咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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応援してくれた貴女の声、聞こえていたよ

「ハァ、ハァ…」

 

 フォーゲルとのレースが終わって、膝に両手をついて息を整える。

 あー、もう! 悔しいなぁ! レースに負けた事も含めて厄介事が増えた事も腹立たしいし、フォーゲルには何人もの後輩が取り囲んでタオルや飲み物を差し出している。

 

 一方の私は勝負に負けて落ち込んだ気分を更に落とすべく、だぁれも寄って来ない。それこそレース前に耳に入ってきた会話じゃないけど、フォーゲルは『希望を叶える為に正々堂々勝利を勝ち取ったヒーロー』で、私は『自身の我が儘で友人を見捨て、挑まれた勝負で惨めに負けた悪役(ヴィラン)』という扱いなのだろう。

 

 トレセン学園は実力主義の世界でもある。『速い奴が偉い』『勝った奴が偉い』という価値観が、どのウマ娘の根底にも流れているのは否定出来ない。

 もちろん校内の模擬レース程度で、ここまで扱いに天地の差が出る事も珍しいだろう。ホントムカつく!

 

 これは単にフォーゲルの人気がある事に加えて、『私が嫌われている』という事があるのだろうか…? いやいやそんなはずは無い、よね…?

 だって私、後輩に嫌われる様な事してないはず… っていうか、崇拝対象の敵キャラは必要以上に憎まれる『女子あるある』なのかなぁ…?

 

「お疲れ様でした。コスモス先輩負けちゃったけど、あのフォーゲル先輩相手に結構粘った方だと思いますよ?」

 

 半分前屈姿勢で地面を見ながらネガティブ思考に陥っていた私に、誰かが声をかけてきた。

 その声には聞き覚えがある。レース前に私に向かって「頑張れ」と応援してくれた娘だ。

 

 顔を上げてその娘を見る。毛先の跳ねた黒鹿毛ミディアムのウマ娘、やはり知らない娘だ。誰なのだろう? もしかして私のファンとかだったり…?

 

「ありがとう。私を応援してくれた貴女の声、聞こえていたよ。期待に応えられなくてゴメンネ… ええっと…?」

 

 たった1人でも味方がいてくれる事が嬉しくて、心の底からの笑顔が出せた。第一、応援してくれた人の前でブスくれた顔は出来ないもんね。

 

「あ、初めまして。私『ウイッシュブリンガー』っていいます! 今ジュニア級で8月頃にメイクデビュー予定です!」

 

 と元気に自己紹介してくれた。『願いをもたらす者(ウイッシュブリンガー)』かぁ、素敵な名前だね。

 

「うん、よろしくね。貴女の声援のおかげで私も頑張れたよ。応援が無かったらもっと差が開いてたと思う…」

 

 これは嘘ではない。たとえ少数でも応援の声は立派な心に依りどころになる。

 

「あはは… いやぁ、私1人の声じゃ大したブーストにはなりませんよね〜」

 

「それでも1と0とじゃ大違いだから。ところで貴女はなぜフォーゲルじゃなくて私を応援してくれたの?」

 

 そうなのだ。たった1人でも応援してくれる声があるなら、その1人の為に走るのがウマ娘だろう。

 ちなみに後半の質問は自意識過剰と思われるのが怖くて聞くのが躊躇われたのだが、やはり好奇心が勝ってしまった。

 

 ここで面と向かって「コスモス先輩のファンなんです!」とか言われたらどうしようかなぁ? ちょっとドキドキしてきたよ……。

 

「あ… いや〜、お二人のどっちが勝つかで友達と『賭け』してまして… それで私はコスモス先輩に賭けてたんすけどねぇ…」

 

 悪びれずにしれっと白状するウイッシュブリンガーちゃん。なんじゃそりゃ? 賭けのダシに使われただけでファンでも何でも無いって事?! ガックリ。なんかメッチャ落ち込んだ。

 あと他のウマ娘の競走を賭けに使うのは、ジュース1本でも犯罪だからね? 

 

「あ… そう、なんだ…? じゃ、じゃあ私はもう行くね。今日は応援ありがとうね」

 

 ウイッシュブリンガーちゃんはまだ何かを話したそうにしていたけど、落ち込みに追撃をかけられた私はその場から逃げるように離れるのが精一杯だった……。

 

 ☆

 

「そっかぁ、コスモスちゃんも大変だねぇ。私も何かお手伝い出来れば良いんだけど…」

 

 夜、同室のトッカンクイーン先輩との雑談で、今日の模擬レースの話になる。先日も似た様な会話をしたが、前回は『あらあら大変ねぇ』と半分笑顔で軽く流していたトッカン先輩も、今回は心底同情してくれている顔をしている。

 

「いえいえ! トッカン先輩は今度の日曜日には久々のレースじゃないですか。私の事なんか気にせずにブッチギってきて下さいよ!」

 

 そう、次の日曜日には阪神レース場で、3000mのGⅡである阪神大賞典が行われる。トッカン先輩は昨年末の有記念以来、ほぼ3ヶ月ぶりのレースになる。

 

 3000mというロングランは、5月頭に行われる春の天皇賞 (3200m)の前哨戦としての意味が大きい。すなわちトッカン先輩の次の目標は天皇賞という事だ。

 

 気分が落ちている時の回復方法はレースで勝つのが一番だ。自分が無理ならこの際仲の良い誰かでも構わない。

 トッカン先輩の勝利なら私は自分の事の様に喜べるだろう。それが私の落ち込み解消に繋がるはずだ。

 

「そりゃもちろん頑張るけど、ブッチギれるかどうかは結構厳しいよ…」

 

 私も阪神大賞典の出走表は見せてもらったけど、チームのオオエドカルチャー先輩を始めとして、ツキバミさん、ブラックリリィさん、クリスタルセイバーさん、スズシロナズナさんといった面々は再来週の大阪杯 (GⅠ)を照準にしている様で、阪神大賞典には出ていない。

 

 かと言って実力的にスカスカなレースなのかと言うととんでもない話だ。

 今回の阪神大賞典での有力メンバーは、連覇を狙う昨年の覇者にして秋の天皇賞を2連覇、次は春の天皇賞に狙いを定めた生徒会長のトウザイブレイカーさん、そして昨年の菊花賞覇者のスメラギレインボーさん、一昨年の朝日杯フューチュリティステークス覇者のパッションオレンジさん、そしてトッカン先輩… 他にも多数のベテラン長距離(ステイヤー)勢が軒を並べている。

 

 うーむ、確かにツキバミさんやブラックリリィさんが出ないからと言って安心できるメンバーじゃないな……。

 

「もう1年レースに勝ててないから頑張らないとね…」

 

 自嘲気味に笑うトッカン先輩。確かに昨年のスプリングステークスを最後に勝ち星の無いトッカン先輩だけど、でもそれはクラッシックGⅠを始めとする過酷な頂点のレースにばかり出走していたからで、トッカン先輩に力が無い事にはならない。

 実力は確かなのだから、トッカン先輩にもそろそろGⅠのトロフィーを獲って欲しいと、私も切に願っている。

 

 そして来週の高松宮記念から芝のレースでもGⅠ戦線が始まる。

 高松宮記念にはクラスメイトのローゼスストリームが出走するし、翌週の大阪杯にはカルチャー先輩が、そして私が出走を逃した桜花賞にはパラディンさんが、皐月賞にはフォーゲルやアバロンが、更には天皇賞にはトッカン先輩がそれぞれ出走する事になるだろう。

 

 向こう1ヶ月、天下のGⅠのほとんどに私の知り合いが出る。私が自慢する事じゃないのは分かってるけど、改めて私の周りは『凄いウマ娘』ばかりなのだと思い知らされる。

 天皇賞 (春)と同じ日には私のレースもあるんだ。私だっていつかは夢のGⅠに届いてみせるよ!

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