咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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私、自分の事しか考えていませんでした

 夏休みから「トレセン学園の夏合宿が始まる」のではあるが、夏休み開始直後の1週間は猶予があり、その間は本当に普通の夏休みとして『青春』を謳歌して過ごしても構わない。

 

 合宿前の準備を兼ねて実家に帰る娘も居れば、「サマーウォーク」と呼ばれるトレセン学園がスポンサードした生徒向けの企画で、一般よりも格安料金で遊べる山でのキャンプや海でのサーフィン、パラグライダー体験等のレクリエーションに参加して英気を養う事も出来る。

 

 もちろんそれらを全て『無し』にして、学園での自主練習に注ぎ込む娘も少なくない。

 私も今年の夏は秋華賞に向けて特訓する気マンマンでいたのだが……。

 

「最近のコスモスは根詰め過ぎだから、サマーウォークで少し羽根を伸ばしてきたら? バー(ババヤーガ先輩)は海に行くって言ってるけど」

 

 オオエドカルチャー先輩と山西チーフが渡仏してしまって少し寂しくなったトレーナー事務所で、バー先輩の担当トレーナーである林トレーナーに話しかけられた。

 

 う〜ん、私としては夏の間に出来る限りの特訓をして、少しでもレベルを上げておきたいんだよなぁ……。

 

 メジロパラディンさんやヴィブリンディちゃん、更にヘリアンさんやジーニアスセイントさん、ヴァーンズインさんといったティアラのライバル達、ただでさえ追いつけていないのに彼女らに勝つにはそれ以上の鍛錬が必要だ。

 

「…………」

 

 否定の言葉を頭の中でうまくまとめようとした数秒間の沈黙の間に、新代トレーナーと林トレーナーが困り顔でアイコンタクトをしていた。つまり新代トレーナーも私に「休め」って言いたいのかな…?

 

「コスモスちゃーん、走りたい気持ちも分かるけど、たまにはトレーナーさんも休ませて上げないと可哀想だよ〜?」

 

 横から私の肩に手を置いてきたバー先輩の言葉にハッとさせられる。確かに新代トレーナーは私の為に休日らしい休日も無く、影に日向にずぅっと私を支え続けてくれた。

 

 これから夏合宿でまた長期間の迷惑をかける事を考えると、ここは私よりも新代トレーナーを休ませる事が急務だと思い至る。

 

「そうですね… 私、自分の事しか考えていませんでした。新代さんも働き詰めだし、私が休めば新代さんも休めるんですもんね… 分かりました、サマーウォークで少しのんびりしてきます…」

 

 強さに対して後ろ髪引かれる想いはあるが、特訓は合宿本番までお預けだ。よし、そうと決まれば何をするかこれから考えないと。

 …でもトレーナー達の表情とバー先輩のあの言い草には何か引っかかる物があった。確証は無い、ただの女の勘だけど… う〜ん、何だろう…?

 

 ☆

 

 サマーウォークで何をするか? それを決める為に、私は学園の図書室でサマーウォーク用のパンフレットを読み比べていた。

 

 急に決まった事なので予定は白紙だし、大体の人気企画は既に締め切られてしまっている。今からでは誰か友人の行く企画に一緒に乗らせてもらうのも気が引けるし、かと言って1人で何かするのも寂しくて嫌だ。

 

 一応バー先輩からは「一緒に海に行こうよ」とは誘ってもらっているけど、バー先輩界隈の友人達とは全く面識が無いので、それはそれで少し怖いし居心地も悪そうだ。

 

「はぁ… トレーナーさんもどうせならもっと早く言ってくれれば良かったのにぃ…」

 

 トレーナーさんが悪い訳では無いのだけど、ついつい口からは恨みがましい言葉と溜め息が出てしまう。いやぁホントどうしよう…?

 

「ねぇコスモス、ちょっと良いかな…?」

 

 不意に声をかけられて驚いて相手を見上げる。そこにはクラスメイトのジュエルフラッシュが申し訳無さそうに立っていた。

 

 ☆

 

「ごめんね、忙しかった?」

 

「ううん、急に暇が出来ちゃったから『何しようかなぁ?』って思ってただけ。私に何か御用?」

 

 ジュエルは私と同じクラッシック級のウマ娘。席順が近かった事から話す様になったけど、学園の外に一緒に遊びに行った事はないし、普段の友人グループも別。良くも悪くも『クラスメイト』といった感じの関係だ。

 

 だからこんな席で改まって話しかけられるのは、とても珍しいと言える。

 

「あ… えっと… ちょっと折り行ってコスモスに相談があってさ… 聞いてくれる…?」

 

 担当トレーナーにも言えない様な、何か重要な話であろう事は容易に察せられた。私なんかで役に立つとは思えないけど、まぁ気休め程度にならなれるかな?

 私が黙って首肯すると、ジュエルはやや苦しそうに胸の内を語りだした。

 

 彼女の話はざっくり言うと「未だに未勝利で全く未来に光が見えない。コスモス(わたし)が連敗から立ち直って勝った事に、何か秘密や秘訣があるなら教えて欲しい」という物だった。

 

 まずは『初勝利』、これが私も苦しめられたトゥインクルシリーズの原点だ。

 

 クラスメイトのシニア級が現在3名である事は既に書いた。そしてクラスの残りのうち3割はジュニア級で、現段階でまだデビューした娘は居ない。

 

 私やフォーゲルフライを含む、最も多い残りのメンバーがクラッシック級で、ここが一番差が激しい。

 

 フォーゲルやアバロンヒルの様に「一生で一度しか走れない」GⅠの栄冠を既に手にした者も居れば、明日をも知れぬ未勝利戦で日々戦々恐々と暮らす娘も居るのだ。

 

 6月から今年のジュニア級の新戦が始まっている。去年のジュニア級、つまり今年のクラッシック級のウマ娘には間もなく『新』としての立場が完全に無くなる。

 

 8月いっぱい、夏休み期間の間に初勝利を飾れなかったクラッシック級のウマ娘は、以後学園のレーサー養成目的の『競技科』からは除籍され、『一般科』或いは『サポート科』への転籍か、自主退学かの選択を迫られる。

 

 ここで言う『一般科』は他の学校の普通科と同様で、中学や高校の学問カリキュラムだけを学ぶ。

 『サポート科』は自分では無く他者の走りを完成させる為の研究を主に学ぶ所で、トレーナー予備校としての位置付けが強く、サポート科出身で現在トレーナーになっている学園OGも少なからず存在する。

 

 この様に複数のルートはあるが、実際未勝利で終わったウマ娘はその99%が自主退学を選択する事になる。

 

 元々『一般科』は卒業間近のウマ娘を「高3の9月になって転校させるのはキツかろう」と、その救済を目的とした特殊な措置であり、わざわざ学問を究める為に残る場所では無い。

 何よりかつての友人やライバルが懸命に走っている姿を間近で見せつけられて、勉強など手につくはずも無いだろう。

 

 『サポート科』は元々トレーナー志望で入学する娘達のレベルが初めからとてつもなく高く、途中から編入しても知識がまるで追い付かなくて、結局単位が取れずに脱落してしまう。

 

 そしてジュエルはまさにその崖っぷちに立っているのだ。私の記憶では彼女の戦績は現在6戦6敗、かつて5戦5敗で苦しんでいた私以上に苦しい立場にある。

 

 もちろん、ジュエルに限らずそれでも頑張って挑戦し続ける姿勢と根性は素晴らしいのだけれども、そんな娘も敗戦を重ねる度に少しずつ目の色が失われていくのがハッキリと見て取れる。

 トレーナーですらない他人からは、どうにもしてあげられないのが何とももどかしい。

 

 ジュエルを応援したいけど、必勝の策なんてあるわけ無いし、そんな物があるならむしろ私が知りたいし… う〜ん、どうすれば良いんだろう…?

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