咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
新代トレーナーにチョコチップクッキーを渡せた事で、私の今日の目的の半分は終了した。あとは友人達の走るGⅠ皐月賞を見届ければオールミッションコンプリートとなる。
お昼時を過ぎて午後のレースが始まるのだが、ここから皐月賞まではプレオープンの野島崎特別と利根川特別、そしてオープン戦のURAウルトラプレミアム『ドゥラメンテカップ』の3レースが行われる。
ちなみに午前中は未勝利戦を4レースやっていたのだが、やはり未勝利戦はどうにも他人事に思えず、全く心安らかに見られなかった。
4月半ばの今の時期ならば、遅めの年明けデビューの娘でも2敗、私と同様に去年の秋口にデビューした娘の中には、5敗や6敗と、かつての私以上の連敗を重ねた娘もいるはずだ。
4レース合計で合計50人以上のウマ娘が走る訳だが、その中で『未勝利』を脱する事が出来たのは文字通り『4人』だけであり、残りの40余人は引き続き『未勝利』の鎖を背負い続ける。
私だって今でこそ見晴らしの良い指定席で観戦出来ているが、星の巡り合わせで私が今日の未勝利戦のターフに立っていた可能性や、既に学園を去っていた可能性ももちろんあるのだ。
その悲しい未来を変えてくれたのは、やはり隣りにいる新代トレーナーなのだと思う。この人のお陰で私は今も走れている。感謝、感謝、大感謝だ。
☆
「アバロンヒルとフォーゲルフライはコスモスのクラスメイトなんだよな。パドックを見る限り調子も良さそうだし気合も十分な感じだな。どっちを応援しているんだ?」
う〜ん、これ困るんだよなぁ… 確かにフォーゲルやアバロンはクラスメイトで、彼女らの応援という形で中山レース場まで来ている訳だけど、個人的な友人であるハピネスシアターちゃんや個人的に『推し』であるエバシブさんも出走している。
「いやぁ、今回は友達とか推しとか多くて1人に絞れないんですよねぇ… 皆で同着1位なら良いのに、って本気で思ってます…」
それを聞いた新代さんには笑われたけど、それが私の偽りの無い本心だ。
パドックを颯爽と歩くフォーゲルとアバロンの勝負服は共にセーラー服を模したよく似たデザインになっている。しかしフォーゲルの服は白がメインで、対するアバロンの服は真っ黒だ。この辺の対比も優勝候補争いのネタとしてよく挙げられている。
ハピネスちゃんの勝負服は異世界アニメの冒険者みたいな、それでいて魔法少女みたいな、色合いは落ち着いているけどデザインは『可愛い系』だ。
そしてエバシブさんは、その毛色同様に真っ白な詰め襟学生服っぽいデザインの勝負服で、弥生賞の時と同様の顔の上半分をすっぽり覆う様な黒いバイザーを着けていた。やっぱりカッコイイ。
「俺の注目はエバシブかな? 目黒先輩のいるチームの娘で、とにかく話題に事欠かない娘らしい…」
たまに話題に出てくる目黒さんという人は、新代トレーナーの大学時代からの先輩で、エバシブさん(ついでに言うならスズシロナズナさんとオカメハチモクさん)の所属するチーム〈ポラリス〉のトレーナーさん。先日のドロワで担当ウマ娘を無事送り出していて、今はフリーのはずだ。
「しかも
あ、それは噂で聞いた事がある。本人も所属チームもブラックリリィ陣営も、敢えて何も言ってないけど、エバシブさんとブラックリリィさんが姉妹なのは有名な話だ。
けど先日の大阪杯を含め、現段階でGⅠを4勝もしているリリィさん相手に対戦全勝ってのは本当なのかな? それにしても姉妹揃ってGⅠ出走とか凄いなぁ……。
「だがえらく気分屋で、気が乗らないとGⅠですらまともに走らないとかで、彼女の担当トレーナーは日々大変らしい。なんでも拝んで走って貰ってるとか…」
うわ、そうなんだ…? もしかしてエバシブさんて怖い人なのかな? 確かフォーゲルが優勝した去年のホープフルステークスでは彼女は5着に入っていたはずだ。その『GⅠでの5着』が本気じゃ無い可能性もあるのかな…? 弥生賞の時も軽く流してたぽいしなぁ……。
「ただあの白い肌と髪は
あの厨二病心をくすぐるバイザーは単なる飾りじゃなくて実用だったのか… そしてアルビノだから毛色から肌まで真っ白なんだなぁ。お姉さんのブラックリリィさんがキレイな青鹿毛のロングヘアで勝負服も真っ黒だから、とても対照的な姉妹だ。
☆
ファンファーレが鳴り響き、各々がゲートに入る。あのいつも寝ぼけて緊張感の無いフォーゲルも、模擬レースで私を戦慄させた『本気モード』の顔をしている。
アバロンははパッと見で冷静っぽく思える。エバシブさんはマスクで表情は全く分からない。
ハピネスちゃんは
ゲートが開きレースが始まる。
中山の2000mは開始後程なく坂になる。そこから更に一周して2度目の坂を越えた場所にゴールはあるのだ。
最初に坂を駆け上がったのはアバロン、彼女の脚質は『先行』なので、普段はもう少し後方に居るのだが、今日は早くからロングスパート戦法なのかトップを走っている。それとも『掛かって』しまったのかな…?
そのまま第2コーナーまで回った所で5番手にフォーゲル、ハピネスちゃんが8番手、エバシブさんは14番手。これは各々の脚質の合った位置で、アバロン以外は想定通りの位置取りをしている。
1000mを通過した時点でタイムは62秒、ペースは少し遅めだ。開始時からずっと先頭を走ってきたアバロンも、掛かった訳ではなく自分のペースでレースをコントロール出来ている。ラストスパートを掛ける体力は残してあるはずだ。
向こう正面の直線の最後、第3コーナーに差し掛かった所でハピネスちゃんが大きくスピードを上げる。
う〜ん、仕掛けるのはまだ少し早いんじゃないかな…? このペースだとゴール前にバテないかな…?
そのまま全体がスピードを上げ、前後の幅が短くなる。第4コーナーを抜けて先頭がハピネスちゃんに変わる。続いてアバロン、フォーゲルは変わらず5番手くらい。エバシブさんは前後左右を完全に馬群に呑まれて後方13番手くらい……。
直線でフォーゲルが一気にスピードを上げる。同時にアバロンも速度を上げてハピネスちゃんを追う。
ハピネスちゃんは… 外から分かるくらいにもうバテバテだ。やはり無理な加速が祟って失速し始めた。
やはりフォーゲルとアバロンの一騎打ちか? と思われたが、思わぬ伏兵が潜んでいた。
「エバシブだと? どこに隠れていた…?」
そう、馬群に呑まれて完全に逃げ道を塞がれたと思われていたエバシブさんが、まるでワープしたかの様にフォーゲルのすぐ後ろに現れたのだ。
逃げるアバロン、それを追うフォーゲル、更にそれを追うエバシブさん。
始めにフォーゲルがアバロンを抜く。あと40m。しかしフォーゲルの末脚もそこまで、ゴール直前でエバシブさんがフォーゲルを差し切って『アタマ差』で優勝した……。