咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
そしてあっという間に週末、今日は高松宮記念の日だ。高松宮記念は中京レース場で行われる芝1200mの
ウマ娘レースは大きく分けて『短距離』『マイル』『中距離』『長距離』の4種の距離による分類がある。
私が得意としているのは『マイル』から『中距離』とされる1600〜2300m、ちょっと頑張って2400mといった所だ。
それより長いと急激にスタミナを浪費し速度がガタ落ちする。逆にそれより短いと末脚が機能する前にレースが終わってしまう。
というのも、ウマ娘には『距離適性』という物があって、「短距離が得意」とか「長距離が得意」とかの個人差がある。こればかりは生まれ持った才能が大きく作用し、自分の適性に合わない距離はいくらトレーニングを積んでも『距離の壁』として大きく立ち塞がる事になる。この壁を打ち破るのは並大抵の事ではない。
普通のウマ娘でも隣り合った2つの適性くらいは融通が効くのだが、3つの適性を持つ者は稀で、4つ全てに適性があるウマ娘など、人類の永い歴史の中でもほんの数人だと言われている。
そして実は短距離に適性のあるウマ娘は意外と少ない。
ウマ娘も然りで、『距離が短いから簡単に走れるだろう』と思われがちだが、全くそんな事は無いのだ。
☆
「このローゼスストリームって娘はコスモスのクラスメイトなんだよな? じゃあ頑張って応援しようか」
「はい。彼女、凄い努力家なのでGⅠ獲って欲しいです」
先日の溜め息ハモリ事件から、私と
現シニア級にはトッカン先輩やカルチャー先輩がいるけれど、クラッシック路線を走ったトッカン先輩や、ティアラ路線だったけど私に良い感情を持っていないカルチャー先輩とはまた違った話が聞ける貴重な人材だ。
もっと早く仲良くなっていれば良かったよ。
今日の休日出勤担当は新代トレーナーで、今は2人でレースのテレビ中継を見ている。
本来、学園に住んでいる私達ウマ娘の緊急時対応の為に事務所に詰めているトレーナーだが、今日はドロワのダンスレッスンで遅れがちな私のトレーニングカリキュラムの補習まで付き合ってもらった。本当に申し訳なくて頭が上がらない。
しかも嫌な顔一つせずにニコニコと「担当なんだから当たり前だろ。最近のコスモスは前より明るくなったから、俺も一緒にいて楽しいよ」なんて言ってくる。
まさか神かな…? 新代さんがトレーナーで本当に良かった。よく『新代は甘いんだよ』なんて内外から言われたりするが、その甘さに私は救われた。彼が担当じゃなかったら私は今頃学園を去っていた。
さて、中央でのGⅠレースは年末のホープフルステークスを除き必ず日曜日になる。トレセン学園は基本カレンダー通りの運行になるが、トレーナー達はレースの随伴で土日でも地方に移動する。
中央には学園2000人の生徒の半数に担当トレーナーが居るとして1000人、複数のウマ娘を担当している人も居るからまぁ数百人のトレーナーが常在している計算になる。
一応学園内にその数百人を収められるトレーナー用の寮があるのだが、男女に分かれた独身寮である為に、家庭持ちのトレーナーは学園外部に住居を持ち通勤する事になっている。
自分で言うのもナンだけど、ウマ娘の世話って本当に大変だと思う。思春期の女の子には色々な誘惑があるし、しかも中央なんて全員が全員エリートとして入学した鼻っ柱の強い娘ばかりだ。
普通に接するだけでも気を遣うし、まして言う事を聞かせるなんて難易度が爆上がりでしょ。それでも新代さんは私を選んでくれた。信じてくれた。私も彼を信じて
そんな事を考えていたらレースの時間が近付いてきた。さすがにGⅠともなると豪華メンバーが揃い踏みとなる。
一番人気は昨年マイルGⅠを2勝しているオカメハチモク先輩。続いて芝とダートの両方でGⅠを獲ったドキュウセンカン先輩、そしてヘラクレスビート先輩やファイヤーブレス先輩といった短距離のエースが居て、最後に我が級友ローゼスストリーム。
「何度見てもドキュウセンカンは迫力あるなぁ。秋月さんみたいな身長と体格しているのに、これで高校生だってんだからなぁ…」
新代さんがポツリと呟く。そう、ドキュウセンカン先輩は男性ボディビルダーと見紛う体格のマッチョなウマ娘で、レース競技は苦手そうに見えるのに、華麗な『逃げ』で観客を魅了するレース巧者だ。
パドックでのお披露目も終わり、程なく本馬場入場からゲートインとなる。あのゲートはドキュウセンカン先輩にはかなり窮屈なんだろうな……。
レースが始まる。ドキュウ先輩が『逃げ』て、オカメハチモク先輩が最後尾に着く見覚えのある展開。『先行』のローゼスは6番手に着けている。後半に追い上げてくるオカメハチモク先輩対策だろう、全体的にかなりペースが早い。
短距離レースは展開が早い。あっという間に第3コーナー、現時点でドキュウ先輩は2番手に8馬身差を着けている『大逃げ』状態。ローゼスは追いつけるかな…?
第4コーナーを回って直線に入る。中京レース場は東京レース場とほぼ同じ長さの長い直線と、中山レース場とほぼ同じ勾配の急坂が待ち構えるコースだ。
東京と中山は私も何度も走っていて勝手は知っている。その両者の面倒くさい部分を併せ持つのが中京レース場の特徴だ。
直線に入ってオカメハチモク先輩にターボスイッチが入る。これが噂に名高い『風林火山』か… 他の娘も速度を上げているはずなのに、1人だけ違う競技をしているみたいに見事なゴボウ抜きを見せてくる。
ローゼスもかなり加速して2番手に上がってくる。『大逃げ』で体力を消耗したドキュウ先輩との差が縮まるが、それでもまだ5馬身ある。『逃げ殺しの坂』でどれだけ差を縮められるか…?
逃げるドキュウ先輩、すぐ後を追うローゼス、案の定ドキュウ先輩は坂で失速するが、これまでの貯金が大きくローゼスは追い付ききれない。
そうこうしているうちに外から上がってきたオカメハチモク先輩が信じられない速さで2人を射程に収める。
結果、ゴール直前まで粘ってトップを走っていたドキュウ先輩をゴール手前20mで抜かしたオカメハチモク先輩が優勝。ローゼスは奮闘虚しく2着のドキュウ先輩より3馬身遅れて3着ゴールした。
それでもGⅠで3着は凄いよね! ローゼスにはおめでとうと言ってあげたい。
「しかし凄いな、このオカメハチモクって娘は… ツキバミとは違った意味で化け物だよなぁ。もし秋以降コスモスがマイルレースに出るならば、彼女と戦う事になるかもな…」
新代トレーナーがニヤニヤ顔で私を煽る。怖いことを言わないで欲しい。
ローゼスの言う「どう逆立ちしても勝てない相手」が私にも実感できてしまい、この後のライブの「本能スピード」も上の空で頭に入らなかった……。