咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
56 私も遠慮しないから!
ヴァーンズィンさんの毒気に
「ちょっとコスモス、固まってるけど大丈夫? アンタってホント変なウマ娘に好かれるわねぇ…」
「ヴァーンズィンは『視覚』じゃなくて『嗅覚』で走る娘だから、目を付けた娘はああやってマーキングして匂いを覚えるのよ… アタシもやられたけど、最初は面食らうわよね」
声の方に目を遣ると、珍しい
1人は私たちの学級委員長であるアバロンヒル、もう1人はティアラGⅠ『オークス』覇者のジーニアスセイントさんだった。見た事無い組み合わせだが、普通に親しそうだ。
「先ほどはエバシブさんとお話していたみたいだし、フォーゲルフライにも懐かれてるし、コスモスは不思議な力を持ってるわよね。人気者で羨ましいわ」
アバロンが楽しそうに言っているが、「羨ましい」とか絶対に嘘で、当て擦りに決まってる。
特にフォーゲル関係なんて、本来学級委員長のアバロンが引き受ける様な仕事を、私に無理矢理押し付けている印象すらある。
「そんな事言ったら可哀想よアバロン。コスモスキュートさんだって大変な思いをしているでしょうに…」
アバロンの無遠慮な発言を、ジーニアスセイントさんが
ティアラ路線に限らずGⅠを勝つ様なウマ娘は大なり小なりクセの強い娘が多い。
それこそアバロンの言う様にヘリアンさんやエバシブさん、フォーゲルやヴァーンズィンさんと
その中にあってオークス覇者のジーニアスセイントさんの常識人ぶりが物凄く眩しく見える。確かオークスの勝利者インタビューでも、とても落ち着いた遣り取りを見せており、『大人っぽくてカッコいいなぁ』と思った記憶がある。
こういう「普通な人」がレアキャラ扱いってどういう環境よまったく!
「自己紹介が遅れてゴメンナサイ。アタシは『ジーニアスセイント』、高等部1年でティアラ路線を走っています」
そういえばジーニアスセイントさんって、同期ではあるけど学年は先輩なんだよね。私と同じクラスでシニア級を走っているローゼスストリームとは逆のパターンになる。
もしジーニアスセイントさんの本格化が早ければ、オオエドカルチャー先輩の良いライバルになっていたかも知れないね。
「も、もちろん存じ上げています! 私はコスモスキュートです。ジーニアスセイント先輩は凄く大人びてて格好良くてちょっと憧れています…」
ティアラを狙う強敵ではあるけど別に憎んでいる訳では無いし、格好良い人は普通に格好良くて好きだ。
「コスモスキュートさんもティアラ路線を狙うライバルだとアバロンから聞いてるわ。仲良くしましょうね。アタシの事は『ジーニー』で良いわよ。真面目な事しか取り柄の無いウマ娘だけど、これからも宜しく」
「私もどうぞ『コスモス』と呼んで下さいジーニー先輩。私も真面目な事くらいしか取り柄無いです…」
周りに振り回されて孤軍奮闘してきたツッコミ役同士が奇跡の同盟を結ぶ。何かそんな感じで熱い友情が芽生えた気がするんだ。ジーニー先輩とは良い出会いが出来たと思う。
ちなみに後から聞いた話だが、ジーニー先輩も学級委員長らしいので、アバロンとは委員会繋がりで親しくなったらしい。学年も進む路線も違うのに、親しそうな2人の関係の謎が解けたよ。
☆
「何げにコスモスとガチレースするのって初めてだよね? 手加減はしないよ〜」
いよいよスタートラインに並ぼうかというタイミングで、ハピネスシアターちゃんに声を掛けられた。
確かにティアラ路線の私とクラッシック路線のハピネスちゃんは、共に走った事が無かった。そう言えば並走練習すらもした事無かったな……。
「本番レースじゃ当分ハピネスちゃんと走る機会は無さそうだから楽しみだよ。私も遠慮しないんだから!」
互いに見つめ合いニヤリと笑みを交わす。路線的に直接では無いにせよ、ハピネスちゃんもれっきとした私の
エバシブさんの辞退により8人に減ったが、模擬レースのメンツは現クラッシック級のトップクラスが集まっている。
見物客も外部の人間は入れないが、その分内部の、合宿中の生徒とトレーナーの全員が来ているかと思える程に盛況だ。緊張するなぁ……。
体操服姿のウマ娘8人が横一列に並ぶ。その中の誰かのトレーナーさんだろう。三十代くらいの男性が「位置について、よーい… ほいっ」とコインを親指で弾く。
舞い上がったコインが地面に着地した瞬間がスタートだ。
☆
コースは右回りの
互いに初顔合わせの面子も多く、様子を窺う形でペースはかなり遅めになっていた。このままだとスタミナを残したアバロンに逃げ切られちゃうから、積極的にプレッシャーを掛けていかないと負けてしまう。
何人かは私と同様に思ったらしく、ナチュラルシャインさんやハピネスちゃんが第3コーナーにかかる辺りで早めに仕掛けてきた。一呼吸入れて私もそこに加わる。
全体が短くなり第4コーナーで団子になる。ここからは末脚勝負だ。
コーナーを抜けた所で私の《
加速したフォーゲルが私に先行し道を防ぐ形になるが、フォーゲルの真後ろについて風除けになってもらおう。
風の抵抗を殺せたおかげかフォーゲルの加速に私も
フォーゲルが前の2人を抜こうとポジションを少しずらした。その瞬間に突如私の《
単に《
今まで『道標』に頼ってきたせいか、ここからどう攻めれば良いのか判断がつかない。かと言ってレースを降りる訳にもいかない……。
そして次の瞬間、私の脚に何か別の力が宿った様な感覚を覚えた。
それが何だか分からない。だが私はもっと走れる。ここから加速出来る!
謎の力を得た私は後ろから押される様に速度を上げ、アバロンとジーニー先輩を追い抜いた。
ここからはフォーゲルとの一騎打ちだ。いつもなら最終直線でフォーゲルに差をつけられたら、二度と追いつく事は出来なかった。でも『今の私』ならフォーゲルに追いつける、追い越せる。そんな確信があった。
ゴールまで残り50mくらいの所でフォーゲルに並んだ。私のすぐ後ろに誰かは不明だが、猛烈な追い上げをしている人が居る。その人の気迫に飲まれそうになる。
「たぁぁぁぁーっ!!!」
最後の気力を振り絞り脚を動かす。真横にいるフォーゲルも、いつぞや私を戦慄させた『本気の眼』だ。これは真剣なレースだ。
そしてゴール。なんと私はこれだけ豪華なメンバーを集めた模擬レースで『優勝』してしまったのだった……。