咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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『この世界』舐められたらお仕舞いですもんね!

 私とフォーゲルとの模擬レースの実施が決まってしまった… もちろん私だって座して黙していた訳では無い。クラスの担任やチーム間の協議も踏まえて、各方面に必死に中止を働きかけた。

 

 だが相手(フォーゲル)は昨年の『最優秀ジュニア級ウマ娘』であり、来月の皐月賞での優勝候補でもある。

 そんな彼女が『単位不足で落第』などという不名誉な処置を受ける事は、私も含め誰も望んでなどいない。

 

 担任の呉林(くればやし) 美香子(みかこ)先生には「お願い、今回だけでいいから協力して」と手を合わせられたし、我がチーム〈ミザール〉の山西チーフトレーナーも「フォーゲルフライってチーム〈マルス〉のエースだよな? 今のうちにマルスの連中に恩を売っておくのも悪くないんじゃねぇか?」と止めるどころかノリノリだ。

 

 全く… どいつもこいつも私の敵か? 私の味方はいないのか?! 最優秀ウマ娘がそんなに大事か?!! もう人類全て滅んでしまえば良いのに!!!

 

 半ば絶望して死んだ目をしていた私に声を掛けてきたのは意外な事にオオエドカルチャー先輩だった。

 

「ねぇコスモス、アンタそんなにフォーゲルフライと踊りたくないなら、その模擬レースに勝ちゃあ良いんだよ」

 

 うぐっ… 確かにそれこそ真にして正なのだけれども、私とフォーゲルの実力差から言って、そう簡単な話でも無いと思うのですよ……。

 

「結局アンタが舐められてるからそんな展開になるんであって、勝てば誰も文句は言わないっしょ。それがトレセン学園のルールだし、何よりアンタ自身は舐められたままで良いのか?」

 

 だそうだ。うう、御高説ごもっともなのですが、彼我の実力に差があり過ぎて… って、そこでもう気持ちが負けてるんだよな私は。

 私がデビューから連戦連敗だったのは『気持ちが負けていた』からだった。『絶対に勝つ、相手が誰であっても!』の気持ちを持ち続けないと、この先のレース人生だって尻すぼみで終わってしまうに違いない。

 

「そうですね。先輩の言う通りだと思います… 『この世界』舐められたらお仕舞いですもんね!」

 

「ヤクザかよ…」

 

 私の決意に鼻で笑って茶々を入れるカルチャー先輩。なんだよぉ? そっちが発破かけてきたんだろうにさぁ……。

 

 まぁ、カルチャー先輩からの叱咤激励は意外ではあったけど、私のことを少しは気にかけてくれているんだと分かって安心した。

 

 カルチャー先輩が常に持つ『勝利に対する貪欲さ』は素直に尊敬しているし、それは私にも必須の要素だと思う。性格的な面では合わない部分も多々あるが、ウマ娘として誇らしげに『在るべき姿』を体現している人でもあるので、嫌いにはなれない不思議な先輩だ。

 

 ☆

 

「フォーゲル先輩頑張ってーっ!」

「フォーゲル先輩格好いいーっ!」

 

 模擬レース当日、校内の私的なレースなのに妙にギャラリーが多い。それだけフォーゲルが注目を集めているランナーであるという事だ。

 

 特にフォーゲルは下級生からの人気が高い。背が高く、芦毛で、綺麗な顔立ちをしていて、それでいてどこかトボけた様な性格で、決して感情的にならずにいつも穏やかな表情をしている(これは大半は寝惚けているだけなのだが)。ファンが多いのも頷ける。

 

 現に見物に来ているギャラリーの大半は、フォーゲルの応援だ。

 

 一方の私はと言うと……。

 

「対戦相手の娘、フォーゲル先輩からの誘いを受けているのにそれが嫌でレース勝負になったらしいよ」

「なにそれ? フォーゲル先輩にダンス誘われるだけでも超幸せじゃん。それを断るとかナマイキな女…」

「だよね~、今からでも私と代われば良いのにね、あの()()

「キャハハ、受ける〜。確かにコスモス先輩デブってるよね〜」

 

 これである。ウマ娘の聴力舐めんな、聞こえてんぞコラ。ていうか絶対聞こえる様に話してるよね? メッチャムカつくんですけど? そりゃ胸とか尻とかに余計なお肉が少々付いているのは否定しないけど、そこまで言うこと無くない? あたしゃ仮にも先輩だよ?

 

 まぁトレセン学園は生徒個人の『本格化』の時期によって走る年度が変わってくる。「学年では先輩なのに走るクラスは後輩になる」とかザラに有る話だ。

 

 現に私のクラスでも5人ほどが本格化の遅れから、私の様なクラッシック級ではなく1年遅れるジュニア級でデビューを控えているし、ローゼスストリームという娘は本格化が早くて今はシニア級を走っている。ちなみに昨年末の阪神カップ(GⅡ)の優勝者だ。

 

 なので所謂『先輩、後輩』の関係が学年に固定されずに流動的な活用をされる事があり、混乱の原因になっている。

 私の悪口を言っていた娘も、学年では下でも私と同じクラッシック級、あるいは先輩なシニア級である可能性もあるという変な話なのである。

 

 そんな私にとってのアウェイ感満載な場所で不意に聞こえてきた声があった。

 

「コスモス先輩、頑張れーっ!」

 

 振り向くとそこには、黒鹿毛の髪を肩で切り揃えたウマ娘が元気そうに手を振っていた。知らない娘だ……。

 知らない人に応援してもらえるってのは地味に嬉しい。自分の存在が自分の周囲以外からも認められている、という事だからだ。周りが敵だらけのこの模擬レースで、一縷の光を見た気がした。

 

 よし、今日の私はあの娘の為に走ろう。名も知らぬ後輩の為に必ず勝利を掴み取る。例え相手がフォーゲルでも。

 

「そろそろ良いか?」

 

 フォーゲルが私の隣にやって来る。良いも何もこっちはずっと待ってるのよ?

 そう嫌味を言ってやろうとフォーゲルに振り向いた時に、私は雷に打たれた様な衝撃を受けた。

 

 今隣りにいるフォーゲルは、いつもの寝惚けた緊張感皆無のフォーゲルではない。纏った雰囲気からして別人で、鋭い眼光は鋭利な刃物の様であった。

 これが『本気のフォーゲル』なのね… 普段とのギャップが凄すぎる。これが最優秀ウマ娘の持つ(オーラ)……。

 

「…いつでもどうぞ」

 

 …気圧されていた。完全に声が上ずっていたと思う。

 

 成績にも関わらない、たかが模擬レースと侮っていた。でも少なくともフォーゲルには全身全霊で打ち込むレースだったのだろう。

 

 あれほどキャーキャー言っていたギャラリーも一瞬でこの雰囲気を察したのか、不自然なまでのタイミングでコースに沈黙が訪れた。

 

 芝1600m右回り、私の得意なコース。フォーゲルの右手からコインが弾かれて宙を舞う。コインの着地と同時に私とフォーゲルは並んでスタートを切った。

 

 ☆

 

 結果は『惨敗』だった。「先行」するフォーゲルに終始追いつく事すら叶わずに、私の「差し」脚は全くの良い所無しで、まさにレベルの違いを見せつけられた。

 

 正直、勝てないまでももう少しまともな勝負になると踏んでいたのだけれども、改めてフォーゲルという娘の、いやトレセン学園という魔窟の底の深さに打ちのめされる結果となってしまった……。

 

「やったーっ! 勝ったぞーっ!」

 

 無邪気に飛び跳ねて勝利を喜ぶフォーゲル、そしてその姿に黄色い声援で湧き上がる観衆。

 それこそGⅠで勝っても見せなかった満面の笑顔で、子供の様に喜びを表すフォーゲル。こんな彼女は初めて見る。そこまで嬉しかったの…?

 

 トホホ、これでドロワのデビュー決定か… イベント本番は約2週間後の再来週末だ。それまでに恥をかかない程度には、ダンスの振り付けを覚えなくてはね……。

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