咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
大阪杯の直後、ツキバミさんの骨折が発表された。彼女は確か去年も今ぐらいの時期に骨折していたはずだ。
去年は爪先の骨だったが、今回は右の
ツキバミさんのスタイルは倒れるかと思えるほどに前のめりで走る。その分、膝や足首の関節への負担は我々普通のウマ娘よりも遥かに強いものとなる。
しかし、骨折しているというのに棄権せずにレースを完走するツキバミさんの根性は凄まじい。誠に平伏する思いだ。
後日ツキバミさんのチームトレーナーより、彼女は再びの長期療養に入るとの通達が出され、去年成し得なかった「ツキバミ無双の春レース」を期待していた層は大きな失意に沈んだそうだ。
もうここは私達がツキバミさんの分まで春レースを盛り上げるしか無い。私じゃ役者不足なのは重々承知だけど、クラッシック/ティアラのGⅠも控えているのだ。私の同期やシニア級の先輩らはいずれ劣らぬ強豪揃い、絶対に盛り上げてくれるだろう。
むぅ、それにしても今年の春の天皇賞は、トッカン先輩だけでなくツキバミさんも出ないのか… まぁ生徒会長のトウザイブレイカーさんや、菊花賞のスメラギレインボーさんの他、諸々猛者の出るレースだから白熱は間違いない。ベストメンバーでは無いというだけの事だ……。
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大阪杯が終わり、暦が4月になる。私達は1学年進級し、学園には真新しい制服を着た1000人の新入生達が溢れる事になる。
全国から集められた新たなエリート達、精悍な顔つきをしている娘もいれば、慣れない環境にオドオドしている娘もいる。私も数年前はこんな感じだったんだなぁ、とついつい感慨にふけってしまう。
チーム勧誘のプラカードを持った上級生達が虎視眈々と新入生を狙っているトレセン学園春の風物詩を横目に、私は「春のファン感謝祭」の舞台設営の手伝いをしていた。
ちなみに「春のファン感謝祭」とは新年度開始直後に行われるファンイベントの事で、大規模な体育祭をイメージしてもらえると分かりやすい。
学園に一般客が入場開放され、各種スポーツ大会やゲーム等の催しが行われる。昨年のメインイベントは『チーム対抗歌合戦』とかやっていた。
普段は『関係者以外立入禁止』を厳守しているトレセン学園で、この春秋のファン感謝祭はお客さんとしても生のウマ娘と交流できるし、
さて、そんなお祭り状態のトレセン学園ではあるが、直近にレースを控えている現役のウマ娘としては、のんびりイベントに参加している暇はない。
とはいえ再来週頭にGⅠを控えている学級委員長のアバロンヒルや昨年度最優秀ジュニアウマ娘のフォーゲル等が、感謝祭の準備を黙々とやっている中で私だけ「
本来はドロワでひと仕事を終えた私には、新学期からの厄介事は免除される事をクラス担任と話がついていたのだが、ここで我が儘を言うとクラスで浮いてしまう可能性がある。
別に誰かに何かを強要された訳では無いが、人間関係的に無視は出来ない辛い場面だ。
あ、ちなみにフォーゲルは無事進級出来た。お礼としてフォーゲルの属するチーム〈マルス〉から大量のニンジンが送られてきたのだが、事務所に置いておいて私、カルチャー先輩、ババヤーガ先輩の3人でスナック感覚でポリポリ食べていたらあっという間に無くなってしまった。
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「ふう、こんなもんかな…?」
感謝祭で行われる『ミニライブマラソン』用の舞台設営は粗方終了した。ちなみに『ミニライブマラソン』とは、お題となる楽曲が200曲くらい列挙され、それをエンドレスで掛けまくるライブという極めてスパルタンな企画だ。
その中で自分が歌える(歌いたい)曲があるなら参加を立候補せよ、という物らしい。
一曲あたり30人前後で歌わせる予定で、それを約10人ずつの3グループに分け、ウイニングライブのセンター3人の歌唱パートを振り分ける、という形になるらしい。
曲ごとの振り付けも出来るならば尚良し、との事だが、大抵のウマ娘は学園入学前の小さい頃からGⅠ用の楽曲くらいなら何度もビデオや動画で見て覚えている物だ。
これは英才教育というよりもアイドルの真似をしてダンスを覚える的な「好きが高じて」なパターンである。
私だって走りはティアラ路線なのに、クラッシック路線やダート路線の歌は覚えているし、ぼんやりとだが踊る事だって出来る。
「24時間以上も何十人ものウマ娘に蹴られるステージだから、めちゃくちゃ頑丈にしておかないとね!」
私同様にステージ設営の仕事をしていた栗毛のウマ娘が楽しそうに話している。話を聞いているお隣りの娘は、興味無さそうに手を動かしているみたいだけど。
私より少し小柄かな? 喋るたびにロングヘアがユラユラ揺れる元気な感じのウマ娘だ。でも何か見覚えあるな… どこかで会った様な……。
「いっぱいお客さん来てくれると良いなぁ… お正月の歌謡祭みたいにまた沢山の人達の前で歌いたいなぁ〜」
『お正月の歌謡祭』… とても懐かしく感じる。私もあそこで精一杯歌って踊って、『今』に繋がる気持ちを思い出せた。あのステージが無かったら私はトレセン学園には残れなかった。
そこまで考えてハッと気がついた。確かあの娘も私と同じステージに立って『GIRLS' LEGEND U』を歌っていた。何なら彼女のソロ歌唱パートがあった。
「あ、あの、歌謡祭で『GIRLS' LEGEND U』を歌ってましたよね? 私もあそこに居たんですよ…」
嬉しくなってついつい声をかけてしまった。それを聞いた栗毛ロングの彼女は、一瞬私を怪訝そうな顔で見て、即座に嬉しそうに破顔させる。
「うわー、凄い偶然! あれだけの素敵なステージをまたやりたいよねー! あ、私はハピネスシアター、クラッシック路線を走ってます。よろしくね!」