咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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進化、かな…?

 公式な記録には何にも残らない、ただのお遊びの模擬レース。しかし私はそこで、今まで雲の上の存在だったフォーゲルフライを始めとするGⅠホルダー達を抜き去って優勝する事が出来た。

 

 特にフォーゲルには、これまで何度も何度も負け続けてきた事もあり、今回の初勝利がとても嬉しい。

 

 まぁ普段芝のコースで走っているメンツなので、今回の様な(ダート)コースだと、適性面で速く走れない娘もそれなりに居たはずだ。

 

 掲示板があるわけでは無いのですぐに順位等は分からないが、恐らく2着がフォーゲルで、最後に物凄い圧を私に掛けてきた追跡者、ヴァーンズインさんが3着みたいだった。

 

「凄いなコスモス。最後の加速には驚かされたぞ!」

 

 フォーゲルが、レースの疲労で未だ息の荒い私の後ろから肩を抱いてきた。その衝撃に肺の空気が一気に抜けて少しむせる。

 

「コスモスちゃんをマークしてたのに逃げられちゃったなぁ… ボクも是非あの加速の秘密を知りたいなぁ〜」

 

 フォーゲルに続いてヴァーンズインさんも私に絡んでくる。口調はふざけた感じだけど、目は全然笑ってない。

 

「最後の加速は… 何でしょうねぇ…? 私も無我夢中だったのでよく覚えて無くて… 強いて言うなら進化、かな…?」

 

 冗談半分、本気半分で答える。正直私にも《領域(ゾーン)》が途切れてからの加速の説明は出来ないのだ。

 

 ただ、私の本来の《領域(ゾーン)》である〈道標(ヴェークバイザー)〉の事をペラペラと喋ってしまうと、それこそヴァーンズインさんの様なライバルに対策を立てられてしまう訳で、迂闊に口に出せない事情もある。 

 

「お〜お〜、言ってくれるじゃ〜ん。こりゃ再戦が楽しみだねぇ〜」

 

「私もまたコスモスと走りたい。また明日模擬レースしよう!」

 

 ヴァーンズインさんとフォーゲルから更に詰められる。さすがに2日連チャンでレースするのは無理じゃないかなぁ…?

 

「ナイスランコスモス! いやぁ、ぶっちゃけコスモスのこと舐めてたよ、ゴメン。こりゃちゃんとアイリスに対策してもらわないとだねぇ…」

 

 2人に加えてハピネスシアターちゃんも話に入ってくる。何で勝てたのか自分でもよく分からないけど、宣言通り遠慮はしなかったからね。

 

 他の4人(アバロンヒル、ジーニアスセイント先輩、ナチュラルシャインさん、タクミノツバサさん)は彼女達で固まって、こちらをチラチラ見つつも独自の感想戦を行っている様だ。

 

『勝ちに不思議の勝ちあり』とは聞くけど、今回はまさにソレだった気がする。周りの観客やそれぞれのトレーナーさんの顔を見るに、誰一人として私の勝ちを信じていた人は居なかった様に思えたから。

 

 …いや、1人だけいた。私のトレーナー、新代さんだけは私を信じて応援してくれていた。観覧スペースから目をキラキラさせながら私を見つめているのが分かる。その熱意が少し恥ずかしいくらいだ。

 

 私は新代トレーナーに戦勝報告をするべく、手を振りながら駆け足で彼の元へ向かった。

 

 ☆

 

「なるほど、最後の再加速はコスモス自身でもその原因が分からないのか…? スイートピーステークスの時とはまた感触が違うのかな?」

 

 まさかの勝利をたくさん褒めてもらった後、先ほどのレースを控室で新代トレーナーと2人で分析する。

 

 スイートピーステークスでヴィブリンディちゃんと競った際に、私は過去最高のスピードで走る事が出来た。

 あの時と今日とで感触は… やはり少し違うかな…?

 

 前回はヴィブちゃんに追いつきたい一心で走っていたから、自分の速度など全く気にしていなかった。しかし今回は、《領域(ゾーン)》の切れ目でいきなり力が湧いてきて加速できた感じがする。

 

 私の走力と言うよりも、私の《領域(ゾーン)》と関係がありそうに思える。

 

「私としては『違う』気がします。実はあの時《領域(ゾーン)》が不自然に中断されたんですよ。その代わりに体に力が(みなぎ)ってきて…」

 

「そこであの加速か… しかしまた《領域(ゾーン)》かぁ。本当にトレーナー泣かせの現象だよなぁ…」

 

 《領域(ゾーン)》に近い『超集中』みたいな現象はヒトのアスリートにも普通に起こり得るのだが、ウマ娘の《領域(ゾーン)》は、時に物理法則すら捻じ曲げる力があると言われている。

 

 私の《領域(ゾーン)》てある〈道標(ヴェークバイザー)〉も、芝や砂のレーン上に光の矢印が浮かび上がる物だが、それを科学的に説明しようとすると『単に私が幻覚を見ている』以外の言い様が無い。

 

 たとえ幻覚でも何でも、これまで何度も助けてもらっている訳だから、軽く扱う訳にもいかない。かと言ってヒトである新代トレーナーにも説明しきれなくてどうにももどかしいのだ。

 

「単純に考えるなら《領域(ゾーン)》がバージョンアップしたのかなぁ? という印象ですねぇ。それ以上は私もちょっと…」

 

 スイートピーステークスの時に感じた「もっと強くなれる」という確信は、今日の《領域(ゾーン)》の進化の予感だったのかも知れない。

 何にせよ、この『新たな力』を自在に使いこなせる様に、更なる鍛錬が必要なのは間違いない。

 

 もっと頑張らないとね……。

 

 ☆

 

 夏合宿はハードなトレーニングで有名であると共に、夏日に灼かれて消耗した私達をリフレッシュさせてくれるべく、近隣の海や山でのレクリエーションも充実している。

 

「ほい、チョコニンジン。ウマ娘さんには1人2本ずつどうぞ」

 

「まぁ、(わたくし)まで頂いてしまってもよろしいのですか?」

 

「良いんじゃないかな? 北野トレーナーには内緒でな」

 

 今日は合宿場近くの神社で夏祭りが行われていて、私はそこに新代トレーナーとメジロパラディンさんの3人で遊びに来ている、という訳だ。

 

 それほど大きな神社では無いのだけれども、参道には多数の屋台が並び立ち、地元の人はもちろん観光客や私達の様なトレセン学園のウマ娘もたくさん来場し、油断するとすぐ迷子になってしまいそうな混雑ぶりでもある。

 

 何故パラディンさんが一緒なのかと言うと、パラディンさんの担当トレーナーである北野さんから「急用で東京に戻らなくてはならないので、1日パラディンを預けたい」という打診があったからだ。

 

 メジロ家の縁故で頼めるチームは他にもたくさんあるだろうに、わざわざ私達に言ってきたのは、パラディンさんをリラックスさせたい、という目的なのかな…?

 

 ちなみに『チョコニンジン』とは、チョコバナナの様に串に刺したニンジンにチョコレートをかけた物で、とても甘くて美味しいスイーツだ。

 私は大好きなんだけど、食べてるのはもっぱらウマ娘ばかりだから、ヒトの口には合わないのかな? 美味しいのに……。

 

「ニンジンって美味しいですよね。メジロの家では食べた事が無かったので、人生損をしていた気がしますわ…」

 

「え?! そうなんですか? 何で?」

 

 私は実家が農家で、子供の頃からニンジンやサツマイモをたくさん食べて育ってきた。その食の喜びを奪われるなんて、メジロ家って意外と非道な所だったりする…?

 

「う〜ん、特に理由は無いと思いますが、お祖母様の方針なら『ウマ娘を飽食に溺れさせない為』とかあったかもですわね」

 

 どこまで本気か分からない感じで、パラディンさんは幸せそうにチョコニンジンを食べていた。『メジロのお嬢様も大変なんだな』と思いつつ、私も2本目のチョコニンジンにかぶりついた。

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