咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
6月になって、怪我で療養していたトッカンクイーン先輩の練習に、ようやくお医者様から許可がおりた。
当初の話では7月の夏合宿までに間に合うかどうか? という事だったが、幸運な事に1ヶ月以上も早く復帰出来たのは非常に喜ばしい。
「まだ全力で走ったらダメだって言われているけど、皆に混じってコースを走れるだけでも嬉しいよ…」
この数ヶ月曇りがちだったトッカン先輩の、トッカン先輩らしい笑顔に私も癒される。私も嬉しいです。
「でね、一応
「もちろんですよ! 私なんかで良ければ是非!」
普通はこういった併走練習や模擬レースは、チームメイト同士とか仲良しの友達同士だったり、偶発的な『その場のノリ』でやる物で、前もって別チームの間で打ち合わせして行ったりしない。
新人の選考会とかはまた少し事情が変わってくるけど、まぁここでは気にしなくて良い。
ただ、現在トッカン先輩の所属するチーム〈アルカイド〉は、トッカン先輩以外はプレオープンの娘とデビュー前の娘しかおらず、ランニング程度ならともかくGⅡウマ娘たるトッカン先輩の本格的な練習に付き合える力を持った娘が居ないらしい。
そこで秋までレースの無い私に白羽の矢が立った、という訳だ。
実際〈
世代やクラスで直接競うライバルウマ娘が居ないという事も大きいが、元々は1つのチームが分派して出来た双子の様なチームらしい。詳しくは聞いてないけど。
とりあえずチーム間で決まったのは、休日で他の娘の邪魔にならない日曜日に、少し時間を作って『お試し』で走ってみる、という事だった。
午前中に走って、午後はレース中継でも見ながらミーティング、という予定になっている。
☆
「じゃあ第3コーナーの手前からスタート、コスモスが30m先行してトッカンは追撃する形でやるぞ。あくまでも勝負勘を取り戻す為の練習だからな、本気で走って脚に負担かけるなよ?」
秋月トレーナーの指示で私達2人が配置について走り出す。『併走』とはこの様に条件を付けて競り合う練習の事で、模擬レースとは全く違う。
ただ互いに走っているうちにエンジンに火が点いて、ゴールまでの『競走』になってしまうのは普通によくある事でもある。
ちなみに秋月さんは身長185cmの38歳。ボディビルダーの様なムキムキの体格で、上腕なんかトッカン先輩のウエストより太くて更に顔も厳ついので、初見だとかなり怖いし、実は私もまだ少し怖い。うちの山西チーフと仲良しで、別チームにも関わらず2人でよく飲み歩いているのは既述だ。
更にうちの新代トレーナーとも仲が良いらしく、『可愛い後輩』的な扱いで構ってきて、色々と教えてくれるそうだ。
怖そうな人だが、それでもあの温和なトッカン先輩が愚痴ひとつ言わずに付き従っている所を見るに、トレーナーとしての腕は確かで、かつ心根は優しい人なのだと分かる。
トッカン先輩が言うには、「ウマ娘に負けない為に一生懸命筋トレしている人」だとかで、ちょくちょくトッカン先輩に腕相撲勝負を挑んでは負けているらしい。
185cm男性の秋月さんが145cm女子のトッカン先輩にパワー勝負で負け続けている辺り、改めて『ウマ娘って凄いんだな』と他人事の様に考えてしまう。
トッカン先輩が寮の部屋で「秋月さんて可愛いんだよ」と言っていたのは、本人には秘密にしておこう。
1戦目以後、私が追うパターン、トッカン先輩が100m後ろから追うパターン、真横に並んで競り合うパターンと、結局600〜1000mの併走を4本走って切り上げる事になった。
一応4本全てゴールには私が先着したが、療養明けのトッカン先輩はまだまだ本調子ではない。
そして何よりも久しぶりにコースを走れたトッカン先輩のとても嬉しそうな笑顔は、私にもとても喜ばしく感じられた。
☆
そして本日は春のNo.1マイラーを決める『安田記念』の開催日。私と新代トレーナー、トッカン先輩と秋月トレーナーとで、〈ミザール〉事務所のテレビを観戦している。
私も秋の『秋華賞』が終わったら、シニア級に向けて路線を固める必要がある。恐らくカルチャー先輩同様にマイル〜中距離路線で行くと思うけど、そうなると安田記念は来年の出走レース筆頭候補になる。重要なチェック対象のレースだ。
「どうだ新代、お前の予想は?」
「そうですねぇ…」
男の人同士で担当を忘れて仲良く予想を立てているので、こちらもこちらで
本日の出走メンバーは、大本命であったオカメハチモク先輩やオオエドカルチャー先輩を欠くものの、それを補って余りある『濃い』メンツとなっている。
「ドキュウセンカンさんはいつ見ても迫力あるなぁ、私もあのくらい大きくなりたかったよ…」
そう、一番人気は昨年芝とダート両方のGⅠを勝利した『芦毛のアマゾネス』ことドキュウセンカン先輩。秋月さん並みのマッチョな体格のウマ娘のパワーを備えた、まさに『弩級』の存在だ。
ところで『ちっちゃ可愛い』トッカン先輩がデカマッチョになるのは、私としては断固として阻止したい。
2番人気は昨年の覇者、真っ黒なゴスロリ勝負服が素敵なブラッドハーレー先輩。だがこの1年はマイルチャンピオンシップで4着、今年の大阪杯で5着とイマイチ勝ち切れていない。
しかし今年のシニア級はツキバミさんを始め、トウザイブレイカー生徒会長、ブラックリリィさん、スズシロナズナさん、オカメハチモクさん、スメラギレインボーさん、そしてカルチャー先輩等々伝説的なメンバーが揃っている。その中できちんと入着して結果を出せているのは十分に凄いと思う。
他にも、格子模様の銀色の
そして私達の住んでいる栗東寮の寮長であり、とっても頼れる姉御でもある5年目の大ベテラン、ヤオビクニ先輩。
他にも短距離レースの常連強豪であるヤマノテレディ先輩、ファイヤーブレス先輩、チャームラズベリー先輩などもいる。
更に先月の『NHKマイルカップ』に勝って、今年のクラッシック級マイルチャンピオンとなった清楚系美人のナチュラルシャインさん。
そして我がクラスメイトにしてティアラ路線の大先輩、『苦労人のメガネっ娘』ローゼスストリームも参戦している。
イチオシはやはりローゼスだが、ヤオビクニ先輩にも普段から色々とお世話になっているので、ここは素直に応援したい所。
☆
レースはいつも通り「逃げ」るドキュウ先輩とセイバー先輩を皆が追う形で進行、最終コーナーでナチュラルシャインさんが2人に追い付き躱すが、そこから伸びきれずに失速、空いた一瞬の隙を突いて、ローゼスが「無理矢理」と言って良いレベルで体を捩じ込み先頭に立つ。そしてなんとそのまま逃げ切って見事に優勝を飾った。
いつも上品で落ち着いているローゼスが、あんな荒っぽい走り方をするなんて初めて見た、それだけ必死だったって事なんだろうね……。
何度もGⅠに挑戦し続けては惜敗を重ねていたローゼスだが、ここでようやく初のGⅠ勝利の栄冠を手に入れた。ほんの僅かなスペースに体を捩じ込んだ、大人しいローゼスらしからぬ最後の動き、あの積極性と貪欲さは是非とも見習わなくてはならない、と感じたよ……。