咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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傍から見てて気が気じゃなかったですよ…

「ふ、ふん! 興が削がれたわ。じゃあね!!」

 

 スズシロナズナ先輩相手には形勢不利のまま、精一杯の強がり逆ギレムーブを見せてヘリアンさんは去って行った。ヘリアンさんってオオエドカルチャー先輩以上に攻撃的な人みたいだから、レースでかち合ったらちょっと怖いなぁ……。

 

 ヘリアンさんの去った後、メジロパラディンさん達のテーブルで、しばし奇妙な沈黙があった。

 

「…ありがとうナズナ。貴女が来てくれなかったら、私がヘリアン(あのこ)を引っ叩いていたわ」

 

「こんな人目のある所で暴力事件起こしたら、今度こそトレーナー免許剥奪されちゃうよアイリス…?」

 

 ここでまた少し間が空く。そうか、プラチナアイリスさんは今でこそハピネスシアターちゃんのトレーナーだけど、去年まではナズナ先輩のトレーナーだったのよね。

 

 去年ナズナ先輩が大怪我をして、半年もの休養を強いられた事の原因を、大手マスコミを始め町の噂ですらもアイリスさんの責任に負い被せて大バッシング大会が行われた。結果アイリスさんはその責任を取ってチームを離脱、今はハピネスちゃんのトレーナーになっている。

 

 その辺りの裏事情も含めて、私はハピネスちゃんから聞いてはいるけど、世間では… いやトレセン学園の中ですら「プラチナアイリスは担当を使い潰す血も涙もない鬼トレーナー」という評判は生き残っている。

 

「それに私もこっちのテーブルに用があったからさ、あのヘリアン(チンチクリン)には早く退()いて欲しかったのよね…」

 

 ナズナ先輩は照れ隠しなのか、あらぬ方向を向いて独り言の様に答え、その後真っ直ぐアイリスさんに向き直った。

 

「アイリス… 私、フランスに行って世界最高峰のレースに挑んでくるよ。アイリスにだけは直接その報告がしたかったんだ…」

 

「うん… 応援してる。悔いの無いように走り切ってきなさい… あとヴィクトリアマイルの優勝もおめでとう。マイルでカメに勝つなんて凄いわね」

 

 ヴィクトリアマイルは5月にカルチャー先輩が3着で終わったレースだけど、その時の1着と2着がナズナ先輩とオカメハチモク先輩。2人は3着以下を大差でぶっちぎってなおかつ、その着差が『ハナ差』という、とんでもないレースを繰り広げた。

 

「ありがとアイリス… 本当は宝塚記念も勝って弾みを付けたかったんだけど、ハピネス(そっちの子)に持っていかれちゃったからねぇ… まさかこんなに早くアイリスの教え子にやられるなんて…」

 

 ナズナ先輩の視線がアイリスさんの隣にいるハピネスちゃんに移る。まさかのロックオンにヘリアンさん相手には威勢の良かったハピネスちゃんも一気に青褪めて固まってしまった。

 

「ふふ〜ん、どうよウチのコ? 強かったでしょ? ナズナさえ良ければ年末にでも再戦の機会を作ってあげるわよ?」

 

 煽るような口調で楽しそうに破顔するアイリスさん。それを聞いたナズナ先輩の目が細く光る。良いのかな? 大丈夫なのかな? またケンカにならないかな…?

 

「ほぉ〜ん、良いじゃん、やってやろうじゃん。多分エバシブも混ざりたがるだろうから、皆で走ろうよ」

 

 自分を置き去りにしてどんどん話が決められていくハピネスちゃん、顔面真っ青で今にも泣き出しそうだ。

 エバシブさんはこの場にいないけど、ナズナ先輩と同じチームだからその意向は分かっている、という話なのかな?

  

 怯えるハピネスちゃんに更に追い打ちを掛ける様にナズナ先輩はハピネスちゃんを覗き込む。

 

「歌謡祭で私に挑戦的な目で握手を求めてきた事、忘れてないからね?」

 

 ほぉ、あの歌謡祭の時にそんなイベントがあったとは… 知っていたら私も見たかったなぁ。

 

「ひぇぇ、そ、その節は大変ご無礼を… あ、あれはアイリスにやれって言われただけで、私はナズナ先輩のこと尊敬してますからぁ〜…」

 

「あ、ひどぉいハピネス、私のせいにしたぁ〜」

 

 そこでオチがついたみたいで、ナズナ先輩とアイリスさんとで大笑いになる。パラディンさんと北野トレーナーも笑顔になっている。ハピネスちゃんだけがどんな顔をしていいのか戸惑っている感じだった。

 

 笑い声が落ち着いたタイミングでアイリスさんがおもむろに立ち上がり、ナズナ先輩に手を差し出した。

 

「貴女の成長がとても嬉しくて誇らしいわナズナ。これからも良いレースを見せてね!」

 

「アイリス… うん、約束するよ! 今後アイリスからどんだけ刺客を送り込まれても全員返り討ちにしてやるんだから!」

 

 ナズナ先輩がアイリスさんの手を握り返し宣言する。師弟であり友人であり、時にはライバルでもあるアイリスさんとナズナ先輩の関係ってとても素敵だなと思った。

 

「大きな騒ぎにならなくて良かったよ… 正直ナズナちゃんとアイリストレーナーの方がヘリアンさんより緊張感あったかも…」

 

「ですねぇ。傍から見てて気が気じゃなかったですよ…」

 

 トッカンクイーン先輩の締めに私も乗らせてもらった。傍観者ながらに寿命が縮む思いだったよね……。

 

 この翌週、7月いっぱいでナズナ先輩は合宿を離れ、新たな挑戦の為にフランスへと旅立って行った。

 

 ☆

 

 夏合宿期間中はURAの管理する東京、中山、京都、阪神の4大レース場は休業状態になるが、小倉や福島といった地方のレース場では普通にレースが行われ、重賞も開かれている。

 

 その中で8月頭、新潟プレオープン戦、芝2200m。ジュエルフラッシュが新たなレースに挑んでいた。

 

 ジュエルは初勝利の直前に「ティアラを狙う」と私に宣戦布告してきた。それが本気か冗談かは計り知れないが、ラストティアラである秋華賞の距離が2000mである事を考えると、まるっきりの冗談だとは思えなくなってくる。

 

「もう1回コスモス大明神の力を貸して。テレビ画面越しで良いから応援して!」

 

 LANEでその様な熱い要望を受け、たまたまそこにトレーニングの隙間時間が重なった事から、私は不本意ながら部屋のテレビの前で級友を応援する事になった。

 

 ジュエルの脚質は『逃げ』、スタートから飛び出して踏み荒らされていないコースを走れるのは大きなアドバンテージだが、早めにスタミナを消費しやすい為に終盤の加速力不足が問題になる。

 

 それこそツキバミさんの様な莫大なスタミナがあれば、「『逃げ』て『差す』」なんて化け物めいた走りも可能だが、そんな真似の出来る逸材はそれこそ10年20年に1人生まれるかどうかだろう。

 

 プレオープン戦とは言え、その全員が過酷な『初勝利』をクリアしてきた者達だ。楽に勝てるレースなんて無い。

 

 祈る様な気持ちでジュエルのスタートを待つ。

 11人立てでジュエルは6枠と大外だ。『逃げ』は内枠有利なんだけど大丈夫かな…?

 

 レースが始まりジュエルは良い感じに先頭の位置についた。そのまま終盤まで先頭をキープし、第4コーナーを回って新潟の長い直線を疾走する。

 

 逃げるジュエルを追う10人のウマ娘。後続との差はせいぜい2〜3馬身、このままじゃ追いつかれちゃう……。

 

「ジュエル、踏ん張って…」

 

 テレビの前でポツリと声が漏れた。このテレビ視聴は友達付き合いとタイミングの偶然の状況だが、ジュエルを応援している気持ちに嘘は無い。

 

 ジュエルは一心不乱に走っているが、それは他のウマ娘も同じ。更に後方から凄い差し脚で上がって来た娘が見事なごぼう抜きを見せたが、いま一歩届かずに半馬身差でジュエルが逃げ切った。あと10m距離があったらジュエルは抜かされていたと思う。

 

 それでも勝ちは勝ち。私は早速LANEで「レース見てたよ、おめでとう」と送っておいた。

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