咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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ヴィクトリアマイル

〜オオエドカルチャー視点

 

 朝からしとしとと小雨が降り続いている。地方によっては午後からは本降りになるらしい。東京レース場のあるここ府中でも天気予報は「終日雨」だった。あぁもう、ホント鬱陶しい……。

 

 もちろん雨が降ろうが雪が降ろうが、レースが止まる事は無い。このあたしの燃えたぎる闘志にほんの少し水を差しただけだ。

 

 今日の東京第11レースである『ヴィクトリアマイル』は6月の『安田記念』と並んで、春のマイル界の頂点を決めるGⅠのレースだ。

 

 あたしは早い段階でこのヴィクトリアマイルに焦点を絞って練習を積んできた。今日の標的(ターゲット)は昨年『NHKマイルカップ』と『マイルチャンピオンシップ』という2つのGⅠレースで勝ちを上げ、《最強マイラー》などと言われているオカメハチモクだ。

 

 去年の『アーリントンカップ』であたしを虚仮(こけ)にしてくれたのも許せないけど、それ以上に闘志の無さそうなトボけた顔してるくせに《最強》とか囃し立てられているのが面白くない。

 

 学園内の並走や模擬レースも含めて、これまで(オカメハチモク)と直接走った事は無い。それでも奴の末脚の恐ろしさは何度も何度もビデオで見て脳に叩き込んである。

 

 今の調子は悪くない、山西トレーナー(ジジイ)と対策も練って作戦も立てた。もう大阪杯の轍は踏まない、あたしは万全で戦えるはずだ……。

 

 そう、いい加減認めなければならない… 「オオエドカルチャー(あたし)頂点(ピーク)はすでに過ぎ、速度スタミナ共に今後下降していく一方である事」を……。

 

 どんなにハードなトレーニングをしてもタイムが縮まらない、自己ベストに届かない。年明け以後のトレーニングは常にそんな感じだった。

 

 最初は「調子悪いのか?」と言っていたジジイもすぐにあたしの不調の原因に気が付いた。まぁ過去何十人もウマ娘を育ててきた人だからね、誤魔化しは効かなかったよ。

 

 その上であたしは、ジジイに頭を下げてまでヴィクトリアマイルに出たいと懇願した。「まだGⅠを走れるうちに《最強》と仕合いたい」「まだ諦めたくない」と……。

 

 ちょうどそんな話をしていた時期に、『ドリームトロフィーリーグ』の事務局からあたし宛に「来期からドリームトロフィーで走らないか?」という招待状が来た。

 

 ドリームトロフィーとは学生スポーツのトゥインクルシリーズと違い、レーサー達が何戦ものリーグ戦を勝ち抜いて、半年毎に行われる『サマートロフィー』『ウインタートロフィー』を賭けた決勝戦で戦う、という催しだ。

 

 GⅠに勝っても小遣いすら貰えないトゥインクルシリーズと違い、レースに出るだけでお金は貰えるし、勝てば更に大金が手に入る。まさに『プロの世界』だ。

 

 もちろんトゥインクルシリーズを引退して、誰でもドリームトロフィーに進める訳では無い。その条件は「現役中にGⅠレースを1勝以上、更に複数の重賞を制覇している事」とかなり厳しい。しかし桜花賞とオークスのダブルティアラ並びに京都記念を勝ったあたしなら十二分にその資格はある。

 

 …だが問題はそこじゃない。

 

 純粋で単細胞なコスモスとかはまだ「ドリームトロフィーはトゥインクルシリーズの上位存在」と考えているみたいだが、ドリームトロフィーの実態はあたしに言わせれば「エンタメ特化の見世物小屋」に他ならない。

 

 もちろんレースはする。しかしトゥインクルシリーズ程の本気vs本気の丁々発止のやり取りは起こらない。それもそのはず、出走者全員が「すでにピークを過ぎた」選手ばかりだからだ。

 

 ドリームトロフィーの選手達はリーグ戦のスケジュールに従って走る。プロとして生活が掛かっている以上、怪我や病気を避けるべく無理な練習もしなくなる。おっつけ現状維持、或いは緩やかな下降線を描いていく訳で、そんな環境のウマ娘が強くなれるはずが無い。

 

 リーグの事務局から招待状が届く、という事は「外から見てもピークが過ぎたと気付かれている」という事だ……。

 

 あたしはトゥインクルシリーズのギラギラピリピリしたハングリーな連中が好きだ。自分の居場所はまだ「ここが良い」。

 

 だからあたしはジジイに「せめて今年いっぱい足掻いてみたい。目一杯挑戦したい」と言った。そしてジジイは笑って「好きにしろよ」とつっけんどんな答えを返してきた。でもその答えがあたしには何よりも心強かった……。

 

 ☆

 

 1番人気はオカメハチモク、面白くはないが当然と言えば当然の結果だ。2番人気は昨年の覇者ヤマノテレディ、3番人気にあたし、4番人気にあたしのトリプルティアラを邪魔してくれたクリスタルセイバー、5番人気にスズシロナズナと続く。『大阪杯』でも戦った連中が多いのは手の内が分かっている分助かるよ。

 

 ファンの間では『オカメハチモクとスズシロナズナの因縁対決』『スズシロナズナ秋のリベンジなるか?』等々囁かれていたが、あたしには関係ない。2人まとめてぶった斬るだけだ。

 

 他にもヤオビクニ、ローゼスストリーム、ファイヤーブレス、チャームラズベリーと言った短距離やマイルの強豪が並ぶ。でも勝つのはあたしだ、絶対に……。

 

 ☆

 

 ゲートが開く。先頭はクリスタルセイバー、『秋華賞』ではまんまと逃げ切られたけど、今日は絶対に逃さない。追ってスズシロナズナとローゼスストリーム、後は大体団子でオカメハチモクは最後方。

 あたしは8〜10番手でやや外寄り、全体を俯瞰できる良い位置に付けた。ここなら誰の動きにも対応出来る。

 

 雨が降る、足が滑る、視界が悪い、泥が跳ねる、勝負服に雨が染みて気持ち悪い… だがそれは「負けても良い」理由にはならない。全てのライバルを捻じ伏せて勝つのはあたしだ。あたしにはその力があるはずだ……。

 

 順位に大きな変動は無く最終コーナーに差し掛かる。ここでオカメハチモクが動いた。いつもよりかなり仕掛けが早い、だがその理由なぞどうでも良い。

 

 あたしを始め全員がギアを1段上げる。先頭は未だクリスタルセイバー、だが十分あたしの射程内だ。マークすべきはオカメハチモクだけ。

 オカメハチモクが最後方から上がってくるのは分かっていたから、後方集団は皆で図るでも無しに自然と彼女の進路を塞ぐルートを取る。

 

 オカメハチモクは大外に出ざるを得ない。その分のロスはあたしのアドバンテージになる。

 直線になって皆が横にバラける。あたしの前を邪魔する奴は居ない。

 ここから加速して一気にブッチ切るだけ、ほぼ100%作戦通りのレース構成が出来た。そして感じる、《領域(ゾーン)》が来た! ここから更に加速して勝つのはあたしだ!!

 

 ☆

 

 信じられない… 何なんだあいつら… 何で雨の中をあんなスピードが出せるんだ…? 作戦とか意味が無かった。()()()()があり得るのか…?

 

 レース終盤、坂の途中でオカメハチモクが猛追を見せる。何故坂で加速してくる? 加速出来る…? そしてその鹿げた加速をした奴がもう1人居た。前を走るスズシロナズナだ。

 

 2人は後続のあたし達を置き去りにして、2人だけのデッドヒートを繰り広げた。

 そう、これ以上無く全力で走っているのに『置き去り』にされたのだ。まるで別次元の話かと思える程に……。

 

 超スピードの2人はもつれる様に同時に勝利線を越え、結果はスズシロナズナの「ハナ差」勝ち。あたしは3着に入った物の、2着オカメハチモクとの着差は11身、つまり『大差』で負けた事になる。

 

 一般にGⅠで3着なら褒められる結果なのだろうが、世の中こんなに嬉しくない3着もそうそう無いだろうね……。

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