咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「コスモス先輩、握手してもらって良いですか?」
「コスモスキュートさん、私にも御利益をお願いしてもいいかしら?」
「ねぇコスモス、お守りにしたいから尻尾の毛を1本ちょうだい」
ジュエルフラッシュが勝った翌日、私は一躍『時の
というのも、7戦目にしてようやく初勝利を上げたジュエルが、彼女のウマスタグラムで「ついに勝てました! 勝利の女神コスモスキュート大明神のおかげだよ〜!♡」と投稿し、それを見た未勝利の娘達が入れ代わり立ち代わり、私に御利益を求めて群がって来たのだ。
私は勝利の女神でも何でもないし、むしろ自身が負けの混んでいる弱小ウマ娘だと自覚している。そんな私に御利益なんかある訳無いだろと力説しても周りの娘は聞く耳を持たない。
そこまで必死なのも気持ちは分かるけど、私に願掛けするよりも外周でも走ってきた方が強くなれると思うよ…?
バイオリンを始めとする弦楽器の弦の材料にも使われるウマ娘の尻尾の毛を、お守りとして使う文化は古今東西にあるらしいが、学園で急に言われても困る。
埃や汗に塗れている体毛を贈呈するのは、女子としてかなり抵抗がある。せめて風呂上がりとかにしてもらえないだろうか…?
☆
「楽しい事になってるねぇ。あたしも御利益求めて『コスモス
「コスモス詣でって何よ…?」
どうにか一段落ついて、たまたま合流したメジロパラディンさんとヴィブリンディちゃんとの3人でランチタイム。ただでさえ疲れているのに、ヴィブちゃんが更に疲れる事を言ってくれる。
「でもコスモスさん霊験あらたかな雰囲気はありますよね。
もぉ、パラディンさんまで悪ノリして! 困っているのだから助けて欲しいんだけどなぁ……。
「お金は取ってません。それに万が一本当に御利益があるなら同じ路線のライバルに渡さずに全部自分で使います!」
私のキレ気味のリアクションに2人は「そりゃそうだ」と爆笑する。これから夏合宿だっていうのに、めちゃくちゃ疲れているし、その疲れを癒そうと画策していたサマーウォークはまだ何の計画も立てられていない。
うが〜っ! 私はどうすればいいんだよぉ〜っ!? もうサマーウォークとか無視して学園でひたすら自主練してようかしら…?
「そう言えばコスモスさん、サマーウォークの予定が立たないというお話でしたわね? もしよろしければ
かなり唐突にパラディンさんのお誘いを受けた。確かに最近の東京の夏は暑いよね。私の故郷の四国より暑いもんね、ホントどうなっているんだろうね?
しかし避暑地かぁ、メジロ家なら軽井沢辺りに大きな別荘の1軒や2軒持っていても何の不思議もない。海とか山とかで無理矢理はしゃぎ回るよりも、涼しい所でノンビリしながらテニスでもやるのは悪くないかも知れない。
しかもパラディンさん相手ならババヤーガ先輩の友人がたよりは気を遣わずに接する事が出来るだろう。
「あ〜、ハイ。もし良ければ私も連れて行って貰えたら嬉しいです。まだ募集中のイベントにはイマイチそそられる物が無くて…」
☆
「あ〜、確かに凄く良さそうな所ですよねぇ… でも何か雰囲気が物々しくありません? 警戒厳重、みたいな…」
話をした翌日には私は拉致同然に車に乗せられ、目的地も告げられず手ぶらのまま小型の飛行機に。更に着陸した後も目印も何も見当たらない草原と林道を走って辿り着いた先のお屋敷にパラディンさんは待っていた。
「はい、ここはメジロの私有地なので、不審者対策をさせていただいております。なのでコスモスさんも出来れはここの事を口外なさらないで頂きたいですわ」
…まだよく状況が飲み込めていないのだけれども、どうやら私はメジロ家の練習施設に拉致られて来たらしい。
「新代トレーナー様には、家の者からコスモスさんをお預かりしている旨は伝えてあります。合宿まで数日足らずの短い期間ですが、一緒に頑張りましょう!」
頑張りましょうと言われても、思いっきり気後れしてしまいアタフタと挙動不審な行動しか出来ない。それにしてもやっぱりメジロ家って凄いし、パラディンさんもお嬢様なんだなぁ……。
「ここはメジロ本家のある北海道の洞爺湖町ですわ。この時期はとても過ごしやすくて快適なんですの」
ほ、ほ、北海道?! 確かに東京よりひんやりしているけどさ、まさか1000km以上も離れた場所に連れられるとは予想の範囲外にも程がある。
「もちろん普通に町に出て、のんびりと北海道旅行を堪能して頂いても結構ですけど、個人的には併走含めた共同練習を提案いたしますわ」
「は、はぁ… 何か言葉が出てこないです… でも何で私なんかをそんな大層なお役目に…? メジロの人なら併走相手なんていくらでもいそうだけど…?」
私の質問にパラディンさんは視線を逸らしてしばし『う〜ん』と考える振りをする。
「理由はいくつかあります… まず
パラディンさん言葉の意味が分からなくて、私は頭の上に?マークを3つくらい並べて首を傾げている。私のデータに如何ほどの価値があるのか…?
「これはもう私の『勘』なのですが、私がラストティアラである秋華賞を狙うに当たって最大の障壁、恐らくそれはヘリアンさんでもジーニアスセイントさんでもなくコスモスさん、貴女なのです」
それを聞いて更に?マークが増える。GⅠホルダーのライバルよりも私が脅威とか、そんなんあり得ないでしょ。
「なので私は… いえメジロ陣営は『コスモスキュート』の癖や弱点等のデータを求めています。もちろんデータ提供はお互い様として、私の未編集のデータもお土産に差し上げますわ」
いつも温和な顔つきのパラディンさんが、目を細め眉を吊り上げ真剣な顔つきで話している。ここまで言って「うそだよ〜ん」みたいな展開にはならないだろうな……。
「後は、コスモスさんの『御利益』とやらを私が独り占めしたいなぁ、というのも少しあります。手段は選んでいられませんから」
一転表情をガラリと崩して微笑みながら話すパラディンさん。普段落ち着いた雰囲気を纏っている分、こういう時に見せる少女らしい笑顔が、卑怯なくらいとても可愛らしい。
「もちろんお嫌でしたら無理強いはしませんし、すぐにでも東京へお送りします。でもどうですか? 悪い話じゃ無いと思いますけど…?」
うむむむむむ… 確かに学園と遜色ない施設を持つメジロ家で訓練できればレベルアップも叶いそうだし、何よりパラディンさんと一緒なら楽しくトレーニング出来そうなんだよね……。
「じゃ、じゃあ短い期間ですけどお世話になります。よろしくお願いします!」
私は改めてパラディンさんと周りのスタッフさんに頭を下げた。
☆
わずか3日の滞在だったけど、走って温泉入ってお喋りして大笑いしてまた走って… と繰り返していたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
パラディンさんが居てくれたから、単なるサマーウォークではなくて北海道旅行+遠征トレーニングを満喫できた。
「パラディンさん、本当にありがとうございました! とっても有意義な夏休みを過ごせました。なんてお礼を言ったら良いのか…」
私の礼に対して、パラディンさんはにこやかな表情のままゆっくりと首を横に振った。
「いえいえ、こちらこそ貴女のデータと御利益、それに新代トレーナーさんも知らない秘密の寝言とかたくさんの情報を入手いたしましたので…」
いやちょっと待って! 最後のはダメでしょう!?