咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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頑張れーっ!!

「コスモスちゃん、私、ティアラのレースを直接見るのって初めてかも知れない…」

 

 昨日の疲れも何のその。私とトッカン先輩は共に元気いっぱいで、東京レース場の最前列の観覧席にて『オークス』の開催を待っていた。

 

 トレセン学園の生徒は一般のお客さんよりも優遇されていて、普通は20歳以上でないと予約できないゴンドラ席の予約ができたり、一般席でも生徒用の優先スペースがあったりする。

 

「私もティアラGⅠを直に見るのは子供の頃に親に頼んで観に行った『秋華賞』以来ですねぇ…」

 

 そう答えながら『あの時』の光景が昨日の事の様に脳裏に蘇る。私は『あのレース』を見て、『あの人達』に憧れて、進路をティアラ路線に決めたのだ。

 

「コスモスちゃんって出身四国だよね? 京都レース場まで連れて行って貰ったんだ…?」

 

 私の家から京都レース場までの距離はおよそ300km。小学校に上がるかどうかという女子を連れてひょっこり出られる距離では無い。

 

「ええ、そりゃもうどうしてもあの2人の決着をこの目で見たくて… 必死におねだりして、最後は泣いて頼んでましたねぇ…」

 

 ここで言う『あの2人』とは、ジェンティルドンナさんとヴィルシーナさんの事だ。桜花賞、オークスと続けてジェンティルドンナさんに敗れて2着となったヴィルシーナさんのリベンジなるか? と盛り上がったレースだ。

 

 あの時は7身先にいた先行ウマ娘を堂々と差し切って、ジェンティルドンナさんとヴィルシーナさんの同時ゴールが強烈に印象に残っている。

 

 密かにヴィルシーナさんを応援していた私は、結果が出た時の『着差7cm』で、彼女が負けた事に子供ながらにショックを受け、我が身の事の様に悔しがって泣いたらしい。自分ではよく覚えていないが……。

 

「皆『思い出のレース』ってあるよねぇ。私は生まれる前のレースだけど、アグネスタキオンさんの皐月賞かなぁ? GⅠなのにもう『次元が違う』って感じで、余裕綽々で勝ってたもんねぇ…」

 

 なるほど、それがトッカン先輩をクラッシック路線に進ませたレースなのか……。

 

「あ〜、わかります。タキオンさんの走るダービーとか見たかったですよねぇ」

 

「そうだねぇ…」

 

 アグネスタキオンさんとかフジキセキさんみたいに、全国からエリートを集めたトレセン学園の中ですら、更に飛び抜けた実力を持ちながらも、脚の故障で早期に引退してしまったウマ娘はとても多い。

 

 当代無敵と謳われ、前人未到の中央でのGⅠ10勝を有力視されていたツキバミさんだって、2年連続で骨折し今は休場中だ。

 これは周りももちろんだが、何よりも「走りたくても走れない」本人が一番辛いだろうなぁ、とは思う。

 

 神様、どうかこれ以上脚の怪我や病気に苦しむウマ娘が出ない様にしてください。お願いします……。

 

 ☆

 

 第10レースまでが終わり、いよいよ本日のメインレース『オークス』の始まりだ。

 

 パドックでは勝負服を着たウマ娘達が続々と現れては観客にアピールしている。

 

 1番人気は桜花賞を勝ったヘリアンさん。2番人気は桜花賞3着のジーニアスセイントさん、3番人気は同じく桜花賞2着のヴァーンズィンさんだ。

 

 メジロパラディンさんは6番人気、初めてのGⅠで少し緊張気味なヴィブリンディちゃんは12番人気。この2人には特に頑張って欲しいけど、その人気順はそれだけ他のウマ娘が強いって事なんだよね……。

  

 でも良いなぁ… 次の、最後のティアラである『秋華賞』には絶対に私もあの場所に立ちたい。あの『どうしようもなく強い』人達と同じ舞台で競いたい、私の全力をぶつけたいと思う。秋まで待ち切れないよ……。

 

 GⅠ用のファンファーレが鳴り響き、本場入場からゲートインまで滞りなく進行される。さぁ、スタートだ!

 

 ☆

 

 序盤から先頭に立つのはやはりヘリアンさん。ジーニアスセイントさんは3〜4番手、ヴィブちゃんが続く。パラディンさんは抑え気味で9〜10番手、私の得意なポジションにいるせいか、パラディンさんのこの後の走り方がとても気になる。

 

「コスモスちゃんのライバルも良い位置に付けたみたいだね。あとは2400mという長丁場で、自分のペースを崩さずに行けるかどうか…」

 

 トッカン先輩が解説してくれる。普段は妹みたいに可愛いトッカン先輩だけど、去年のクラッシック三冠レース全てに出走&入着を果たしている大強豪だもんね。私の何倍も修羅場をくぐっているウマ娘だ。

 

「はい、事故無く走り抜いて… 出来れば勝って欲しいです…」

 

 私も2400mのレースは本番では走った事が無い。『何か』を言える訳も無く、ただレースを見つめるしか出来なかった。

 

 ☆

 

 勝負は終盤、やはり第3コーナーの大﨔から場面が動いた。今まで中段後方に控えていたパラディンさんが上がってくる。パラディンさんの真後ろにヴァーンズィンさん、ヴィブちゃんも一気に加速する。でも……。

 

「ヴィブちゃん、仕掛けるの早くないかな…?」

 

 まだゴールは800mも先、ヴィブちゃんはその距離を全力疾走出来るのだろうか? 前回のスイートピーステークスで見せた末脚は凄まじかったが、『あれ』を800mも維持できるスタミナがヴィブちゃんにあるとは思えない……。

 

 第4コーナー抜けてまだ先頭は逃げているヘリアンさん。パラディンさんが3番手くらいに上がった所でヘリアンさんが再加速する。2000m近く逃げてきて、更に坂で加速出来るなんて本当に凄い。きっとそういう《領域(ゾーン)》なんだと思うけど、傍から見ていると言葉は悪いが『化け物』だと思ってしまう。

 

 逃げるヘリアンさんを追って2番手がヴィブちゃん、3番手がパラディンさんだ。どちらかがヘリアンさんを捉えれば、夢のティアラを私の友人(ライバル)が手にする事になる。

 

「頑張れーっ!!」

 

 パラディンさんとヴィブちゃん、どちらも応援する意味で私は大きな声を出した。どっちが勝っても私は嬉しいし、この場で2人を応援出来た事がとても誇らしい。

 

 だが2人ともがゴール前の坂で速度を落とす。東京レース場は最終直線に入ってすぐ坂になる、これが結構キツい。やはり慣れない距離にスタミナ配分を誤ったのか、なかなか速度を上げられずヘリアンさんとの距離が縮まらない。

 

 そして『化け物』は1人では無かった……。

 

 坂が終わって残り200m、ここでジーニアスセイントさんとヴァーンズィンさんが猛追を見せる。

 残り50mで2人は遂に、ヘリアンさんをするりと捉え躱す。そのままジーニアスセイントさんが優勝、1身差で2着ヴァーンズィンさん、更に1身差で3着ヘリアンさん。

 

 パラディンさんとヴィブちゃんは共に直線で他のウマ娘にも抜かれ、パラディンさんは7着、ヴィブちゃんは10着という結果に終わってしまった。

 

 これがGⅠ(頂点)の世界… 私のライバル的存在の2人は共に着外、つまり彼女らと同レベルの私が出走していても、勝てた可能性は限りなく低いという事だ……。

 

 それでも私の心は目の前で展開された熱い走り(たたかい)に魅入られ、今すぐにでも走り出したい衝動に駆られていた。

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