咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「へぇ、ドロワかぁ… コスモスちゃん、また面倒くさい事に巻き込まれてるみたいだねぇ…」
夕食後、私は部屋でトッカン先輩相手に今日あった出来事を報告、もとい愚痴っていた。
トッカン先輩は完全に他人事なのを良い事に、楽しそうに私の受難を笑顔で受け止めている。
「新代トレーナーは『気分転換』なんて脳天気な事を言ってたけど、私はそんな切り替えすらする余裕がなくて… どうしたら良いのかずっと悩んでいるんですよぉ…」
そもそも社交ダンスの経験ゼロの身でエキシビションダンスを踊って場を盛り上げろ、なんて言うのは無茶振り以外の何物でも無い。
このドロワのエキシビションは本来、美浦寮と栗東寮の寮長がペアを組んで、参加者に『お手本』を示すのが通例なのだが、今年は美浦寮長のナースホルンさんが脚の怪我で踊れなくなった為に、その代役探しの一環としてフォーゲルの罰ゲームが充てられたのが真実らしい。
それならそれで栗東寮長のヤオビクニさんがフォーゲルとペアで踊れば良いのに、フォーゲルが何故か私を指定してきた、という流れだ。
帰寮してのち、ヤオビクニさんに助けを求めるも「せっかくだからやってみれば良いじゃないか」と笑顔で突っぱねられた。辛い。
ヤオビクニさんは毎日寮長としての激務に追われているし、自分のレースもあるだろうし、何より寮生としていつもお世話になっているので、御恩を感じてはいるのだけれども、やはり私には荷が重いと思う。
「まぁフォーゲルフライちゃんならコスモスちゃんが無理にペアを組まなくても、代わりの『デート』希望者はたくさん居るんじゃないのかな? いざとなればそっちに全部投げちゃうのもアリだと思うよ?」
「ですよね! フォーゲルは特に下級生の娘達に人気あるから、そっちに任せるのもアリですよね?!」
やはりトッカン先輩は『分かっている』。私は私で忙しいのだから、悠長にイベントスタッフなどやっている暇は無いのだ。
「でも、確かに新代さんの言う通り、最近コスモスちゃん張り詰め気味だから、少し気分を変えないとプレッシャーで潰されちゃいそうな気が私もしてるよ…」
「そうですかねぇ…?」
自分ではあまり無理をしているつもりは無かったのだが、トレーナーや同室のトッカン先輩にそこまで心配させてしまっていたのかと少し反省する。
「コスモスちゃんはとりあえず、答えを出すのは次のアネモネステークスの結果が出てからでも遅くないんじゃないかな? 次勝てればGⅠの桜花賞だから断り易いし、負けたら次の目標のためのローテーションを組み直す事になるからスケジュールは都合付けやすくなるし…」
なるほど、トッカン先輩は『分かっている』。確かに次で勝てば憧れの桜花賞だから、この話を堂々と断れる。負けたら… の話は今は考えたくないぞ! もう絶対に勝つ! それでドロワの話もキッパリお断りする! よし、それで行こう!
発破をかけた自覚があるのか無いのか、トッカン先輩は1人で闘志を燃やす私をニコニコと見つめていた。
☆
翌週は我がクラスの学級委員長、アバロンヒルが出走する『弥生賞』だ。ここでアバロンは見事に優勝し、めでたくクラッシック級GⅠ緒戦の『皐月賞』への切符を手に入れた。
正確に言うなら昨年の朝日杯を勝っているアバロンは、無理に弥生賞に出なくても無条件で皐月賞に出走出来るのだが、『中山レース場』の『2000m』という
そしてアバロンの優勝とは別に、ここで特に気になったのは3着に入った『エバシブ』というウマ娘だった。
透き通る様な白毛ボブカットの娘で、肌も真っ白、影もムラも何も無い。本当にこんな綺麗な白毛さんは見た事が無い。
ただその白い顔の上半分はバイザー状の黒い遮光グラスを装着していたので、目元の表情は伺い知れなかった。そんなミステリアスな『仮面のライバル』に少しドキドキしてしまう。
しかし彼女の最大の特徴はその特異な外見ではなかった。何より驚かされたのが、弥生賞の2000mを走り切ってもまるで息を切らせていないスタミナで、トッカン先輩と同じくらい華奢な体格なのに、アバロンや2着の娘がレース直後にゼーゼー息を整えている所に、サイボーグみたいに何事も無かったかの様な涼しい顔で通り過ぎて、控室に帰って行ったのだ。
あれはまだ余裕がある… というよりも私には「敢えて力をセーブして、皐月賞への優先出走権の与えられる3着以内に入ってみせた」という風に見えた。
もしもそれが本当なら重賞、しかもGⅡでそんな舐めプレイを出来る人が居るなんて、このトレセン学園という学校は本当に恐ろしい所だ……。
このエバシブさんにアバロン、そしてフォーゲルを交えた今年の『皐月賞』、一体どうなってしまうのか? 他人事ながら今から震えが止まらない。
☆
「こんにちはコスモスキュートさん、お久しぶりです」
「あー、メジロパラディンさん! あれから勝てたんですね、良かったです!」
更に翌週、今度は私の桜花賞トライアルであるアネモネステークスの日となった。
快晴の中山レース場の地下馬道、私は前々走の未勝利戦で戦ったメジロパラディンさんと再会していた。
メジロパラディンさん… 栗毛のショートカットがとても可愛らしいウマ娘、確認していないが恐らくは名門メジロ家のお嬢様だ。その涼やかな微笑みは、私との勝負に負けてなお高潔な精神を表す様に光り輝いていた。
トレセン学園は女子校なので、成績優秀者や見目麗しい先輩を男子に見立てて『ファンクラブ活動』や『擬似恋愛』を楽しむ風潮がある。
私も結構ミーハーなので、カッコ良いウマ娘は純粋に好きだしファンになる。3年連続で年度ごとの最優秀ウマ娘になったツキバミさんを始め、速い先輩は粗方大好きだし、もちろんトッカン先輩やカルチャー先輩もアスリートとして大ファンだし尊敬している。
正直メジロパラディンさんは私より小柄で顔つきも美少女なのに、何て言うか醸し出すオーラがめちゃくちゃイケメンでカッコ良い。
先週のエバシブさんが『仮面のライバルキャラ』ならメジロパラディンさんは『正統派主人公』の立ち位置だ。
そんな某歌劇団の男役の様な凛々しさに私は彼女に『恋』に似た憧れの感情を一方的に抱いていた。
加えてウマ娘なら知らぬ者はいない、名門「メジロ家」の御曹司… もといお嬢様となれば、属性的には『王子様』と言っても過言じゃないと思う。
あれ…? でも私、ここ何年かメジロ家のどうこうって話を聞いた事が無いな… 入学してからメジロのウマ娘の活躍はおろか、レースを走っているという話すら聞いた事が無かった様な…?
「ええ、私はメジロ家の『最後の希望』ですからね。ここから先は全てのレースで勝ち抜く所存です。なのでコスモスキュートさん、早速リベンジさせて頂きますからね!」
「最後の、希望…?」
メジロパラディンさんは気になる言葉を残したまま、半分冗談、半分本気の顔を見せてニコリと笑顔を作り、先にパドックへと歩き出して行った。