咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「でもコスモスちゃんが元気になってくれて良かったよ。一時はそのまま走りを辞めちゃいそうな雰囲気だったから心配してたんだよ…?」
感謝祭の翌日、私達の住む
昨年のスプリングステークス(GⅡ)の覇者であり、クラッシックGⅠである皐月賞と日本ダービーでは共に5着と掲示板入り、菊花賞ではなんと3着に入っている強豪ウマ娘、全国から天才が集まり
感謝祭のステージでも抽選で無作為に選ばれた私と違って、己の実力で昨年のクラッシック級の選抜18人の中に名を連ねている。私にとっては憧れの存在だ。
「はい、ご心配をおかけしました。雰囲気暗くしちゃってごめんなさい。でももう大丈夫ですから!」
私の返答にトッカン先輩は「うん!」と心底嬉しそうに微笑んでくれた。
一応先輩なんだけど、普段のトッカン先輩はその控え目で大人しい性格と小柄な体格で、何だか『妹』みたいな錯覚を抱く事がある。最愛の妹にこんな可愛らしい顔で微笑まれたらキュン死してしまうではないか。先輩だけど。
「歌謡祭のおかげだよね! 大勢のお客さんの前で歌うのは緊張するけど度胸つくもんね。私も以前はライブとか恥ずかしかったけど、やっぱりお客さんから元気を貰えるから今は大好き! とにかくコスモスちゃんが元気になってくれて嬉しいよ!」
実は『元気になった』というのは少し違う。私の心の片隅にはスターウマ娘への嫉妬と羨望が渦巻いている。今まで敗北続きでそれらが表面に出てくる暇が無かっただけだ。
そのマイナスの感情は、私の為に無邪気な笑顔で喜んでくれている、目の前の『大好きで尊敬している』はずのトッカン先輩にすらも向けられている。
『やいこら、スターウマ娘ども! お前ら全員レースで負かして泣かせてやるからな!』
そんな暗い情熱が私の心の奥底から沸き上がってくる。
いつかはトッカン先輩とレースで戦って打ち伏せたいという欲望を抑えきれずにいる自分の変わり様に自分で驚いている……。
☆
「さてコスモス、君は『無茶でも何でもする』とは言ってくれたが、本当に無茶をして故障してしまっては元も子もない。一応ここから『全勝する』前提でスケジュールを組んでみた。聞いてくれ」
「はいっ!」
翌日の放課後、私はトレーナーと今後について話し合っていた。
この人は『
性格は優しくて理知的。いつも私の体調や心情を考えてトレーニングや出走レースの選択をしてくれる。
正直とてもやりやすいトレーナーさんだ。だからこそ連敗から抜け出せないのが余計に申し訳なくなる……。
「まずは2月頭の未勝利戦、府中の芝の
「はいっ!」
レースの仕組みは複雑ではないが、とても過酷だ。
デビューした娘は『まず1勝』が課題となる。新馬戦、或いは新馬戦で優勝出来なかった娘達の再チャレンジの場である未勝利戦。これらで『まず1勝』を上げなければ次のステップには進めない。
次のステップとは『ファン数増加』だ。勝ち星を上げてもファン数が一定値以下のウマ娘はグレードの高いレースには出走出来ない。
今の私のファン数は978人、連敗続きでも2着とか3着になればちょこちょこファンになってくれる人はいるらしい。ただ実際に私本人に「コスモスキュートのファンです」と言ってきた人は居ないので、その大半は私の地元の徳島の人達なのだろう。
「コスモスの弱さは心の弱さだった。それを自分で気付けた事はとても大きな意味がある。君は元々『速い』んだ、『勝てる』ウマ娘なんだ。ここから先は今までの鬱憤を晴らすつもりで快進撃していくぞ!」
「おーっ!!」
そうだ、私は『速い』。地元では誰も私に追い付けなかった。文字通り『最速』だった。
だから『天狗』になっていた。中央トレセン学園でも私は『最速』になれると思いこんでいた。
だがその『自信』、いや『
クラスの全員が私よりも速くて強かった……。
かつて味わった事の無い敗北と絶望感、四国の田舎でイキって『最速』などと
それ以降、レースの踏ん張り所で弱気になって競り負けてしまう癖が着いてしまった。そのせいでデビューから5連敗、親戚や友人からは「中央が厳しいなら四国に帰って高知のトレセン学園に入り直せば?」などと言う屈辱的な心配までされる始末だ。
だがそれももう終わりだ。レースに勝つのは最も強く『負けたくない』と念じたウマ娘なのだ。
かつて敗北を知らずに生きてきた私は、ここトレセン学園で生まれ変わった。同期の中では『敗北を知る』ウマ娘のトップ5には入っているだろう。敗北を知るにはもう充分すぎる。これ以上は必要ない。
私は今、これまでの人生の中で最高に『勝ちたい!』と願っている。この思いの丈を全て余すところなく次の『未勝利戦』にぶつけてやるんだ。
あーっ、もう! 次のレースが楽しみで仕方ない!!