咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
前レース出走者によるウイニングライブは、レースと次レースの間の約30分の間に行われ、レース後15分以内に観客席の脇に併設されているウイニングライブ専用の小ステージに集合しなければならない決まりがある。
今日は悔しさと悲しさで無駄な時間を費やしてしまったので、もう時間はギリギリだ。ステージの遅刻はチームぐるみでペナルティ対象となるので、おちおち泣いてもいられない。
…いや、逆だな。こうやってウマ娘を追い立てないと、いつまでも負けたショックを引きずって、後に悪影響を及ぼす娘が出てくる可能性が高いから、強制的に気持ちを切り替えさせているのだろう。
そんな訳で私は今、大急ぎでライブ用の衣装に着替えている。
ライブ衣装はレース直後に会場スタッフの手によって各選手の控室に届けられる。1〜3着まではセンター用の衣装である『STARTING FUTURE』が届けられ、それ以降は青と水色を基調とした上下に別れたビスチェ風の上着とショートパンツという、お馴染みの名もなきバックダンサー用のライブ服が届けられる。
今回13着だった私の控室の机には、当然バックダンサー用の服が置かれている。ウマ娘には色々な身長や体型の娘がいるから、各会場にはどんな体型の娘でも着られる様に無限のサイズバリエーションがあると噂されている。
センター用もバック用も服が上下に分かれているのは、きっと上下で使い分ければ色んな娘に対応できて便利だからなのだろう。
ま、それはともかく今は急いで支度をしよう……。
☆
「メジロパラディンさん、優勝おめでとうございます。私の分まで『桜花賞』頑張って下さいね!」
そう、私は自分の気持ちの処理だけで精一杯で、レースの順位とか確認している暇が無かった。私がやや遅れてステージに到着した時に、ステージのセンターの立ち位置のバミリをパラディンさん達が確認していたのだ。そちらが一段落付いたタイミングで声を掛けてみた。
「ありがとうございます、コスモスキュートさん。貴女のその『想い』を
何の
ウマ娘のステージに基本リハーサルは無い。レースの結果が確定するまで各々の立ち位置も不定なら、次のレースのウイニングライブ用に早急にステージを済ませて退散しなければならない。とにかく時間が無いのだ。
なので私達は『
だから実際のライブで初めて会う人達とユニットを組んでも、全く混乱することなく円滑に『
敗者は勝者に祝福を送り、勝者は敗者に敢闘への称賛を送る。そして勝者も敗者も等しく応援してくれた観客達に惜しみなく感謝の念を顕すのが、トレセン学園で教えられる私達のウイニングライブだ。
☆
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ〜」
「お先に失礼します…」
「また勝負しようね〜」
「次は負けねぇからな!」
ライブが終了し、出演者達は三々五々散っていく。ターフの上では互いにバチバチに火花を散らす敵同士だが、ライブを共演すればそれはもう『仲間』で『戦友』だ。『負けて悔しい』気持ちもライブの後には幾分か
同じレベルの同期だから、今後何度も本気でぶつかり競い合う事もあるに違いない。それでもレースが終われば恨みっこ無しのノーサイド精神でいられるのは、ライブの『戦友効果』に加えて、ウマ娘が総じて脳天気な性格をしているからだと思う。
今日のレースだって自分の力不足を嘆く事はあっても、私の前を塞いでいた誰かさんを恨む気持ちはこれっぽっちも無い。彼女だって懸命に走っていたのだし、『勝ちたい』気持ちは同じだったはずだから。
ウマ娘って本当に
☆
さて全てが終わった後は本日の最終戦である次走のシニア級のダートプレオープン戦を観覧するも良し、早々に学園に帰って反省会するも良し、あるいはレース場内の食堂や西船橋の町中で何かおやつを摘むも良し、だ。
控室で制服に着替えて、トレーナー用の休憩室で待っているはずの新代トレーナーに「終わりました」とLANEを飛ばそうと外に出た所で、廊下でばったりとスマホを持ったメジロパラディンさんと出くわした。恐らく私と同様に着替えてトレーナーさんと合流しようとしていたのだろう。
「あ、お疲れ様でした。メジロパラディンさん歌お上手ですよね」
「あは、ありがとうございます。歌うのは小さな頃から好きだったんです…」
などと当たり障りのない会話を交わす。そのまま「じゃあまた」と別れても何の問題も無かったのだけれど、私は急に湧き上がってきた衝動を抑える事が出来ずに、パラディンさんに己の心をぶつけてしまった。
「あの… ずっと気になってたんですけど、レース前に『メジロ家最後の希望』とかおっしゃってましたよね? あれってどういう意味なんですか…?」
パラディンさんは一瞬驚いた様に目を見開いて私を見ると、その後彼女には似合わない自嘲的な微笑みを見せて口を開いた。
「ごめんなさい、私の余計な一言で貴女の心を乱してしまいましたか… そんなつもりは無かったのですが…」
パラディンさんは彼女の一言の意味を気にして私がレースに集中出来なかったと勘違いしている様だ。一応フォローしておこう。
「あー、それは無いです、安心して下さい。単純に私が気になっただけなので… もちろん言いたくない話なら無理には聞きませんけど…」
パラディンさんは安心した様に、私の返答にニコリと優しい笑顔を見せる。その後「う〜ん」と少し考える素振りを見せて、再び口を開いた。
「隠す事でも大した話でもありませんし、業界では割と有名な話なので既にご存知かと思っていましたから、敢えて細かく申しませんでした。家の恥なのであまり
パラディンさんは少し困った様な、それでいてイタズラっ子っぽい不思議な顔で私を見つめて来た。
私は無言のままコクコクと頷く事しか出来なかった……。