が責任を持って学園と交渉してくれるらしい」
なるほど、そういう事なのね。事情は理解したけど……。
「そこまでは分かったけど、それで何故ペアダンスのお相手が私になるの? 私次のレースまで間が無いし、今から桜花賞に向けて猛特訓しないと駄目だし、ウイニングライブのダンスならまだしも、ドロワで使うようなワルツ調のペアダンスなんて私経験無いんですけど?」
自分でも驚くくらい早口で一気にまくし立てた。そりゃ確かに未勝利のまま5連敗していた時は、めちゃくちゃ落ち込んで自主退学すら視野に入れていた。本当にドロワでトレセン学園から送り出される寸前だった。
でも今は初勝利どころか、2連勝でティアラGⅠ出走に王手をかけている状態だ。そりゃフォーゲルは友達だけど、そんな大事な時期にフォーゲルに付き合ってゼロからダンス練習なんて、今後のレースに差し障るに決まっているじゃないか。
「クラスで1番私の事を知っているのはコスモスだ。私の調子に合わせられるのはコスモスしか居ないんだ…」
「ホントかなぁ…? お人好しのコスモスに厄介事を押し付けようとしてるだけじゃないのぉ? 特にアバロン…?」
私が困っているのを見かねたのか、ブロークンギアが仲裁に入ってくれた。私も薄々そんな気はしていたけど、
第一、フォーゲルは実績もあって美人で気取らない性格の為に、下級生をメインにとても人気が高い。私なんかを誘わなくても、
ギアの言葉にわざとらしく目を背けるアバロン。彼女の思惑はギアの言葉でビンゴだったようだ。
しかしフォーゲルはギアの言葉を受けても表情を変える事は無かった。
「私は本気でコスモスに『デート』になって欲しい… 追試とかそういうのは度外視して、いつもお世話になっているコスモスに恩返しがしたいんだ…」
フォーゲルは曇りの無い瞳で真っ直ぐに私を見つめてハッキリと言い切った。
☆
「…ていう事があったんですよ、どう思います?」
放課後のトレーニングタイム、私は準備運動の柔軟体操をしながら新代トレーナーに語りかけた。
「んー、でもフォーゲルの目力に負けてその場で断らずに『トレーナーと相談する』って保留にしてきちゃったんだろ? コスモス自身はどう思っているのさ?」
「『どう』も何も、在校生が踊るとなると、それなりの成績が無いとドレスを着ても笑われるだけだし、ダンス未経験で更にプレオープンで1勝しただけの私なんて出るだけ恥ですよ… それに次の桜花賞トライアルの『アネモネステークス』の為にも少しでも鍛えなくちゃ…」
そう、全てに於いて私のドロワ出場は『相応しくない』のだ。況してやドロワは卒業パーティとしてバカ騒ぎする場所ではなく、『学園を去る者』への送別や顕彰の儀式の場だ。そんな場所で私の存在は『浮く』に決まっている。
「だよなぁ… まぁ最近コスモスには『心身共に負担を掛けすぎているなぁ』とは思っていたから、何か気分転換になる物があれば良いとは思っていたけど、タイミングが悪いからなぁ…」
新代トレーナーが私を気遣ってくれている優しさをひしひしと感じる。同時に何だか悪いフラグが立ったような予感もビリビリと感じていた……。