咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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でも私ホントに何もしてないよ…?

 翌日の学校、いやメディアを始めとする日本中は、姉妹で皐月賞を穫った『黒面の白鳥』(もう二つ名が付いている!)エバシブさんの話題でもちきりだった。特にあの最終直線でのワープ(?)はスポーツ紙やウマチューブ等のSNSでも話題になり、春のGⅠ戦線に高らかに巨大な花火を打ち上げた。

 

 一方私達のクラスはお通夜みたいな雰囲気だった。誰もがフォーゲルフライ、或いはアバロンヒルの皐月賞制覇を信じて疑わず送り出したのに、結果は2着と5着という惜しい結果に終わったためだ。

 フォーゲルは無言のままずっと辛そうに俯いているし、学級委員長のアバロンもいつもの精彩さが欠けている。

 

 いやそれでも十分に凄い事なのよ? GⅠでの成績は日本全体での成績に等しい。普通の高校生スポーツで言うならインターハイ決勝と同義なのだ。そこで入着出来る実力があるという事は、「日本全国で片手の順位内」という意味なのだ。無視してはいけない。

 

 だがやはり走った当人としては、『あとゼロコンマ数秒』の差で敗れた事は心に大きなダメージになる。『負けた事』よりも、『あとゼロコンマ数秒』速く走れなかった自分の不甲斐なさが許せなくなるのだ。

 

 これはGⅠ等の重賞に限らない。未勝利戦を含む全てのレースの敗者は、間違いなくこの自責の念に囚われてしまう。私もそうだったし、今後全勝しない限りこれからもそうなるだろう。

 

 ここでの最適解はもう『さっさと忘れる事』だ。走行ペースやコース取り等、レース展開上の問題点の洗い出しと反省は、未熟なウマ娘(わたしたち)なんかよりも、知識経験共に豊富なトレーナーさんがしっかり考えてくれる。思い切って任せてしまった方が良い。

 

 ただフォーゲルもアバロンも共にGⅠホルダーかつ、ここまで負け無しで勝ち進んできた超エリートだ。私の様に『負け慣れ』していない分、『初めての1敗』がメンタルに抜けないトゲとして残る可能性は否めない。

  

「もぉ、クラスのエース2人が揃って沈んでないでよ。まだ入着したぶん私よりマシなんだからさぁ… という訳でお昼はレース後の糖分補給を兼ねて、スイーツ増し増しパーティーしませんか?!」

 

 ブロークンギアが暗い空気に耐えられなかったのか、1時間目の休み時間に私達に話しかけてきた。

 

 そう、皐月賞の前日に「勝てばGⅠ(NHKマイルC)だ!」と勇んでGⅢの『アーリントンカップ』を走ったギアだったが、結果は14着と惨敗。皐月賞の時にギアの話題を出さなかったのは、GⅠレースの前振りとしては縁起が悪い事と、この結果を擦るのはギアに気の毒だと思ったからだ。

 

 ギア本人は「やっぱりいきなり重賞挑戦は無謀だったかなぁ… ナハハ…」なんて力無く笑っていたけど、その瞳には『悔しい』気持ちがメラメラと燃え盛っていた様に見えた……。

 

「そうね… 私達2人とも『日本ダービー』の優先出走権は確保しているんだものね… フォーゲル、改めて貴女にダービーでの勝負を申し込むわ。そしてあの忌々しいブラックリリィの妹 (エバシブさん)にもリベンジさせてもらうから!」

 

 さすがに優等生のアバロンは切り替えが早い。そうそう、教室でウジウジしていたって、何の解決にもならない。

 レース直前で調整期間に入った私はスイーツパーティーには参加できない(血の涙)が、やはりクラスが陰々滅々としているのは良くないからね、応援するよ!

 

 それはそれとして、アバロンの挑戦状にもフォーゲルは肩ひじをついたまま反応しない。まさかフォーゲルがそこまで深刻に落ち込む様な娘だったなんて……。

 

 あ、もしかして……。

 

「zzzzzz…」

 

 朝方は鬱々と暗く沈んだ表情をしていたはずのフォーゲルだったが、今はいつも通りの健やかな寝息を立てていた。

 

 ☆

 

「コスモス! 良かったらお昼一緒しない?」

 

 スイーツパーティーに参加できない(血涙)私は、思い切って皆とは別行動を取る事にした。だって自分が食べられないスイーツを、目の前で他の人にドカドカ食われるのって腹立つからね!

 

 そんな感じでカフェテリアで『良い場所無いかな?』とキョロキョロしていた所にハピネスちゃんに捕まった次第だ。 

 

「コスモス、昨日は来てくれてありがとう。アイリスとも話してたんだけど、コスモスと話せたお陰で自分でもビックリするくらい落ち着いたんだよ…」

 

 食事が始まってのハピネスちゃんの第一声は『それ』だった。

 

「えぇ…? でも私ホントに何もしてないよ…?」

 

 ハピネスちゃんの扱いならトレーナーのアイリスさんの方が何倍も上手(うわて)だろうし、私が役に立った部分が思い付かない。

 

「そんな事ないよ! とにかく今日はお礼が言いたかったの。改めてありがとうね!」

 

 昨日の惨敗の後、僅か1日でこんなにさわやかな笑顔が出来るなんて、ハピネスちゃんって本当に強い子なんだなぁ… この強さ、私に真似できるかなぁ…?

 

「コスモスちゃん、私『青葉賞』出るから!」

 

 粗方食事も終わって、そろそろ解散かな? と思ったタイミングでハピネスちゃんが新たな宣言を始めた。

 

「皐月賞では大失敗しちゃったけど、逆にGⅠの雰囲気は掴めたと思うし、どうしてもダービー走りたいし… だから青葉賞でもう一度チャンスを掴むよ!」

 

 青葉賞… 言わずと知れたダービーのトライアルとして位置づけられたGⅡレース。場所も距離もダービーと同じで、開催時刻もほぼ同じという、「ダービーの練習台」として最適なレースだ。

 

 ただ「青葉賞からダービーに進んだウマ娘は絶対にダービーを勝てない」という根強いジンクスがある… いや『あった』のだが、去年のスズシロナズナさんのダービー優勝でそのジンクスは打ち払われた筈だ。

 

 問題はその開催日が再来週、つまり昨日レースをしたハピネスちゃんにはかなりキツいスケジュールになる、という事だ。

 もちろん私はハピネスちゃんのトレーナーでも無いし、同じチームですらない。出走の方針に口を出す事は許されないので何も言えない。

 

「ダービーには、あのエバシブちゃんも絶対に出てくる… アイリスの為にも、もう〈ポラリス〉関係者には負けられないからね!」

 

 キラキラした目で宣誓するハピネスちゃん。そっか… エバシブさんはチーム〈ポラリス〉所属で、アイリスさんは去年までその〈ポラリス〉に居たんだよね。負けられないよね。

 

「場所は学園隣りの東京レース場だから、コスモスも応援に来てくれると嬉しいな!」

 

 私の次レース、スイートピーステークスはハピネスちゃんのレースの翌日になる。一つ分かっているのは彼女が勝っても負けても、きっと私はその結果に引きずられて自分のペースを乱すだろうという事。

 出来れば自分のレースが終わるまで、彼女のレース結果を知りたくないんだよなぁ……。

 

 ハピネスちゃんには悪いと思いつつ、私は「行けたら行くね…」と口を濁す事しか出来なかった……。

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