咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
ダービーの翌日、私たちはクラスメイト全員でフォーゲルフライの『日本ダービー優勝おめでとうパーティー』を行った。
と言っても準備する時間もお金も無かったから、皆で出来る限りのお小遣いを出し合ってお菓子や惣菜を買ってきたり、腕に自信のある娘は何某かの料理を作ったりして、ホームパーティーに毛が生えた程度の物でしか無かったが、それなりに体裁は整えられた。
「え〜、この
臨席した全員が『この場面でそんな当て擦る様な事を言わなくてもいいのに』と顔を青くする中、アバロンの元気な「乾杯!」の声で宴は始まった。
「もぉ、そんな捻くれなくてもアバロンが凄いのは皆分かってるから大丈夫だよ。皐月賞もダービーもギリギリとは言え入着なんて、まだ未勝利やプレオープンをウロウロしている娘から見たら天の上の人なんだから…」
アバロンと親しいブロークンギアが、まだ少し不満そうなアバロンを嗜める。皐月賞やダービーでイマイチ結果の出なかったアバロンだが、彼女はGⅠの朝日杯フューチュリティステークスとGⅡの弥生賞を勝っていて、本人が望むならすぐにでもトゥインクルシリーズを卒業してドリームトロフィーに進めるのだ。超エリートには違いない。
「そうだよ、アバロンは凄いウマ娘だよ。でも皐月賞とダービーで5着って事は、次の菊花賞は…」
私もアバロンを抑えるべくギアに加勢する。その途中で、とあるウマ娘に思いを馳せる。
「ちょっと待ってコスモス。貴女が何を考えているのか分かるわ。トッカンクイーン先輩の事を考えているでしょう?」
えっ? 何で分かったの? アバロン本当に凄い。もしかしてエスパー…?
て言うか、オークスの時にも私はトッカン先輩に心を読まれている。もしかして私が『分かりやすい』だけ…?
「皐月賞、ダービーとトッカン先輩と同じ戦績で来たから『次は菊花賞で3着になりそう』みたいな事を言おうとしていたでしょ? 優勝を狙っているのだから縁起の悪い事は言わないで欲しいわ」
えぇ…? トッカン先輩だって凄いのに「縁起が悪い」は酷くない? まぁ優勝する気の娘に「次は3着かも」は確かに良くないかな? なので特に反論しなかった。
そして『本日の主役』たるフォーゲルが静かなのが気になる。まさか自分の戦勝パーティーなのに、いつもみたいに爆睡している、とかは無いよね…?
気になってフォーゲルの方へ目を遣ると、フォーゲルファンのクラスメイトや後輩やらに囲まれて、喋る間もなく食べ物を口に押し込まれていた。
これはこれで危険な気がするので、急いで止めに入ったけどね。またしても私がフォーゲルのお世話を焼く羽目になってしまった……。
☆
パーティー翌日、お昼時にハピネスシアターちゃんとメジロパラディンさんが珍しく2人で連れ立っていたので、私もご相伴に預かる事にした。
「実は
「ねー。10万人集まる有馬記念の中山でメイクデビューさせるとか、絶対私らのトレーナー頭おかしいよね!」
「あら、でもハピネスさんはそんなピリピリした空気の中を余裕で勝たれていたじゃありませんか。私なんて緊張して全然実力が出せなかったのに… それにトレーナーさんを悪く言うものではありませんよ…?」
「あ… いやぁ、あの時は色々と複雑な事情があって… でもアイリスの無茶振りって凄いんだよ〜?」
パラディンさんとハピネスちゃんとで漫才が始まったので、私は楽しく拝聴させて頂く事にする。
でも2人とも有馬記念の日にデビューしているのか。それは確かにちょっと… いやかなり緊張するよね……。
ハピネスちゃんのトレーナーであるプラチナアイリスさんは、私の会った印象では知性的で落ち着いていて、他人に無茶振りする様な人には思えなかったけどなぁ。意外と裏表のある人なのかも…?
「昨日はうちのクラスでフォーゲルやアバロンのおめでとう/お疲れ様パーティーをやったんだけど、ハピネスちゃんとパラディンさんもオークス&ダービーお疲れ様でした」
このまま放置したら悪口大会に発展しそうな予感があったので、少し口を出して方向を修正してみた。
「特にハピネスちゃんはラスト、
これはまごうことなき本気の言葉だ。エバシブさんを追い抜き、優勝したフォーゲルにアタマ差まで迫ったハピネスちゃんは間違いなくGⅠクラスのウマ娘なのだ。
「本当にそうですわね、私も感動いたしました… 逆に私なんて桜花賞に続いてオークスでも着外… はぁ、こんなにも掲示板が遠いとは…」
あわわわ、ハピネスちゃんを褒めたらパラディンさんが凹んでしまった。
慌てて「GⅠを走れるだけでも凄いですよ」とフォローしたけど、本音を言わせてもらえばそんなの『贅沢』以外の何物でもない。
「でもそういうパラディンさんだって、ティアラGⅠを不足なく走れていて羨ましいです。私なんていくら走りたくても出走レベルにすら届いてないのに…」
パラディンさんに愚痴をぶつけるつもりは無かったけど、流れでついつい悪態をついてしまった。
パラディンさんはパラディンさんで『メジロ家の復活』を賭けて、一族のプレッシャーを華奢な双肩に乗せて物凄く頑張っているのはよく知っている。
その途方も無い任務には私も出来る限りのお手伝いがしたいとは思うが、同じティアラを走るウマ娘として一方的に差をつけられるのは面白くない。
次こそ、次の『秋華賞』こそが私に残された最後のティアラ。パラディンさんに、ヴィヴちゃんに、そしてヘリアンさんやジーニアスセイントさんに勝って、絶対に夢を掴んで見せるんだ! 頑張るぞ!!
☆
日本ダービーの翌週には春のマイル戦の総決算である、GⅠ『安田記念』が開催される。
そして安田記念は、その年のクラッシック級ウマ娘が初めてシニア級ウマ娘と直接対決できるGⅠでもある。
ヴィクトリアマイルで善戦した面々の再戦が期待されたが、ここから大きく展開が変わってきた。
まずヴィクトリアマイル優勝者のスズシロナズナさんは安田記念ではなく、翌々週のGⅠ『宝塚記念』への出走を表明した。
元々マイルよりも中距離が得意な人みたいだし、これはまぁ分かる。
余談だがハピネスちゃんも宝塚記念に出走希望らしいので、人気投票の結果次第では、アイリス師匠から教えを受けた姉弟子と妹弟子の対決が早くも実現する事になる。
そして2着のオカメハチモクさんは安田記念を辞退。記者会見で話したその理由は「フランスで行われるジャックルマロワ賞参戦のため」との事だった。
ヴィクトリアマイル3位までの入賞者は、夏にフランスで行われる国際レースへの優先出走権が与えられる。
昨年の優勝者であるヤマノテレディさんもジャックルマロワ賞に挑戦したが、残念ながら結果は10着だった。
そして今年は『最強マイラー』の誉れ高いオカメハチモクさんが挑戦するというのだ。これは期待せざるを得ない。
しかし爆弾はもう1つ残っていた……。
「ジジィ… いや山西トレーナー… あたしもムーランドロンシャン賞に出たいんだ…」
ヴィクトリアマイル3着、オオエドカルチャー先輩の言葉は、チームミーティングで集まっていた私達全員の時間を止めるほどの衝撃だった。