咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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『強い相手』と走る方が強くなれる気がするんです…

 本日の東京レース場、スイートピーステークスの後はシニア級のプレオープン戦があるのみで、次のレースの出走者に備えて早急な控室の交代は必要ない。閉場時間までのんびりしていても守衛さんに怒られる事も無いのだ。

 

 そこで私は私用の控室をトレーナー室よろしく勝手に利用させてもらっていた。

 具体的に言うと、腰を落ち着けて新代トレーナーのタブレットから、いくつかのレース動画を見せてもらっていたのだ。

 

 だって天皇賞やハピネスちゃんの青葉賞や今日の自分のレースとか、目と鼻の先の学園に帰る時間すら惜しいくらいに見たいレースが山盛りだったんだもん。

 

 まずはハピネスちゃんの『青葉賞』。皐月賞の時のガチガチがウソの様にハピネスちゃんは伸び伸びとした良いレースを見せてくれた。

 

「あ〜、それでもハピネスちゃん2着かぁ、惜しい! でも青葉賞2着ならダービー出られますよね?」

 

 私の質問に新代さんは優しく微笑んで首肯する。あれほど渇望していた日本ダービーに出られるんだね、おめでとうハピネスちゃん! まぁ同じ2着でも私はオークス出られないんだけどね……。

 

 去年のスズシロナズナさんも青葉賞2着からのダービー勝利だし、トレーナーも同じプラチナアイリスさんだし、なんだかハピネスちゃんが勝てそうな逆ジンクスが働いている気がしてきた。自分の事の様にドキドキしている。

 

 もちろん皐月賞覇者のエバシブさんを始め、リベンジに燃えるフォーゲルやアバロンもダービーを走る。豪華なメンツで今年のダービーもすごく盛り上がりそうだよね。

 

 天皇賞 (春)はスメラギレインボーさんがまさかの『大逃げ』で3200mを走り切って優勝した。

 スメラギさんの本来の脚質は『先行』なので、『逃げ』は掛かって暴走したのかと、出走者達も観客も誰一人予想していなかった展開に、その全員がしばらく呆然としていた様にも見えた。

 

 本命のブラックリリィさんは3200mは適性外だったのか、最終直線で一瞬スメラギさんを捉えかけた物のすぐに失速してしまった。

 

 対抗のトウザイブレイカー会長もブラックリリィさん失速後にスメラギさんに迫ったが、大逃げで稼がれた距離差分を埋められず3身差で2着、ブラックリリィさんは6着とデビュー以来初めて掲示板を逃す大荒れの結果となった。

 

 もしここにツキバミさんやトッカン先輩、スズシロナズナさんが居たらどんな展開になっていただろうか? やはりツキバミさんの圧勝だろうか? トッカン先輩の蜂の一刺しが見られただろうか…?

 

 レースで『たられば』の話に意味は無いとは言え、オールスターでのGⅠの大舞台は想像だけでもワクワクさせられる。

 いつか私もこんな豪華なメンバーの揃うレースで競ってみたい。まぁ実力はともかく、夢を見るのは自由だよね。

 

 最後に私自身のスイートピーステークス、ヴィブちゃんをマークした作戦そのものは間違っていなかったと思う。もうほんの1秒か2秒早く仕掛けていればヴィブちゃんを捉えられたかも知れない。個人的な感想だけど。

 

 そして新代さんに褒められたラスト200mの走りは嘘では無かった。改めて見てみると、私は3着の娘に3身半差をつけてゴールしていた。それだけのスピードが出せていたという事だ。

 

 ヴィブちゃんとも話した様に、この直線の攻防だけで大きくレベルアップ出来た気がする。

 あの時の感覚を忘れない様に、レースの最中で引き出せる様になれば、それは『第二の《領域(ゾーン)》』とでも呼べる大きな武器になるのでは無いだろうか? だとしたら夢が広がるなぁ。

 

 ☆

 

 天皇賞 (春)が終わると短い間、トレセン学園内はほんの少し騒がしくなる。この時期は新たな生徒会長を決める為の生徒会選挙が行われるのだ。

 とは言え生徒の本分は走りと学業にある訳で、学園運営に積極的に携わりたいという酔狂な生徒は多くない。

 

 従って例年の選挙は、現職が再立候補して候補者が1人しか居ない『信任投票』になる事が多い。

 

 ウマ娘で作られる社会は総じて「人柄よりも脚の速い奴が偉い」というパターンに流れ勝ちだが、この生徒会長選挙も多分に漏れない。

 

 最低でもGⅠを穫っていないと信任されない、等と言う事も普通に起こり得る。

 

 そう考えるとデビュー前から生徒会長となり、以後5年連続で生徒会長を務めた『皇帝』シンボリルドルフさんは、やはり特別中の特別だったのだろう。

 

 さて、今年の生徒会長選挙だが、現会長のトウザイブレイカーさんは来年卒業なので出を辞退。その後任として「真面目でストイックな学級委員長」という定評のあるスメラギレインボーさんを推挙した。

 

 走りも学業も生活態度も一流なスメラギさんに、わざわざ対抗しようという野心家も現れず、生徒会長選挙は例年通りスメラギさんの信任投票となり、彼女は学園生徒の実に9割の支持を得て当選、新生徒会長となった。

 

 生徒会の副会長は会長からの指名で決定されるので、副会長の人事は後日発表される。その辺りまで来ると親しい友人や先輩が絡んでこない限り割とどうでもいい。

 

 まぁ私達はこういう政治的な話には総じて関心薄いよね。学生だからなのか、ウマ娘だからなのか、女性だからなのかは知らないけど。

 

 ☆

 

「コスモス、次のレースだが、春はここまでにして夏の合宿で問題点を総ざらいし、克服して再出発したいと思う」

 

 翌週の週明け、NHKマイルカップの翌日に、新代トレーナーからトレーナー事務所で今後のスケジュールについての説明があった。

 

 ちなみに同期のマイルチャンプを決めるNHKマイルカップは、ナチュラルシャインさんという、長身短髪でちょっと大人っぽい落ち着いた雰囲気のウマ娘が優勝した。

 先日級友のブロークンギアが挑んで玉砕したアーリントンカップの優勝者が、そのままGⅠでも勝った形になった訳だ。

 

「第1目標は言うまでもなく『秋華賞』、我々に残された最後のティアラだ。その秋華賞に狙いを絞っていつもの様にトライアルレースを走る…」

 

 ここまではいつも通りの展開、次に言われる事もほぼほぼ分かっている。

 

「秋華賞トライアルは『紫苑ステークス』と『ローズステークス』があるが、中山レース場という慣れた環境とGⅢという難易度で、コスモスの勝率が高いであろう紫苑ステークスに挑もうと思うんだが…」

 

 私は前回のスイートピーステークスから密かに心に決めていた事がある。その事を話すタイミングが遂にやってきた。

 

「あの、その事なんですが… 私は紫苑ステークスではなく、GⅡのローズステークスへの出走を希望します…」

 

 私の言葉に驚いた顔を見せる新代トレーナー。今まで目標レースの選定はトレーナーに任せきりで、自分の意見を何にも言って来なかった私が異議を唱えた事が意外だったのだろう。

 

「今日のレースでも実感したんですが、『私が勝てそうな相手』よりもヴィブちゃんみたいな『強い相手』と走る方が、より強くなれる気がするんです…」

 

 ここで一旦言葉を切りトレーナーの顔色を窺う。生意気な事を言って気を悪くしてはいないだろうか…?

 新代さんは怒ったり茶化したりせず、真面目な顔で頷きながら私に話の続きを促す。

 

「えと… 更に『秋華賞』の舞台は関東ではなく京都レース場です。今年は中京レース場で行われるローズステークスで、府中や中山とは違った雰囲気に慣れておきたいんです。駄目ですか…?」

 

「いや、コスモスがそこまで考えているなら『それ』でいこう。俺もコスモスを勝たせたいあまり、より安全なレースを選びがちになっていたよ。それじゃダメなんだよな…」

 

 そう言って申し訳無さそうに頭を掻く新代さん。

 

 …勇気を出して言って良かった。「担当ウマ娘を勝たせるのがトレーナーの仕事」であるのに、私のワガママで勝率の下がるレースに挑みに行く事を許してくれた新代さん、やっぱり大好きです!




作者注 
 2024年現在、紫苑ステークスはGⅡレースかつ、ローズステークスは阪神開催となっておりますが、舞台設定である2022年は紫苑ステークスはGⅢで、ローズステークスは中京で行われました。
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