咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
翌日、教室に顔を出すと何人かのクラスメイトが、わざわざお祝いを言いに来てくれた。
私のクラスは現在クラスメイトの8割がデビュー済で、そのおよそ半分は既に初勝利を上げている。トレセン学園では勝った負けたの話は日常の事ではあるが、それでも『初勝利』の是非はなかなかに重いものがある。しつこいようだが、とにかく『1勝』が出来ないことには、その後学園に残る事すら
1敗や2敗ならば、まだ「ドンマイ、次は勝てるよ!」とか言い合えるのだが、 さすがに私の様に5敗もしている娘を前にして、無責任に「頑張れ」というのは言う方も言われる方もキツい。正直私の存在がクラス全体の空気を悪くしていた可能性は極めて高かったと思う。
だがそんな肩身の狭い思いもお仕舞いだ。こんな晴れ晴れとした気分で教室に入れるのは何ヶ月ぶりだろう?
「コスモス、おめでとう!」
「良かったね! 心配してたんだよ」
「ようやく勝ってくれてこっちもホッとしたよねぇ」
「私もコスモスにあやかって次の未勝利戦勝たないと!」
「zzz…」
思い思いの言葉がとても嬉しい。本当に心配をおかけしました。申し訳ない。
ちなみにこれだけ周りでガヤガヤ騒がれても、私の隣の席で我関せずに爆睡している芦毛のウマ娘は『フォーゲルフライ』、これでもうちのクラスのエースだ。
昨年のデイリー杯ジュニアステークス(GⅡ)とホープフルステークス(GⅠ)の覇者であり、昨年度の最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれている。先日の歌謡祭でもジュニア級の代表として「We are DREAMERS!!」のセンターを勤め上げた。
一応フォーゲルとは席が隣でそこそこ親しい間柄であるはずなのだが、この娘は24時間365日こんな感じだ。
脚は速いし歌も上手い、その上美人でダンスもキレっキレ。だがレースやステージ以外では常に寝ぼけていて、普段は『介護が必要なレベルのポンコツ』というギャップ… いや違うな、ギャップ通り越して異次元断層が特徴の娘だ。
「ほら、フォーゲル! コスモスがやっと勝ったんだからアンタも『おめでとう』の一言くらい言ってあげなよ」
机に突っ伏して
「…ん? コスモス勝ったのか… 良かったね、おめでとう…」
一瞬顔を上げて私の方に爽やかな笑顔を向け、祝辞を述べてくれたフォーゲルだが、『おめでとう』を言い終わる前に再び机に突っ伏して寝息を立て始めた。まぁ
☆
「おぅコスモス、昨日はよく頑張ったな。見ていて凄く安心出来る良いレースだった。ほれエド、可愛い後輩の初勝利だからお前も何か言ってやれ」
放課後トレーナー事務所に顔を出すと、私達のチーム〈ミザール〉のチーフトレーナーである
山西さんは如何にも『カミナリオヤジ』という風体のオジサンだ。頭はきれいに禿げ上がり、白いヒゲが顎全体をうっすら覆っている。目つきも鋭く、こちらは褒められているのに逆に凄く怖い。「昔、戦場で30人殺してきた」と言われても簡単に信じる自信がある。
別に大声出したり暴力振るったりする事は無いのだが、何ていうか『オーラ(?)』的な物で萎縮させる特殊能力の持ち主だ。
「は…? ウザ… 1勝決めたくらいで浮かれてんじゃないっつーの」
山西トレーナーの強圧オーラに全く動ずる事無く、隣に座って黙々と爪の手入れをしていた栃栗毛のウマ娘が興味無さそうにチラリと私を見て呟く。うちのチームのエース、『オオエドカルチャー』先輩だ。
昨年のティアラGⅠである桜花賞とオークスの覇者で、秋華賞でも2着。ティアラ路線を目指している私にとって、ティアラ2冠という偉大すぎる先輩が同じチームにいるという訳だ。
性格はこんな感じで、本心は計り知れないが常に不機嫌そうな顔をしている。レースにとてもストイックな人で、自分だけでなく他人も『そうあるべし』という態度で臨む。自然と口調が険しくなって来るのだけれども、決して悪い人ではない、と思う……。
「ったく… 済まねぇなコスモス。エドの奴、レースが近いから苛立ってんだよ…」
「うっさいよハゲトレーナー! 残りの髪の毛も毟るぞ?」
「お前に散々やられて、もうこれ以上毟る髪の毛残ってねぇよ!」
普通にケンカみたいなやりとりだけど、これがこの2人の日常だ。それを理解するまで半年くらい怖くて2人に近寄れなかった。
「ニャハハハ! エドちゃん、最近勝ててないから八つ当たり多目だよねぇ」
横から口を出してきたのはカルチャー先輩と同期の『ババヤーガ』先輩。こちらはシニア級ながら現在の戦績は15戦3勝と、最近どうにかプレオープンクラスを脱した人だ。
性格は明るく、いつも笑ってるし笑わせてくれる。負けが混んでいるのも、あまり気にしてはいないように見える。
ティアラ2冠ウマ娘であるカルチャー先輩にも気後れせずに絡んでいける人なので、空気が悪くなりがちなチームのムードメーカーを担ってくれている。
「バー、アンタもうるさいよ。ハゲ親父の代わりに毟ってやろうか?」
「キャーこわーい。トレーナー助けて〜」
そう言ってババヤーガ先輩がメガネを掛けた女性の後ろに隠れる。ババヤーガ先輩のトレーナーである
私のトレーナーの新代さんと同期の人で、チーム加入も同時期だったらしい。新代トレーナーいわく、「ライバルみたいな関係だよ」だそうだ。
「ほら、バーも。エドちゃんナーバスになってるんだから、あまりイジっちゃ駄目よ?」
林トレーナーの言葉を受けて、カルチャー先輩がうんざり顔で立ち上がる。
「あーもう、ホンっとウザい。ちょっと外周走ってくるわ」
そう言い残して事務所から小走りに出ていってしまった。
「なんか、私のせいですかね…? カルチャー先輩、大丈夫でしょうか…?」
「あー、へーきへーき。エドちゃんはこれが平常運転だから。付き合い長いあたしが保証するから、コスモスは心配しないでOK!」
ケラケラ笑いながらババヤーガ先輩がフォローしてくれた。山西トレーナーも腕を組んで何度も頷いているから、その通りなのだろう。
「カルチャー先輩、次走来週の京都記念でしたっけ…?」
「そうそう、年末の有馬記念でボロ負けしたから、そのリベンジするんだってさ。ああ見えて気合い入りまくりなんだよ?」
有馬記念… クラッシック級とシニア級の実力者達が入り乱れて年末に行われる、その年最後の競演。私も憧れの夢の1つとしてずっと胸に抱いている。
いつかは私も有馬記念に出てみたい。あのレースで勝てたら最高な気分だろうなぁ……。
カルチャー先輩は有馬記念9着とかなり残念な結果になってしまったのだけれど、そのリベンジ目的かぁ… 確か去年の有馬記念の優勝者は……。
「遅れました! ゴメンなコスモス。ちょっと先輩に捕まっちゃって…」
私が去年の有馬記念の回想を始める直前に、大慌てで新代トレーナーが事務所に駆け込んできた。
おっと、新代トレーナーと話さなきゃいけない事が山積みだった。頭をトレーニングモードに切り替えなくちゃね。