咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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…私、それでもやっぱり勝ちたいです!

 パラディンさんは両膝に手をついて顔を伏せたまま荒く肩で息をしている。その表情はテレビの前からは伺い知れない。

   

 そしてすぐに画面は切り替わってヘリアンさんの勝利者インタビューになる。

 

「ふふーん、あたしの爆速に掛かればティアラだってお茶の子さいさいよ! 次のオークスでもザコは蹴散らしてあげるわ!」

 

 うわぁ… 凄い娘だな… 確かに豪語するだけの実力があるのだろうが、私には絶対に出来ないトークだよ、ありゃ……。

 

「ふっ、よく見ろ。指先が震えてるだろ? あぁやって自分を鼓舞してんだよ。不器用なやり方だが、自ら逃げ道を塞ぐスタイルは嫌いじゃねぇぜ…」

 

 山西チーフの深いお言葉。なるほどなぁ、確かに余裕で大勝ちした訳でも無いので、内心はバックバクだったのかも知れない。それを隠すためのメスガキ仕草みたいな感じ? 走ってて後ろに付かれると怖いもんなぁ、それは理解できる。

  

「そうですねぇ… う〜ん、それにしてもパラディンさんが負けちゃうなんて…」

 

 優勝したヘリアンさんも強いが、惜敗したパラディンさんの実力は、何度も共に走った私にはよく分かっている。その彼女でも掲示板を逃す程の苛烈なレース、もし仮に私が出走していたとして、あの場で何位になれていただろう? パラディンさんより上位に入れただろうか…?

 

「メジロパラディンが弱いわけじゃねぇ。他のウマ娘がそれだけ強かったって事だ。コスモスよ、今日のメンツがお前が目指す戦場(ティアラ)のウマ娘だぞ?」

 

 山西チーフの言葉に思わず悪寒が走った。そうだ、ヘリアンさん、ジーニアスセイントさん、ヴァーンズィンさん… 彼女達を超えなければティアラの夢を掴む事など出来はしない。それは途方も無く大きな壁であり、途轍も無く深い川の向こうに勝利がある事を意味する。

 

 それでも……。

 

「…私、それでもやっぱり勝ちたいです! あの凄い人達に… パラディンさんやヘリアンさん達に勝って、ティアラの夢を叶えたいっ…!」

 

 自然に拳に力が入り唇を強く噛む。いつもの私ならここで怖気づいていただろう。だが今見たのは『桜花賞』、トリプルティアラの一角だ。残すティアラは『オークス』と『秋華賞』の2つだけになった。

 

 このまま指を咥えて残るティアラが消化されるのを待つ事だけは許されない。小さい頃からの『夢』が実現出来るかどうかは私の力次第なのだ。

 

 決して荒唐無稽な夢では無いはずだ。現に私は今「中央のオープンクラス」に居るのだから、手を伸ばせば指が掛かる位には夢に近づいているはずだ。一生に1度のチャンス、絶対に逃したくない。

 

「その意気だ。次のレースで優勝出来れば『ティアラ』に挑める。勝つ為にはまず挑まないとな」

 

「ハイっ!」

 

 新代トレーナーだけではなく、山西チーフも私の事を気に掛けてくれているのだ。「自分は1人じゃない」そう思えるだけで胸の奥が熱く、力が湧いてくる感覚がある。

 

 頑張らないとね……。

 

 ☆

 

 メインレースの『桜花賞』は終わったが、この後はウイニングライブが残っている。楽曲はトリプルティアラにだけ、年に3度しか使用されない「彩ファンタジア」、絶対に見逃せない。

 

 とは言えライブが行われるのは最終レースの『梅田ステークス』終了後なので、まだ小一時間ほど余裕がある。隙間な時間が出来てしまった。ちょっと外周でも走ってこようかな…?

 

 あ、そう言えば……。

 

「そう言えばさっき途中だったカルチャー先輩の話の続きを聞いても良いですか?」

 

 カルチャー先輩とオカメハチモクさんとの因縁とやらには興味がある。まぁカルチャー先輩の事だから、とにかく強い人に突っかかっているだけの可能性もあるけどね……。

 

「うん? あぁエドとオカメハチモクの話か… 丁度1年前、去年の『桜花賞』だが、オカメハチモクは感冒(かぜ)で出場を辞退しているんだわ…」

 

「はぁ…」

 

 体調不良でレースを辞退するのは割と「あるある」だが、ティアラの様な代えの利かないレースを体調不良で棒に振る失態は、私だったら首をくくりたくなるレベルの自己嫌悪に陥りそうだ……。

 

桜花賞(そこ)でエドはドキュウセンカンらを押さえて優勝した訳だが、翌週の『アーリントンカップ』で復帰したオカメハチモクがブッチギリで優勝したんだわ」

 

「はぁ…」

 

 GⅠの優勝候補に名の挙がる程のウマ娘ならば、GⅢの『アーリントンカップ』に勝つのはそう難しい事では無いと思う。それが何だと言うのだろう…?

 

「…分かんねぇか? 『桜花賞』も『アーリントンカップ』も同じ阪神の右回り1600だ。そこでオカメハチモクはエドより2秒も早くゴールした。マイルレースで2秒だぞ? この差が分からないコスモス(おまえ)じゃねぇだろ?」

 

 ゴール前のスプリンターウマ娘のスピードは時速70kmを超える、そしてその速さで2秒あれば約20mもの差が開く。

 これはものすご〜く単純に考えて、オカメハチモクさんが予定通りに『桜花賞』に出ていたら、カルチャー先輩に先んじておよそ8身差で勝っていた事になる。

 

「もちろんレースの展開や場状態でタイムはどうとでも変わってくる。実際去年の『桜花賞』の時は雨上がりで重場だったしな。だがそれでもエドのプライドはかなり傷付いたみたいでなぁ…」

 

 ははぁ、なるほど… 色々と得心する事もあるわ……。

 

「あ、分かります。『桜花賞』勝った翌週のカルチャー先輩、急に機嫌悪くなりましたから。…そっかぁ、そういう理由があったんですねぇ…」

 

「知っての通りエドはなかなかネチっこい性格してるからな、1年も前のレースの借りを今頃返そうとしてるって訳だ」

 

 ひぇぇ… やっぱりカルチャー先輩怖いなぁ……。

 

 その後もチーフからカルチャー先輩の話を色々聞いた。外から見ているといつもケンカばかりしているみたいな2人だけど、カルチャー先輩を語るチーフの目はとても優しそうで、先輩の方はともかくチーフはカルチャー先輩が大好きなんだと肌で感じた。

 

 そうこうしているうちにライブの時間になった。センターはヘリアンさん、セカンドはヴァーンズィンさん、サードはジーニアスセイントさんの3人、6着のパラディンさんは当然バックダンサーとして舞台に上がっている。

 

 ヘリアンさんの可愛らしい歌声で創られるステージに魅入ってしまう。やっぱりGⅠのライブは良いなぁ。

 よぉし、次こそ絶対に私もあの舞台で『彩ファンタジア』を歌うんだ!

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