咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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遊んでる場合じゃないんですけどねぇ…

「結局コスモスは今年の春ファン(春のファン感謝祭)何をするんだ?」

 

 新代トレーナーの質問に詰問する雰囲気は無い。単純に雑談として話しかけてきているのが分かる。

 私としてはトレーナーさんから「レースも近いのだから遊んでないでビシッとトレーニングしろ」と言って欲しかった。もちろん私にじゃなくて私の担任やクラスメイトに対してだ。

 

 次の目標である『オークス』まであと1ヶ月と少ししか無い。当然そのままオークスに出られる訳は無く、その前哨戦(トライアル)であるスイートピーステークスで好成績を上げる必要がある。そのスイートピーステークスは3週間後だ、ドロワと春ファンでただでさえ不足しているトレーニング時間が浪費されているのは、慚愧に堪えない状況なのだ。

 

「一応『クラス対抗ドッヂボール』と『鎖綱引き』の予定です… 遊んでる場合じゃないんですけどねぇ…」

 

「なるほど… コスモスには瞬発力と筋力のトレーニングをしようと思っていたから、偶然でも悪くないセレクトだと思うよ。『遊び』じゃなくてトレーニングの一環のつもりで練習すると良い」

 

 嘘か本当か分からないけど、新代トレーナーは笑って答えてくれた。

 確かに私の《領域(ゾーン)》の特性を考えると、示された道に素早く対応できる『瞬発力』及び、他のウマ娘に道を塞がれてもそこを力ずくで押し開ける『筋力』の強化は必須と言える。

 

 くじ引きで決められた競技だけど、それが私の強化に繋がるのなら真面目にやるとしますかね。

 

「まぁドッヂボールはともかく、『鎖綱引き』って何なんだ? ずいぶん物騒な名前だけど…」

 

 『鎖綱引き』とは文字通り一般の荒縄では無く、太さ約4cm、長さ40m程の鉄の鎖を引っ張り合って、生徒30対30で「通常の」綱引き競技を行う。

 

 鎖を使う理由は簡単、計60人のウマ娘が引き合うにはただの荒縄では耐久性に問題があるので、頑丈な鉄製の鎖が使われているというだけの事だ。

 鎖の重さだけで約500kgあるので、運ぶのもウマ娘数人がかりになる。ヒトならその数は一桁上がるんじゃないかな?

 

 ちなみに本競技の前に観客参加型アトラクションの形で、お客さん軍50人とウマ娘軍4人でのエキシビションマッチが行われる。

 

 お客さん側が勝てば学園オリジナルの特別記念品が貰えるとあって、「この日の為に鍛えてきた」と豪語する筋力自慢の男性客がこぞって参加してくるのだが、過去の対戦成績は(サービスとして)比較的小柄な娘が参加しているウマ娘(せいと)側の方が圧倒的に勝率が高いそうだ。

 

 ウマ娘4人でパワー系男性50人に勝つ、その力量差を見せつけた後に合計60人の生徒同士の本気の綱引きが行われる。鎖が軋んで異音を放つほどの発熱した勝負は観客を更に奮い立たせるのだ。

 

 …なんていう説明をしてあげたら、新代トレーナーは『理解できん…』とばかりに物凄く難しい顔をしていた。

 

 ☆

 

 さて春ファン当日、自分の競技が始まる前は時間の余裕があるので、クラスの友達何人かとイベントを見て回る。

 

 私が設営を手伝ったマラソンライブも既に始まっていた。歌唱力&ダンス自慢のウマ娘達がカラオケパーティー感覚で、入れ替わり立ち替わり舞台で熱唱し観客を魅了していた。

 

 今、目の前でかかっているのが何曲目なのか分からないが「トレセン音頭」の元気な歌が聞こえている。まだ音頭の季節じゃないと思うけどな……。

 

 余談だが「トレセン音頭」には「はぁ〜、うまぴょい、うまぴょい」と始まる旧来の音頭調の物と、キタサンブラックが提唱したとされるハイスピードバージョンの2種類がある。

 一般に「トレセン音頭」として認識されているのは後者の方で、当時如何にキタサンブラックが影響力のあるウマ娘だったかを表すエピソードになっている。

 

 それはともかく傍から聞いていても、凄く盛り上がっていて楽しそうなライブだ。どうやら飛び入り参加も大歓迎との事なので、私も後で参加したいなぁ、とか思っている。

 

 ☆

 

 クラス対戦ドッヂボールは残念ながら初戦で敗退してしまった。まぁ敗因はいくつか考えられるが、大体はフォーゲルのせいだね。

 

 そもそも何で『これからボールを投げるぜ!』っていうタイミングで、一瞬でマンガみたいにスゥッと眠れるのか全く理解できない。そのくせ外野にいる時は元気にボールを欲しがったりする。んでボールを渡すと眠る。

 その度に敵チームにボールを奪われて、まともに試合になる訳が無いじゃないか!

 

 しかも対戦相手が最近友達になったハピネスシアターちゃんのクラスだからね。ハピネスちゃんにはクラスの恥部を見せてしまったみたいで余計に恥ずかしかったよ。

 

 試合後フォーゲルはまるで悪びれる事無く、「お疲れ様」とスッキリとした顔で屋台通りに消えていった。このやりきれない気持ちはどこに持って行けば良いのか? やはりドロワの時に殴っておくべきだったかも、と今にして思うわ……。

 

 もうフォーゲルは『ああいう子』だから仕方ないんだけど、毎度毎度振り回されるこちらの身にもなってほしい。

 くじ引きの時に「コスモスと同じ競技になってやる気出たぞ!」と言ってきたのはフォーゲルなんだよ…? ホントにもう!!

 

 ☆

 

 憤懣やる方ない気持ちで次なる鎖綱引き会場に向かう。ちょうどこれから50対4のエキシビションマッチが行われる所らしい。

 

「うわぁ…」

 

 思わず声が出た。お客さん側は本当に8割方ボディビルダーみたいな逆三角の上半身をした屈強な男性ばかりだった。残りの2割が普通の男性と、やはり筋トレしてきたっぽい強そうな女性達が半々。

 

 一方のウマ娘軍はというと… あ、トッカン先輩がいるじゃん! まだ脚の怪我は完治してないけど、この手の走らないイベントなら出られるんだね。前哨戦に出るなら、綱引き仲間の私にも教えてくれても良かったのに……。

 

 例年通り残りの3人も小柄な娘ばかり、この4人で先程のマッチョ軍団と戦うのだ。絵面的には集団で少女をいたぶろうとしている様にしか見えない。

 

 4人中2人は知らない娘だけど、最後の1人は見覚えがある。ヘリアンさんという私と同期のウマ娘で、小学生かと見紛うほどに小さくて幼い顔つきをしている。

 

だがこれでも昨年の阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)で優勝した強豪ウマ娘であり、フォーゲルやアバロンヒルと並ぶ3大ジュニア王者の一角で、直接話をした事は無いが常に自信に溢れた雰囲気を纏う、私とは対照的なウマ娘だ。

 脚質は『逃げ』、小さな体でツキバミさんを彷彿とさせる様な荒々しい走り方を見せる。

 

 トッカン先輩、ヘリアンさん、あと2名様。例の鉄鎖に取り付き配置につく。反対側に闘志を通り過ぎて殺気すら滲ませている50名のお客さん達、中心に立った審判係の「ヨーイっ、始めっ!」の声で鎖が地面から持ち上げられ大きく軋みを上げる。

 

 お客さん軍の勢いが勝ったのか、スタートからウマ娘軍は劣勢となる。トッカン先輩もヘリアンさんもパワータイプではないのだが、それでもウマ娘たる者「勝負に負ける事は我慢ならん」と力を入れ直し、徐々に均衡を取り戻す。

 

 しばらく一進一退の様相を呈していたが、長試合はスタミナに勝るウマ娘軍に有利に働いた。

 最後は客席にまで響いてきた、トッカン先輩の「うぉりゃ〜っ!!」という今まで聞いた事も無い雄叫びで引かれた鎖にお客さん軍は総崩れとなり、エキシビションとは思えない真剣勝負はここに幕を閉じた。

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