咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
さて鎖綱引きの本番であるが、参加者はA〜Dの4チームにランダムに振り分けられる。A対B、C対Dで試合後にその勝者同士で決勝戦が行われる仕組みだ。
私はBチームに配属され初戦の準備に取り掛かる。と言っても例のぶっとい鎖に並んで待つだけだけどね。
「あ、コスモスじゃん、久しぶり元気〜? ドロワのダンス動画見たよ、可愛かったねぇ!」
陽気に声をかけてきたのは、デイジー賞で私とハナ差の激闘を繰り広げたヴィブリンディさんだった。
ドロワの時の私とフォーゲルのダンスは、学園公式ウマトックで全世界に公開されている。正直恥ずかしいのだが、称賛コメントが意外と多くて少し困惑している部分もある。
「あらヴィブリンディさん、ご無沙汰です。えっと、ドロワの事はあまり言わないで下さい…」
「『ヴィブ』で良いし、タメ年で同期なんだからタメ語で良いよ。うちらはもうライバルじゃん!」
「…あぁうん、じゃあ『ヴィブちゃん』って呼ばせてもらうね。ヴィブちゃんもBチーム? 一緒に頑張ろうね!」
また新しい
年明けくらいまでの陰鬱な気持ちが嘘みたいに、今の私は充実した学園生活を送っている。もちろん良い事だけでは無い。それでも悪い事に立ち向かっていこうと思える気概が生まれてくる源泉は、周りの皆による『友情パワー』だと思っている。
「あ〜… ごめんコスモス、世の中『頑張ってもどうにもならない事』ってあると思うよ…」
相手チームに目を遣りながら、青ざめた顔で語るヴィブちゃん。おいおい、戦う前から何を腑抜けた事を言っているのよ? 『負けたくない!』って思う気持ちがあればどんな勝負にだって……。
「あ、うん… 私も分かっちゃったかも…」
ヴィブちゃんの視線の先に居る相手を確認して私も一気に血の気が引いた……。
まさか初戦の対戦相手の中にドキュウセンカン先輩が居るとは思わなかったからね!
☆
「いや〜、見事に完敗だったねぇ。ていうか始まる前から結果見えてたよね〜」
「だね〜」
負けたにも関わらずヴィブちゃんはとても楽しそうだ。私も悔しくはあるが所詮イベントの綱引き、成績に何らかの影響があるものでは無い。即座に頭を切り替えてヴィブちゃんと2人でケラケラと笑い合っていた。
「コスモスは次の予定決まってるの? もし暇なら一緒に回らない?」
綱引き以降の私の予定は特に無い。強いて言うなら……。
「んー、ミニライブマラソンでちょっと歌って行きたいかな? ステージ造るの手伝ったし…」
「あ、いいね! んじゃ一緒に突撃しよう!」
2人でステージに向けて駆け出した。
☆
『ミニライブマラソン』は盛況の様で、学園の野外ステージは増設分も含めて超満員、ステージの様子を映し出す巨大なモニターが何台も設置され、ステージ上のウマ娘達が熱演を繰り広げている。
現在流れている曲は偶然にも「
…いやいや、落ち着けコスモス。『彩ファンタジア』はこんなイベントで私が気安く歌って良い曲じゃないだろ? 私がこの曲を大勢の観客の前で歌うのは、ティアラGⅠであるオークス、或いは秋華賞での光り輝くウイニングライブの舞台でだ。焦ってはいけない。
「今からなら4曲先の『U.M.A NEW WORLD!!』から入れるってさ。コスモス行ける?」
おぉ、モチのロンでさぁ! 『U.M.A NEW WORLD!!』
って歌もノリノリだし、何より歌詞の「U.M.A! New World!」の所で「ユー、エム、エー」ではウマ耳の動くさまを頭の上でピョコピョコ手を振って表現、NewとWorldの部分で両手の2つのVサインを組み合わせて『N』と『W』を作る。この間約2秒弱、この手の動きが可愛すぎて大好きな曲だ。
もちろんレースのウイニングライブで定期的に歌われる曲では無いので、この機を逃したら観客を前にして歌う事は金輪際叶うまい。
歌詞『U.M.A! New World!』以外の部分でダンスを完璧に踊れるか? と言われればかなり怪しいのだが、今回のライブはダンスは別に無理して踊る必要はないとの事なので、気兼ねなく参加させてもらおう。
楽曲リストを確認すると、その次は『ソシテミンナノ』、更に『
参加者希望者も意外に多くて、歌えるのは『1人3曲まで』と決められているので『
「でも今から15分くらい待ち時間があるねぇ。別の場所で時間潰すにも15分じゃ行って帰ってきたら終わっちゃいそう。どうしようか?」
私はこのまま観客としてライブを見ていても全然構わないのだけれど、ヴィブちゃんが退屈なら移動に付き合っても良いよ? けど本当にこの人混みの中を掻き分けて、無事に目的地でミッション達成する可能性は薄いかな…?
「あの、もしかしてコスモスキュートさんですか…?」
不意に後ろから声を掛けられた。若い男性っぽい。
「あ、はい。コスモスキュートですけど…?」
恐る恐る振り向き答える。歳は20歳前後かな? 中肉中背で顔も服装も普通、一見何の印象も残らないタイプの男性だったが、その目は興奮に輝いていた。
えぇ…? 変質者だったらちょっと怖いな……。
「僕、貴女のファンなんです! 浪人だったんだけど、貴女みたいに不屈の根性で頑張って、今年志望の大学に合格したんですよ。もし会えたらお礼を言おうと思ってトレセン学園に来たんだけど、これでダブルで念願叶いました。本当にありがとう! これからも応援してますから!」
…………え? 私の、ファン…? え? ドッキリか何かですか? 私にファンだなんてそんな……。
「うわぁ、良かったねコスモス。ファン感謝祭だからこのお兄さんにキチンと感謝しないと」
ヴィブちゃんの冷やかしで正気に戻る。そう、今日は年に2度しか無いファンへの感謝を表す日だ。それを忘れてはトゥインクルシリーズランナー失格である。
「あ… はい… 凄く嬉しいです。ありがとうございます。前回のレースでは格好悪い所をお見せしてごめんなさい… 次は必ずご期待に…」
「固い、固いよコスモス。ほらお兄さんもビックリして固まっちゃったじゃん。握手とサインでもして上げたら? お兄さん書く物持ってる?」
ヴィブちゃんのツッコミで緊張が少しほぐれた。でもサインの練習なんてした事無いよ…?
お兄さんから大学の勉強で使っているであろうB5サイズのノートとサインペンを渡される。そこにたどたどしく私と宛先のお兄さんの名前を書いて、握手した所をヴィブちゃんに写真を撮って貰った。私とお兄さん、お互いに緊張して手汗びっしょりだったなぁ……。
「でもこんな所で『ファンです』とか言ってもらえて羨ましいなぁ。私も早い所プレオープンから抜け出して目立っていかないと!」
そんなヴィブちゃんの決意も、何ならあんなに楽しみにしていたその後のライブすらも上の空で、結局その日1日、心此処に在らずな感じでフワフワと過ごしてしまった。
うふふ、「ファンです」かぁ… 超嬉しいな… 次レース絶対に頑張らないとね!