咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
夏合宿も半月を過ぎたが、普通の走り込みや遠泳等、『地獄の強化合宿』と聞いていた割には思ったほどハードじゃなかった印象だ。何故か外でクイズ大会もやったりした。
あ、たまに外国の採石場等で使う、ビルみたいな乗り物に付いている直径5m幅2mの大きなタイヤを砂浜で引かされたのは結構しんどかったかな…?
それでも「合宿効果」とでも言うのか、普段の学園でのトレーニングよりは力が身に付いている気がする。まぁ「気がする」だけの可能性もあるけど……。
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ある日、食堂に行くとメジロパラディンさんとハピネスシアターちゃんが同じテーブルで食事をしていた。
2人ともトレーナーさん帯同で、合計4人で楽しそうに話している。
私はその時はトッカンクイーン先輩やベクタースキャンさんと3人で別テーブルで食事していたので、その場は「あ、パラディンさんとハピネスちゃんいるなぁ」程度の感想しか抱かなかった。
ちなみに2人のトレーナーさんのうち、ハピネスちゃんのトレーナーであるプラチナアイリスさんについては既述だが、パラディンさんのトレーナーにはこれまで触れていないので、この機会に紹介させてもらおう。
名前を『
凄く冷徹な人でデータ至上主義、機械かと思うほどに抑揚の無い喋り方をするが、人当たりは結構キツくて強い。ウマでもヒトでも一定レベル未満の人間を『人間』とは認識しないタイプだと思う。
そしてパラディンさんのトレーニングも完璧なスケジュール管理で臨むスーパーレディで、パラディンさんもそんな北野トレーナーに全幅の信頼を寄せているっぽい。
しかも北野トレーナー自身もメジロ家ゆかりの家柄で、誰もが尻込んで辞退者続出だったパラディンさんの背負う『メジロ家再生計画』のトレーナーとして、自ら立候補したらしい。
余談だがメジロ家の人達は皆さん「北野」姓を名乗るそうだ。私が「目白さんじゃないんですね」と言ったら「目白は元々家名ではなく、創始者の出身地の名前なんです」と教えてもらった。へぇ〜。
なんでそんなに私が北野トレーナーに詳しいかというと、先日北海道に拉致られてパラディンさんとプチ合宿した際に、北野トレーナーに私の面倒も見てもらった経緯があるからだ。
苗字の話題が出たついでに話したのだが、パラディンさんの幼少時のヒトネームは『
ウマ娘とはウマソウルを宿して生まれてくる女の子の事だが、私達のウマネームはその宿ったウマソウルの『
どの様に決まるかと言うと、ウマ娘を宿したお母さんが妊娠中どこかのタイミングで、まるで「神のお告げ」の様にウマネームが閃くんだそうだ。
一度母親に私の時はどうだったのか聞いた事がある。すると「お腹が大きくなり始めた頃かな? お風呂に入ってたら急に『コスモスキュート』ってドーンと思い浮かんだのよ。あれは不思議な体験だったわ」だそうで、未産婦の私には全くピンと来なかった覚えがある。
ウマ娘は生まれると当然役所に出生届を出すのだが、その際に本名のウマネームと同様に、各種行政サービスを受ける為の戸籍補助として日本人名も登録するのが通例だ。
別に「田中 スペシャルウィーク(例)」とかでも良いのだが、世間の親は可愛い娘にあらかじめ決められた名前ではなく、自分らで考えた可愛い名前で呼びたがる傾向がある。
と言う訳で、メジロパラディンさんはその誇り高いウマネームと共に『北野さんちの可愛い聖美ちゃん』としての2つの名前を持っている訳だ。
ちなみに私も『コスモスキュート』を自分の名前だと自覚するまでは『
なにげにコスモスキュートと言う名前が事前に分かっていたからだろう、両親が私に付けてくれた
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話がえらく脱線してしまった。そんな感じでまったり食事をしていたのだが、事件は唐突に始まった。
「ねぇアンタ、メジロのウマ娘とか言ってるけど、そんな過去の栄光を引き摺って没落した家を再興しようとか『みっともない』って思わないの?」
やけに高くて大きな声で発せられたその声は、瞬く間に食堂全体を凍らせた様に沈黙をもたらした。
パラディンさん達のテーブルの横で、両腕を腰に当てながら居丈高に振る舞う小柄なウマ娘が1人。
「あれは… ヘリアンさんですね…」
スキャンちゃんが恐る恐る声を出す。私達のテーブルからはそのウマ娘の背中しか見えず、顔は確認出来ない。
ヘリアンさんは私と同じティアラ路線のウマ娘で、今年の桜花賞と昨年の阪神ジュベナイルフィリーズというGⅠレースを2勝しているティアラ同期のエース。
体は小さいけど自信過剰で、自分に負けた相手を「ザコ」と呼ぶ、まぁ何と言うかトラブルを自ら引き起こすタイプの人だ。
そのヘリアンさんがパラディンさんに絡んでいる。それもパラディンさんが一生懸命頑張っている『夢』を否定しに来ていた。
「あわわわ… どうしましょうトッカン先輩…?」
「お、おお落ち着いてコスモスちゃん… 少し様子を見ましょう…」
相談した相手が悪かった。私とトッカン先輩のペアでは精神的にこういった荒事の処理が出来ない。隣のスキャンちゃんも下を向いて固まっている。
ヘリアンさんの横暴は許せないけど、だからと言って私達はそこから立ち上がる勇気と度胸を持ち合わせてはいない。
「ちょっと、謝りなよ! そんな失礼な言い方って無いよ?!」
パラディンさんの隣にいたハピネスちゃんが立ち上がりヘリアンさんに猛抗議する。こういう時にすぐ動けるの凄いなぁ。あの行動力は羨ましい。
ハピネスちゃんと同じテーブルのアイリストレーナーと北野トレーナーは涼しい顔で静観している感じ。いや、多分2人とも内心はブチ切れていると思う。眉毛が吊り上がってるもん。
「嫌よ。事実なんだから謝らないわ。それにGⅠひとつ勝ったくらいで、偉そうにあたしに意見しないでよね!」
ヘリアンさんも負けじと反論する。たとえ事実でも酷い事は言わない方が良いと思うんだけど、GⅠの勝ち数とかで判断されたらほとんどの生徒は何も言えなくなってしまう……。
「じゃあ私だったら物申しても良いかしら…? ご飯が不味くなるから
ヘリアンさんの背後から彼女の肩に手をかけたウマ娘がいた。栃栗毛のショートへアでぶっきらぼうな物言いのあの人は……。
「あによ?! アンタが何だって… あ…」
肩に手をかけた相手に抗議しようとヘリアンさんが振り向き、声の主と対面、そのまま顔を青くして言葉を失ってしまう。
「アンタ、スズシロナズナ…」
そこに居たのは現在までGⅠを3勝し、秋には凱旋門賞への挑戦を表明している、前年の年度最優秀ウマ娘であるスズシロナズナ先輩だった。