咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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ええ、よろしくお願いいたしますわ…

 仄暗いステージに数本のスポットライトが集中する。その焦点には2人の男女、もとい2人のウマ娘が向かい合って手を取り合っている。

 

 1人は私、コスモスキュート。青と黒をメインにしたパーティードレスを着ている。

 もう1人はフォーゲルフライ。赤と白をメインにしたタキシードを模したメンズ風のパンツルックだ。

 

 これは踊りの構成上、男女に分かれるのは仕方ないとしても、どちらも多感な女子なのであるから、エスコート(男役)にも『可愛さ』を加味した衣装を用意しようと模索した次第だ。

 そして『せっかくなのでコントラストを付けよう』という話になり、私の衣装は大人っぽいシックな色合いになった訳だ。だが逆に大人っぽすぎて私の様な若輩者には似合っていない気もして少し面映ゆい。

 

「コスモス、私に任せろ。私だけを見ていろ」

 

 私の緊張を触れた指先から感じたのか、フォーゲルが優しく微笑みながらイケメンムーブをしてくる。くそぉ、フォーゲルのくせにカッコいいじゃんか。フォーゲルが男の人だったらちょっと揺らいでいたかも知れないぞ。

 

「音楽行きまーす」

 

 放送機材近く、ドロワの運営委員の娘の声が聞こえてくる。あ〜、レースよりも緊張するなぁ… 眼の前のフォーゲルは緊張なんてどこ吹く風、涼しい顔で穏やかに微笑んでいる。

 私もここまで来たら腹を括るしかない。微笑むフォーゲルに合わせる様に、私も精一杯の作り笑顔を浮かべて見せた。

 

 ワルツ調の曲がかかる。周りのドロワ参加者の視線が私達に集中しているのが感覚で分かる。

 エキシビションダンスの出来如何によって、その後のパーティーの盛り上がり具合がまるで変わってくる。そのプレッシャーは心臓が潰れてしまいそうなくらいに重くのしかかる。

 

 …いや、やめた。エキシビションのプレッシャーとか、フォーゲルの進級とか、未だにマスターしているとは言い難いダンスの技術だとか、クヨクヨ考えていても埒が明かない。

 今は眼の前のフォーゲルとダンスを楽しむ。それで良い。それだけで良い。どうせ私には色々思い悩んでも、それら諸問題を打開する力も頭脳も持ち合わせてはいないのだから、身一つでぶつかっていくしか無い。

 

 開き直ると後は楽だった。フォーゲルのリードに身を任せ、時に私が彼女をリードして踊りにアクセントを添える。

 

 気がついたら曲が終わり、私達は会場中の拍手と喝采で迎えられた。 フォーゲルの動きを追いきれなかったり、ダンスへの理解が浅くてミスした所もあったろう。それでも私は、私達はやり切った。レースの勝利にも似た充足感で満たされる。

 

「やっぱりコスモスにお願いして良かった! 君は最高の《デート》だ!」

 

 フォーゲルも感極まったのだろう、そう言うといきなり私を抱き締め、嬉しい気持ちそのままに力を入れてきた。

 

 えーと、何度も言うがウマ娘は力が強い。それこそ全身全霊で抱き締められると、ウマ娘同士でも首が締まったり肋骨が折れたりする。

 

 私はと言うと、抱き締められた瞬間に肺の空気が全て排出されてしまい、そこから息が出来なくされた。抱き締められて「痛い」とすら言えずに「…ダイ、イダイ…」と踏まれた蛙みたいな声で気を失ってしまった……。

 

 ☆

 

「お、気がついたかコスモス。災難だったな」

 

 目を覚ますと眼の前にはタキシードで正装した新代トレーナーが座っていた。あれ…? 何で新代さんがドロワに居るんだろう…?

 視線を巡らせると、新代トレーナーの横でフォーゲルが申し訳無さそうに小さくなっていた。気絶してたけど、彼女の表情であの後に何が起きたのか大体予想出来る。

 

「その… なんだ… ごめん、コスモス… 私、嬉しくてつい…」

 

「ここは学園の保健室で、コスモスが気絶して30分てとこだ。養護の教師(せんせい)も『大きなケガは無い』と言っていたから、元気な顔を見せにパーティーに戻るも良し、気分が優れないなら寮に帰っても良し、あと『フォーゲルをぶん殴っても良いぞ』とフォーゲルのトレーナーさんから言付かっている」

 

 もしかしてフォーゲルは私に殴られる為にわざわざ待ってたのかな? びっくりしたし死にそうな思いをしたけど、フォーゲルに仕返ししたいとは思わないよ。彼女の気持ちも分かるし、何より友達だもん。

 

「怒ってないし()ったりしないからフォーゲルはパーティーに戻ってあげて。貴女と踊りたい娘がまだたくさん待ってるだろうし…」

 

 私がそう答えると、フォーゲルは心底嬉しそうに頷いて、駆け足でパーティー会場である体育館へと向かって行った。

 

「…それはそれとして、何故新代さんがそんな格好でドロワに来てるんですか? もしかして私に内緒で誰かと《デート》になってるんですか?」

 

 仮にそうだとして、お相手は一体どこの誰だろう? カルチャー先輩… は来週の大阪杯があるから引退なんてしないし、こんな場所に来るわけ無い。

 

 ならばどこの女が私のトレーナーを誑かしたのか? べ、別に新代トレーナーが誰と何しようと私には関係ないけど、黙ってやられると正直気分は良くないし、それが顔に出る。今の私はかなりブスくれた顔をしている自覚があるよ。

 

「違う違う、俺の大学の先輩の目黒さん、知ってるだろ? 彼の担当するメルヘンランドが卒業するから、付き合いでドロワに呼ばれたんだよ、それだけだ。あとコスモスの特訓の成果も見たかったしな」

 

 何だよ、冷やかしに来ただけかぁ。ちょっと拍子抜けだけど、まぁ安心したかな?

 

 ちなみにメルヘンランド先輩は去年の目黒記念(GⅡ)の優勝者で、新年の歌謡祭でもツキバミさんのバックで踊っていた記憶がある。

 直接話した事は無いけど、おっとりとした感じで優しそうな人、という印象だ。

 

「という訳で踊りたくても相手が居なくて困ってたんだよ。もしよろしければ(わたくし)と一曲踊っては頂けませんか、レディ…?」

 

 新代さんが私の前に跪いて私の手を取る。彼も照れているのか、少しはにかんでいるのが分かる。

 

「ええ、よろしくお願いいたしますわ…」

 

 新代トレーナーの芝居掛かったお誘いに私もイタズラっぽく答えると、彼に(いざな)われるままにベッドから立ち上がった……。

  

 なにはともあれ。これにて『エキシビションダンスでドロワを盛り上げろミッション』はコンプリートだ!

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