咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
桜花賞が終わり、来週はクラッシック3冠路線の緒戦である皐月賞だ。優勝候補筆頭のフォーゲルフライを始め、対抗馬の『弥生賞』覇者アバロンヒルといった有力ウマ娘を擁する我がクラスは、自然とピリピリとした雰囲気を醸していた。
皐月賞にはエバシブさんやハピネスシアターちゃんも出走するらしい。私はティアラ路線なので、完全に観客気分でのんびりと観戦させてもらうつもりだ。
「コスモスは皐月賞当日はどうするんだ? もし時間に余裕があるなら応援に来てくれると嬉しいんだが?」
リーニュドロワットで無事に課題をクリアして進学できたフォーゲルに誘われる。アバロンやハピネスちゃんも出るし、もちろん3人とも友達だから、純粋に友達の応援として行きたい気持ちはある。
「うーん、行きたい気持ちはあるけど、一応トレーナーさんに相談してからかなぁ…? 千葉の中山レース場だから何とか時間を作って行きたいけどねぇ…」
「そうよコスモス、私が
アバロンも話に入ってくる。実はフォーゲルとアバロンの2人はまだ公式レースで対戦した事が無い。入学したての頃に4、5人立ての模擬レースで一緒に走ったくらいだろう。その時の結果も忘れてしまった。
「そうだね… とりあえず後で新代トレーナーに相談してくるから、返事は明日まで待ってて。もし行けなくても2人とも応援してるからね!」
しつこい様だがクラッシック路線のレースでは私は観客だ。彼女達には等しく応援を送りたい。誰が勝つにしても凄いレースになるのは間違いないだろうし。
「皆さんGⅠで盛り上がってるけど、あたしら下々の事も気にしてもらわないと困るなぁ…」
次はブロークンギアがやって来た。「あたしら」の所で私の肩に手を回してくるのは、私も『下々』の1人と言う事なのだろう。
私はオープンクラスなので、その扱いには納得しがたい物があるのだが、まぁGⅠレベルの話の前ではオープンもプレオープンも大同小異なのは否めない。
一応オープンクラスの実績があれば、ババヤーガ先輩の言ではないが進学や就職で困る事はまず無い。
新入生の7割が結果を出せずに去っていくここトレセン学園で、曲がりなりにも残りの3割に食い込めた自分を、私はもっと誇って良いはずだ。
個人のトゥインクルシリーズはジュニア、クラッシック、シニアを各1年の計3年で基本終了する。
もし本人の希望があるなら4年目以降もトゥインクルシリーズへの参戦が認められるのだが、その基準ラインが「オープンクラスに上がっているかどうか?」なのだ。
4年目以降を走っているウマ娘は、エリートを集めたトレセン学園の中で更にエリートだと言えるだろう。
「という訳でフォーゲル達に先んじて、あたしブロークンギアは土曜日の『アーリントンカップ』に挑戦します!」
ほぉ、アーリントンカップかぁ。ちょうど昨日山西チーフと話したばかりのレースだ。昨年オカメハチモクさんがブッちぎりで優勝したというGⅢのレース。
その成績上位者は来月のGⅠ『NHKマイルカップ』への優先出走権が与えられる。
「え? という事はギアももしかしてGⅠ挑戦とか…?」
確かギアは先月末のプレオープン戦で2着だったはずだ。恐らくその際のファン獲得で私と同じオープンクラスに上がったのだろう。そこで早速重賞チャレンジとは、行動力凄いなぁ……。
「あ、あははは… ま、まぁ勝てればねぇ… 『そうなれば良いなぁ』的な感じ?」
ギアが頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。ギアとはどうにも『勝ちきれない仲間』みたいなイメージで付き合ってきたけど、新たな目標を定めた彼女が今はとても眩しく見える。
「いや、それではダメだぞギア」
「ええ、もっとしっかり勝ちを狙いに行きなさい」
唐突にフォーゲルとアバロンのGⅠ組から駄目だしされるギア。
そっかぁ、そうだよね。「勝てたら良いなぁ」なんて日和った態度では勝てるレースも勝てなくなる。誰よりも強く、『勝ちたい』と願った娘が栄冠を手に出来るのだ。私もついつい忘れがちになる。
「あー… うん、そうだよね… 『良いな』とか甘っちょろい事を言ってたらダメだよね。うん、ありがとう2人とも。気合入ったよ!」
やはりクラッシック級の春は大きな動きが出てきて皆の目の色が変わる。ティアラやクラッシックと同様にNHKマイルCも一生に一度しかチャンスを認められないレースだ。その一度に全身全霊を賭けるのがウマ娘の本懐でもある。
「来週は『皐月賞』で、その翌々週は『春の天皇賞』、天皇賞の日にコスモスのレースもあるんでしょ?」
アバロンの言葉に今度は皆の視線が私に集まる。そう、次走予定の『スイートピーステークス』は天皇賞の10分前に開始となる。
まぁ天皇賞とはレース場も違うから、プレッシャー的な物は特に無いけど、「自分のレースが近い」緊張感は確かにある。
「『オークス』に出るにはそれに優勝しなくちゃダメなんだよね? 応援してるから頑張ってね、コスモス!」
ギアの言葉にフォーゲルもアバロンも優しく頷いてくれる。ホント良いクラスメイトに囲まれて私は幸せ者だよ……。
☆
「あの、新代さん… ちょっとお願いがあるんですけど…」
放課後のトレーニングタイム、ウォームアップを済ませた辺りで私は新代トレーナーに話しかけた。
トゥインクルシリーズのレース開催日は土曜日と日曜日なので、基本的に生徒である私達はお休みとなる。
ただトレーナーさんは事務所の出勤シフトとかあるので完全にカレンダー通りには休めない。
更にレース直前の追い切りや調整で、担当ウマ娘の自主練習に付き合って無償で仕事をするトレーナーも非常に多い。
もし新代トレーナーが来週の日曜日に私の補習トレーニングを考えてくれているなら、友達の応援よりもそちらを優先したいと思ったのだ。友達を応援して自分が負けたら元も子もないからね。
「なんだ? 話だけなら何でも聞くぞ?」
表情を崩しておちゃらけて答える新代トレーナー、優しい人なのでとても話しやすい。
私は友人の皐月賞の応援で中山レース場に行きたい事、新代トレーナーが別の予定を考えているならそちらを優先したい事を告げた。
「あ〜、それは別に構わないけど、1人で大丈夫か? …っていうか中山なら俺も見に行きたいな。一緒に行くか?」
「わ、良いんですか?」
GⅠの時のレース場はかなり混雑する。田舎生まれの私は基本的に人混みが苦手で『人酔い』する事がある。誰か隣に付いててくれると、とても心強い。
その時、私はかねてから気になっていた事をふと思い出した。
「あ、そしたらその日は少し付き合って下さい。デートしましょう」
私の予想外な言葉に、一瞬驚いた顔を見せた新代トレーナーが物凄く可愛く見えた。