咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
春のファン感謝祭は毎年4月最初の土日に行われる。それはすなわちクラッシック級GⅠロードの第1弾である『桜花賞』と重なっているという事だ。
春ファンに関して私の出番は昨日の土曜日だけで終わっているので、2日目の日曜日は祭りには参加せず自主練に充てようと思っている。
ヴィブちゃんやクラスメイトのブロークンギアにも「一緒にイベント回ろう」と誘われたのだが、やはりドロワだの何だのでトレーニングが疎かになっていたのは否めず、鍛錬不足を痛感していた。
『桜花賞』を逃したからこそ、次の『オークス』に向けての準備は抜かり無くやっておきたい。その為には時間がいくらあっても足りない、というのが現状だ。
もちろんメジロパラディンさんらの走る『桜花賞』を観戦する為に出走時間の15時半… いや15時には寮かトレーナー室でテレビの確保をしておきたい。なので1人の方が動きやすいという面もある。
「コスモスちゃんは何の自主トレするの? もしプールトレーニングなら私も付き合うよ?」
私を気に掛けてくれているであろうトッカン先輩の優しいお言葉。1人で黙々とトレーニングするよりは、ちょっとお喋りでもしながら運動する方が楽しいんだけどプールかぁ… プールなぁ……。
確かに2400mという
怪我のせいでまだ満足に走れないトッカン先輩も「脚への負荷の少ないプールやジムでの上半身トレーニングなら」と練習を再開しているのだ。
でも当然プールも春ファンの何らかのイベントに使われており、自主トレ用に残されたスペースは端っこの1、2レーンくらいだろう。
私が気になるのは広さ云々よりも、イベントでやって来たお客さん達に自主トレしている姿を見られる、という事だ。
トレセン学園の水着は機能性重視で、あまり可愛い物ではない。加えて私は体型に少しコンプレックスがあるので、学園生徒ならまだしも一般のお客さんに水着を見られるのはとても恥ずかしい。ましてやスリムなトッカン先輩の横でなど晒し者も良いところだ……。
「あ、別にコスモスちゃんがイヤなら無理にとは…」
「あ、いえ、一緒にやります!」
大好きな先輩に誘われてデート出来るなら、ちょっとくらい恥ずかしくても平気ですとも!!
☆
「なんだよ、自主トレやってたんなら声掛けろよ。俺が見てやったのに…」
今日の事務所当番は山西チーフ。カルチャー先輩は休養日なので、普通に祭りを見て回っているらしい。
トッカン先輩とのトレーニングデートも終わって、私は予定通りにテレビの前で待機している。
「いやぁ、担当でも無いのに休みの日にご迷惑かけられないですよ… ところでカルチャー先輩の次走は決まりましたか?」
「うん? あぁ…
ティアラ路線を走ったウマ娘は傾向として、翌年のシニア級に『ヴィクトリアマイル』や『エリザベス女王杯』を走る事が多い。これには厳密なルールやジンクスは無い。ただの慣例だ。
ティアラのGⅠレースがマイル〜中距離に設定されている事から、距離が近くて走りやすいレースが選ばれているだけなのだと思われるが、別に『ヴィクトリアマイル』ではなく同じマイルの『安田記念』に出ても良いし、同様に『エリザベス女王杯』ではなく『秋の天皇賞』に出ても構わない。
或いはトリプルティアラを走ったライバルが出てくるレースだから、単に再戦の機会を楽しんでいるのかも知れない。
という事でカルチャー先輩は次に「最強マイラー」と名高いオカメハチモクさんとのバトルを狙うらしい。
「あれ…? でもカルチャー先輩とオカメハチモク先輩って対戦した事無いですよね? 何か因縁でもありました?」
「いや、直接は無い。ただ間接的にちょっとな… おっと『桜花賞』始まるぞ。話は後だ」
よし、お喋りは後だ。今はテレビに注目しよう。
☆
『桜花賞』には私の
私も走った『アネモネステークス』とは別に『桜花賞』にはトライアルレースが2つある。共にGⅡの『フィリーズレビュー』と『チューリップ賞』。そして前年の『阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)』からも『桜花賞』の優先出走者が出走する。
『アネモネステークス』はパラディンさん、『フィリーズレビュー』のジーニアスセイントさん、『チューリップ賞』のヴァーンズィンさん、そして『阪神ジュベナイルフィリーズ』からは昨日トッカン先輩と一緒に鎖綱引きしていたヘリアンさん。この4人が前評判では人気をほぼ等分している感じだ。
ヘリアンさん、昨日学園で競技出ていたのに、今日は阪神レース場で走るんだ… タフだなぁ……。
一番人気はGⅠホルダーであるヘリアンさん、次いでジーニアスセイントさん、パラディンさんとなる。
パドックでのパラディンさんは気合も十分で調子も良さそうだ。尊敬するライバルとして絶対に勝って欲しい。
レースの展開は『逃げ』るヘリアンさんを『先行』のパラディンさんとジーニアスセイントさんが追う形になると思われる。有力ウマ娘が前に揃っているので、今回はハイスピードの流れになるだろう。
本馬場入場でそれぞれ唯一無二の勝負服に身を包んだ15人のウマ娘が揃う。阪神レース場のファンファーレが鳴り響き、半数ずつがスターティングゲートに収まる。そしてレースがスタートした。
先頭はやはりヘリアンさん。小さい体で全体を引っ張っている。2番手にパラディンさん、2馬身離れてジーニアスセイントさんが付く。ほぼ予想通りの展開。
「始めの1ハロンは教科書通りの12秒ジャスト。まだ様子見だな…」
そう、まだまだ様子見。ただ、ヘリアンさんが全体を引っ張る形でいて、ペース自体はそれほど早くない、という点は留意しておくべきだろう。
重ねて言うが『桜花賞』は
息つく暇もなくレースは終盤最終コーナー。順位は変わらずヘリアンさんがトップを走り、2番手は3馬身離れてパラディンさんとジーニアスセイントさんが差がなく並ぶ展開。
加速するジーニアスセイントさん、パラディンさんがやや遅れる。彼女のボーイッシュな美少女顔が凄く苦しそうに歪んでいる。
「パラディンさん頑張って!」
テレビの前で思わず声がでる。しかしそんなパラディンさんをあざ笑う様に後続がパラディンさんの影を踏む。ヴァーンズィンさんだ。
ジリジリと上がっていくヴァーンズィンさん、しかしジーニアスセイントさんもヴァーンズィンさんも一歩届かず、ヘリアンさんが見事に逃げ切って今年最初のティアラを手に入れた。
終盤に失速してしまったパラディンさんは更に2人から抜かれ、最終的に6着と掲示板を外す結果に終わってしまった…。