咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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失敗したら学園に居られなくなるよぉ…

『リーニュ・ドロワット』

 

 フランス語で『直線』を意味する言葉。言うまでもなく、ウマ娘に於いて『直線』とはレースの最終直線、ゴール直前の最もドラマチックな瞬間を指す。

 

 通称「ドロワ」と呼ばれるこのダンスパーティは、()()()()意味でトレセン学園の生活に《ゴール》を迎えた娘達を送り出す儀式である。

 

 もちろんその《ゴール》は卒業だけを意味しない。怪我や病気、そして未勝利を理由に学園生活を中断せざるを得ない娘は大量にいる。そんな子達に学園生活の最終直線(しめくくり)としてドロワは機能しているのだろう。

 

 私だって今日こそ『送る』身ではあるが、年明けのレース状況如何では間違いなく『送り出される』側だった。それだけ切羽詰まっていた。

 新代トレーナーやトッカン先輩、チームやクラスメイトの皆の励ましで、どうにか学園に残る事が出来た。皆には本当に感謝しか無い。

 

 ☆

 

 さて、ドロワの主役は『卒業生』(便宜上中途退学の娘も全てそう呼ぶ)だが、彼女達は思い思いにペアを組み、二人一組でダンスや飲み食いをするのが基本的なパターンである。 

 このペアのお相手は《デート》と呼ばれ、片方が男役でタキシードやそれに準じるスーツ、もう片方が女役としてドレスを着る。

 

 アメリカのプロム等の卒業パーティでは、ペアの申し込みは恋愛の告白に近い意味を持つが、女子校であるトレセン学園のドロワでは基本的に(お年頃の)男性は居ないので、『お世話になったあの方に』的な意味でデートに申し込むパターンがほとんどだ。

 

 これは『尊敬する先輩』『苦楽をともにしたルームメイトやチームメイト』『自分の為に昼夜を問わず尽力してくれたトレーナー』等々、様々な理由で選ばれる。

 

 中には『恋い焦がれたあの人に』という女同士の禁断のパターンも密かにあるらしいが、それは外からでは窺い知れないので、あまり首を突っ込まない方がいい気がする。

  

 もちろん誰しも体は1つなので、特定のデートの申し込みは倍率が高かったり早い時期で締め切られたりする。それらも含めてドロワの醍醐味とも言えるだろう。

 

 パーティタイムの冒頭、例年は生徒たちの住む美浦寮ならびに栗東寮の寮長がペアを組んでエキシビションダンスを披露し、まだ羞恥の残る来場者達の情熱(パッション)を温めてダンスフロアへと(いざな)う仕事がある。

 

 その寮長達の行うエキシビションダンスを『何故か』代行しているのが、今日の私コスモスキュートとその《デート》であるフォーゲルフライだ。

 

 わざとらしく『何故か』等と書いたが理由は明白、これはフォーゲルのせい。

 このフォーゲル、昨年度のジュニアデイリー杯 (GⅡ)とホープフルステークス(GⅠ)を勝って、誉れ高い『最優秀ジュニア級ウマ娘』に選ばれた同期の首席だ。

  

 とにかく走りは凄いのだが、この娘はいつも寝惚けていて授業態度や試験成績がすこぶるよろしくない。そしてマイペースで人の話を聞かない。

 

 このままでは来年度の進級すら危うい状況となって、『最優秀にまで選ばれた娘が留年など体裁が悪すぎる』と頭を抱えた学園側は『別の事で名誉挽回して見せよ』と生徒会に処置を一任した。

 正直学園側もあまりフォーゲルの問題に関わりたく無かった本音が見え隠れしている。

 

 その後、生徒会長のトウザイブレイカーさんから『今度のドロワでエキシビションダンスを披露し会場を盛り上げてみせろ』という任務(ミッション)が下った次第である。

 

 そしてここからが本当に『何故か』なのだが、そのフォーゲルに課された任務の《デート》として私が指名されてしまったのである。

 そして気が進まない中、私も懸命にウイニングライブとは全く違ったダンスのレッスンを積み重ねて今がある。

 

 説明が長くなったが、ここまでが私を取り巻く現状だ。そして……。

 

「ついに本番だよぉ… 失敗したら学園に居られなくなるよぉ…」

 

 ドロワ時間5分前。パーティ会場に改装された体育館の薄暗いステージの袖で、私はデビューレースの時以上に心臓をバクバクさせながら緊張していた。

 

「何故だ? 失敗して留年するのは私であってコスモスじゃないだろう? コスモスは何も心配する必要は無い。失敗しても何ら不利益は無い」

 

 緊張する私を和ませようとしているのか、追い詰めようとしているのかは定かではないが、フォーゲルがいつもの力の抜けた笑顔を向けてくる。この娘はほんっとマイペースだよねぇ……。

 

「いやいや、私のダンス失敗はペア2人の失敗になるんだよ? 私のせいでフォーゲルが留年したら、私フォーゲルのファンの娘達に殺されちゃうよ…」

 

「そんな、『殺す』だなんて… コスモスは大げさだなぁ」

 

 フォーゲル(この娘)は絶対に分かってない。ウマ娘は気性の荒い娘が多い。それは当然、『負けん気』の強い子でないとレースには勝てないからだ。トレセン学園なんてそんな娘の煮凝りなんだぞ?

 

 さすがに直接暴力に訴える娘はまず居ないが、誰かの不興を買うと、悪い噂はあっという間に拡がっていく。その噂を真に受けた娘達から『イジメ』や『嫌がらせ』に繋がっていくのだ。

 

 一般の学校なら無視(シカト)されたり所持品を隠されたりするのだろうが、トレセン学園だと『併走』や『模擬レース』を断られたり、模擬レースに出られてもレース中に『囲んで前に出られなくする』等の嫌がらせ妨害を受けたりする。

 

 まともに練習出来なければレースに勝てなくもなってくるし、不振が続けば学園での居心地も悪くなる。ババヤーガ先輩みたいに負けてもヘラヘラ笑っている図太さは私には無いし、そんな環境に耐えられる気がしない。

 

 そこから学園を去るのはもう『早いか遅いか』の話でしか無い。つまり『ドロワ(ここ)』でしくじるのは、私の今後の学園生活に於いてかなり危険な要因となりかねない。

 

 はぁ〜、なんでこうなっちゃったんだろう…?

 

「ほらコスモス、時間だぞ! 暗い顔でステージに上がるのは、場所がどこであっても『無し』だ!」

 

 状況が分かっているのかいないのか、フォーゲルはウイニングライブの時と同様の最高の笑顔で、私をステージに引っ張り出した……。

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