咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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大阪杯

 〜オオエドカルチャー視点

 

「おいエド、ラストだから本気で走れって言っただろ? 何だよ1000m 59秒って? ふざけてんの?」

 

「うるさいなぁ… ちょっと蹄鉄の打ちが甘かっただけよ!」

 

 あたしと担当トレーナーの山西(ジジイ)はいつもこんな感じのやり取りをしている。好んで反抗的な態度を取っている訳では無いが、あいつが何かと煽ってくるので、仕方なく相手してやっているだけだ。

 

 今だってそうだ。ウマ娘(ひと)がちょっと調子を落としているだけなのに、さも真面目にやってないみたいな腹の立つ言い方をするから、こちらとしても気が悪くなって言葉が強くなる。

 

 まぁそれは良い。ジジイと組んでから約2年半、あたし達はずっとこんな関係でいる。デリカシーの無さは頭が痛いが、逆にこちらも悪態を含めて言いたい事を何でも言える。それを嫌だと思った事は無い。

 

 問題は、今の… いや最近のあたしの走りが、本気で走っているのにも関わらず『手を抜いて走っている』などと評される事だ。

 

 本当は調子が悪い訳でも蹄鉄が緩んでいた訳でも無い、もちろん怪我や病気でもない。純粋にタイムが伸びないのだ。原因は全く分からない。分からないからこそ恐ろしいとも思う……。

 

 いや、かろうじて考えられる原因はあるのだが、それは今のあたしには余りにも残酷すぎる。その可能性は考えたくもないな……。

 

 本当ならその事について担当トレーナーに相談するべきなのだが、今までが今までなのでジジイに弱みを見せるのは(はなは)だ面白くない。

 

 誰か他に相談できる様なトレーナーが居れば良いのだが、同じチーム〈ミザール〉の林トレーナーはあたしの同期であるババヤーガの担当なので、あたしの相談事が林からバーに、バーから全校に広まる可能性が否めない。

 

 そんな屈辱、ティアラ2冠のウマ娘であるあたしのプライドに賭けて認める訳にはいかない。

 

 残るはコスモスの担当である新代トレーナーだが、『相談』ならば親身に聞いてくれるだろうし、コスモスも人の悩みを学園で言い触らす様な無粋な真似はしないだろう。

 

 あ〜あ、今更ながらあたしも新代トレーナーみたいな優しい人が担当に欲しかったなぁ、と切に思う。

 新代トレーナーの事を考えると顔が熱くなる。これは『恋』とかそんなんじゃない、と思う… まだ発情期(フケ)には間があるし、あんな頼りなさそうな男は好きじゃない… はずだ……。

 

 そして新代トレーナーに相談しようにも、そもそも彼が事務所に来ていないのだから、全く以て意味がない。

 今日はコスモスがリーニュドロワットで踊る日だから、新代トレーナーも会場に行っているのだと思う。

 自分の舌打ちの音が妙に頭に響いて、何もかもが嫌になった。

 

 正直コスモスが羨ましい。でも新代トレーナーのやり方であたしがティアラを獲れたか? というとかなり疑問も残る。

 個人的な『好み』どうこう以前にあたしは『勝つ』ためにトレセン学園に来たのだから、目的を見失ってはならないんだ……。

 

 ☆

 

 結局誰にも相談出来ないまま週が明け、大阪杯当日となった。

 天気は快晴、場状態は『良』。調子は決して悪くない。タイムだって『悪くはない』レベルまで持ち直せた。

 

 今日の『大阪杯』は昨年の覇者ツキバミや『同期ナンバーワン』の誉れ高い宝塚記念覇者ブラックリリィ、あたしのティアラ3冠を邪魔してくれたクリスタルセイバーといった『仇敵』が揃っている。

 

 他にはヴィクトリアマイル覇者のヤマノテレディー、エリザベス女王杯のイーグルダイブ、安田記念のブラッドハーレー、若葉ステークスのリンカイパワフル、神戸新聞杯のフックトッシン等々、年末から久々の中距離GⅠ開催に痺れを切らして、目をギラつかせた重賞ホルダー達の熱気と覇気で目が眩みそうだ。

 

 あとはスズシロナズナも居るみたいだけど、あいつは既に京都記念で癖も掴んだし、何よりリベンジ済みだからアウトオブ眼中で良いだろう。

 

 パドックでの人気はツキバミとリリィで二分している感じだ。3番人気にあたし、4番がクリスタルセイバー。まぁ前評判なんて走る本人には関わりのない事だ。眼の前のレースに集中して、一番に勝利線を跨げばそれで済む話なのだ。

 

 ☆

 

 レースが始まった。いつも通りの大逃げ態勢に入るツキバミとそれを追うセイバーとギンザバブルそしてキタミタカッタ。続いてリンカイパワフルとフックトッシン、スズシロナズナがその後ろ。続いてブラッドハーレー、イーグルダイブ、ヤマノテレディ、あたし、ブラックリリィといった展開だ。

 

 良い位置が取れたと思う。イーグルダイブとブラックリリィの動きを警戒しながら前方を注視できる。『流れ』はあたしにあるのが感じられる。

 

 細かい順位変動はありながらも大勢に変化なく、レースは終盤に入る。ツキバミが2番手のギンザバブルを大きく離して第3コーナーに進入した。ツキバミを捉える為には『ここ』で動かなければ追いつけない。

 

 後方の全員が『そう』思った。別に言葉を交わした訳じゃない。それに特殊な能力があるわけでも無い。ただ『分かる』のだ。理屈なんて無いし、仮にあってもあたしには関係ない。

 

 後方集団が速度を上げて全体が短くなる。第4コーナーを回って先頭はツキバミ、セイバー、リンカイパワフル、スズシロナズナとなる。

 

 直線に入った辺りでツキバミが珍しく少し()れて、大回りのルートを取った。コースの芝に足を滑らせたのか、いつもの彼女の走りに比べて安定感が弱い。

 

 ツキバミがしくじったのならこちらのチャンスだ。あたしもここでスパートを掛けて、先頭に代わったセイバーを一気にぶち抜くべく射程に収めた。

 

 スタミナは残っている。脚の疲れも無い。集中力はマックスだしコンディションも万全だ。

 全力全開でレースに臨んでいる。紛れもなく今のあたしは過去最高の状態、100%中の100%だ。

 

 それでも速度が出なかった… あたしはちゃんと走れている。どこか痛む訳でも無い。それなのに、何で…?

 勝てなきゃ… 結果を出さないとあたしが中央に来た意味が無いんだよ! もっと走ってよあたしの脚! 絶対に… 絶対に負けたくないのよ!

 

 リリィやイーグルダイブがあたしの前に出る。こいつらやツキバミを負かさない限りあたしは『最強』になれない… あたしは『最強のウマ娘』になりたいんだ! 負けたくないんだ!!

 

 その時だ。突然周囲の白黒が反転して周りがスローモーションになる。体に力が湧き出すのを感じる。

 

 そう、これは待ち侘びていたあたしの《領域(ゾーン)》、あたしはここから末脚が更に伸びてセイバーを、リリィを、ツキバミを捉えて……。

 

 観客席から大歓声が響く。せっかくの《領域(ゾーン)》だったが時すでに遅し、あたしが大加速を始める直前に、レースの結果は出てしまっていた。

 実質的に《領域(ゾーン)》の不発、結局あたしは最終直線でまるで良い所を見せられず、7着という不名誉な着順となった。

 

 掲示板には1着ブラックリリィ、2着イーグルダイブ、3着ヤマノテレディー、4着クリスタルセイバー、5着ブラッドハーレーの枠番が表示されていた。

 

 ちなみにスズシロナズナはあたしの直後の8着、そして優勝候補本命のツキバミは、なんと14着まで順位を落としていた。

 

 どうやら第4コーナーで縒れた際に脚を痛めたらしく、ツキバミは完走こそしたものの救護スタッフに脇を固められて、苦しそうに膝を押さえながらターフを後にした。あれじゃライブも無理だろうな……。

 

 ツキバミの怪我は心配だが、あたしはそれ以上に自分の不甲斐なさについて頭が一杯になってしまっていた……。

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