咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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私の場合は『歌』かな…?

「図書室じゃ他の娘の邪魔になるから、ちょっと移動しようか…?」

 

 図書室でこれ以上ペラペラお喋りしていると、図書委員さんに怒られてしまう。そんな訳で私達がやって来たのは……。

 

「大樹の(うろ)かぁ… あまり好きじゃないけど、話の内容的にこれ以上無いベストプレイスかもね…」

 

 同行しているジュエルフラッシュが「ハハッ」と力無く笑う。

 そう、『大樹のウロ』とは、学園の庭にある直径50cm程の大きな切り株の事で、そこには掘り下げられたかの様な大きな穴が空いている。 

 その歴史は古く、何時(いつ)からあるのか? 何の樹なのかすらも最早誰にも分からない代物だ。

 

 レースで負けた娘や故障で走れなくなった娘が、その憤懣(ふんまん)やる方ない気持ちを大声で穴にぶち撒けてストレスを発散する場所として、大昔から学園生徒に親しまれて(?)いる。

 

 私も未勝利時代に2、3度使わせて貰った事がある。負けた悲しさや悔しさ、涙をぶち撒けて再起を誓い、今の私があると言える。

 

 ☆

 

 ここ中央トレセン学園は、ほぼ全員が地元で負け無し「天才」「鬼才」と讃えられて、「我こそが前人未到のGⅠ『10勝』を果たす者なり」と、自信と野望に胸を躍らせたウマ娘達が毎年1000人近く入学してくる。

 

 そして『そんな娘』ばかりを集めた苛烈な環境で、如何に自分が「井の中の(かわず)」であったかを思い知らされる。手前味噌で恐縮だが、その代表的な例が何を隠そうこの私だ。

 

「漫画のような連戦連勝のヒーロー」には憧れるが、そんな物はそれこそ漫画の中だけの存在だ。

 

 まぁトキノミノルさん、シンボリルドルフさん、ディープインパクトさん、そしてツキバミさんと、20年に1人くらいはそういった「負けた事がニュースになる」レベルの『ヒーロー』が生まれてはいる。

 

 だがそれは毎年約10万人生まれるウマ娘が、全国から厳選された1000人の新入生に絞られ、更にその中から20年に1人しか出現しない存在だ。

 

 どんなに憧れて夢見ても、どう逆立ちしても私たちはそんな存在(ヒーロー)にはなれないし、「現実」の1勝が遥か遠くにある事実は微塵も揺るがない。

 

 地元で一番のウマ娘でも、中央(ここ)ではヒーローどころか端役(モブ)にすらなれない事がある。それがトレセン学園の決して変える事の出来ない「現実」なのだ……。

 

 ☆

 

 大樹のウロ近くのベンチに私とジュエルの2人で座る。始めに口を開いたのはジュエルだった。

 

「コスモスはさ… 5敗してから勝てたじゃん? その時の心境とか、必勝を誓うモチベーションの保ち方とか、何でも良いから教えて欲しいんだよね…」

 

 ジュエルの一言一言がとにかく苦しそうで、勝ちに恵まれずに焦る気持ち、悲しい気持ち、憤りの気持ちの全てが込められていた。

 その『絶望感』とすら言えるどうにもならなさを私は十二分に共感できるし、そんな悲しい現状を救ってあげたいと思う。

 

「う〜ん… 私の場合は『歌』かな…?」

 

「『歌』…?」

 

 私の答えの意味が理解できなかったらしく、ジュエルは怪訝そうに顔をしかめて見せた。

 ちょっと待ってね、今分かりやすく伝わる様に頭の中を整理しているから。

 

「私、年始の歌謡祭で『GIRLS' LEGEND U』を歌うメンバーに選ばれてステージに上がったのね…」

 

「うん…」

 

 ジュエルの答えはイマイチピンと来ていないらしかった。まぁ72人で歌ったステージの中の1人に過ぎなかったから、親しい人以外の記憶に残っているとは思えない。

 

「そこで私はさ、10万人のお客さんの前で歌う感動と興奮を知ってしまったのよ… そしてGⅠレースで勝負服を着て颯爽と走る人達、GⅠ専用楽曲を高らかに歌い上げる人達に『ズルい!』って思っちゃったんだ」

 

「ズ、ズルい…?」

 

 ジュエルに私の気持ちが伝わらなくて、彼女の眉の形が完全に八の字になっている。次ね、次でちゃんと結論出すから。

 

「『こんなキラキラした場所や、こんな心が熱くなる場所をアンタ達だけで占有しているのはズルい! 私にもその席を1つ寄越しなさいよ!』っていう気持ちが湧いてきてさ… でもその為には『勝つ』しか無いじゃない? それで一発オリャー!って気合い入れたら勝てました、的な… これで伝わるかなぁ…?」

 

 ジュエルは私の言葉を咀嚼する様に「キラキラ」とか「ズルい」とかをブツブツ呟いている。本当はこんなネガティブな話じゃなくて、もっと明るい話でアドバイス出来れば良かったのだけど、生憎私はそんなネタを持ち合わせていない。

 

「…つまりコスモスは、GⅠのレースやステージみたいなキラキラした場所に居たくて、根性で初勝利をもぎ取った、って感じで良い?」

 

 うーん、まぁざっくり言うとそんな感じだと思う。確信には少し心細いけどジュエルに対して「うん」と頷いてみる。

 

「なるほど、少し分かる気がする… 沢山のお客さんから沢山の声援を浴びてGⅠを走る… 気持ちいいだろうなぁ… 羨ましいなぁ… フォーゲルフライちゃんなんて授業やテスト赤点なのに既にその世界にいるんだよなぁ… うん、確かに『ズルい』よね! 分かるよ!」

 

 ジュエルがフンスと鼻息を荒くして私に同意を求める視線を送る。フォーゲルの話はともかく、私の気持ちは伝わったかな…?

 

「…実は私、今週末に福島での未勝利戦走るんだ。7戦目の正直で、これでダメならもう本当に諦めようって思ってる… でもコスモスの話を聞いてたら、気持ちの面ではスッキリしたよ。その『(ねた)みパワー』って良いかもね」

 

 その言い方もう少しどうにかならないかなぁ…? 『妬みパワー』って、なんかイメージ良くないと思うの。

 まぁそれはそれとしてレースは頑張って欲しい。

 

「もし勝てたら私もGⅠ目指すよ! 『菊花賞』の3000mは自信ないから、コスモスと同じ『秋華賞』を狙ってみる。コスモス、私から見たらアンタだって『ズルい』奴の1人なんだからね! レースで会ったら真剣勝負してもらうわよ!」

 

 ジュエルの中で何かが吹っ切れたのは間違いなさそうだ。図書室で私に話しかけて来た時の亡霊の様な覇気の薄さはもう無い。

 

 少しでも力になれたのなら嬉しいけど、私も『ズルい』対象なの…? 9戦2勝の全然パッとしないウマ娘なんですけど…?

 

「よーし! 何か気合入った!」

 

 ジュエルはそう言って『大樹のウロ』に近づき、その大穴に顔を突っ込む。

 

「次こそ勝ぁーっつ!! 私だってGⅠ狙ってやる! それがコスモス(ともだち)への恩返しだぁーっ!!」

 

 ひとしきり叫び終わって振り向いたジュエルの笑顔は、夕陽に照らされたせいか、とても輝いていた。

 

 ☆

 

 2日後。

 ジュエルからLANEが届く。そこにはVサインのアイコンが添えられた「勝ったよ! コスモスのおかげ。本当にありがとう!!」の言葉が踊っていた……。

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