咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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次に繋がれば良いんですけどねぇ…

 夏合宿の期間中でのイベントとして最後を飾ったのは、クラスメイトのジュエルフラッシュだった。彼女は中京レース場のプレオープン戦『長久手特別』で優勝し、夏の間に破竹の3連勝を上げたのだ。

 

 これでジュエルもオープンクラスとなり私に追いついた事になる。彼女は嘘か本気か「秋華賞目指そうかな?」とか言っていたから、ゴリゴリに私のライバルになってくるのかな…?

 

 夏合宿前の絶望感を全身に纏っていた弱々しい彼女はもう居ない。全く、今以上に選手層を厚くするのは本気で勘弁して欲しいんだけどな……。

 

 ☆ 

 

 夏合宿が終了し、2学期が始まった。そしてクラスから4人の退学者が出た……。

 

 もちろん何らかの不祥事があった訳では無い。前述した様に、クラッシック級の8月いっぱいで初勝利を上げられなかった生徒は、以降トゥインクルシリーズでの出走権利を永久に失うからだ。

 

 学園で走れなくなるのだから学園にいる意味は無い、という理由でほぼ全ての生徒は学園を自主退学する事になる。

 その後は一般の中学や高校に転校する娘もいるが、ほとんどは地方のトレセン学園に転校して走りを継続する。やはり『走れる限りは走りたい』と考えるウマ娘が多いのだろう。

 

 私の故郷の近くには高知のトレセン学園があり。何人かの友人は今もそこで走っている。話を聞く限り地方は地方でまた大変らしいが、別れて行った娘達も新天地で悔いのないように走って欲しいと切に願う。

 

「毎年この時期が一番辛いですねぇ… 今クラッシック級以上の人達は紛れもない『中央トレセン学園の中でも一握りのエリート』で『スター』です。もう自分だけの体では無い事を強く意識して下さい…」

 

 2学期始めのホームルーム、クラス担任の呉林(くればやし)先生が目に涙を浮かべてクラス全員に向けて話をしている。

 

「皆さんは既に何千人、何万人というファンが居るはずです。その数字ひとつひとつは1人の人間であり、その人達の多くは貴女達が勝つ事よりも、健やかに走り抜いてくれる事を願っているはずです」

 

 私にも現在1万弱のファンが居る。たまに貰うファンレターにも「勝って」よりも、「元気で」とか「怪我に気をつけて」等という優しい文言で溢れているのだ。

 

「どうかこれまで以上に怪我や病気に気をつけて、卒業まで元気な体でいて下さい。トレーナーじゃない私は皆さんを速くして上げる事は出来ないけど、愚痴や悩みがあったら遠慮なく相談して欲しい。貴女達の助けにならせて欲しい。それだけは忘れないで…」

 

 涙で目と鼻を真っ赤にした呉林先生の話の終わりに、自然と拍手が巻き起こる。もらい泣きしている娘も数人いた。私も目頭が熱いや……。

 

 強くなる事と同時に健やかである事を求められる。要求されるハードルは徐々に高くなるけど、弱音は吐いていられない。私も再来週にはレースが控えている。

 

 夏合宿での模擬レースが「まぐれ」だったと言われない様に、夏での成長をファンの人達に見てもらわないとね……。

 

 ☆

 

 そして9月早々にオオエドカルチャー先輩が走る『ムーラン・ド・ロンシャン賞』が開催された。

 夏合宿中の『ジャックルマロワ賞』は、先生方の計らいで宿舎のロビーでテレビ観戦出来たけど、今は普通に「明日は平日」な日曜日だ。

 

 という訳で、寮での消灯時間を過ぎた真夜中、私は自分のベッドでタオルケットを被りながら、スマホでこっそりとウマチューブの実況配信を見ていた。

 

「消灯時間過ぎてるのに夜更かししている悪い子は誰だぁ〜?」

 

 ルームメイトのトッカンクイーン先輩は既に眠っている物だと思い込み、スマホの画面に集中して油断していた私は、急に声を掛けられて心の底から驚いて「ひゃあっ!」と変な声を出してしまった。

 

「ト、トッカン先輩… あの、これは違うんです。私は別に…」

 

 咄嗟に言い訳を考えるが適切な言葉が出てこない。『消灯時間破り』という行為よりも、私の不始末でトッカン先輩の睡眠を妨げてしまった事の方が申し訳なくて縮こまってしまう。

 

「うふふ、冗談だよ。コスモスちゃんの大先輩オオエドカルチャーさんのレースだもんね、私も気になってたから一緒に見せて」

 

 トッカン先輩はいつものファニースマイルで私のベッドに腰掛けてきた。「天使かよ」ってくらい可愛いなぁ。

 

「あ、でも良いんですか? 私が起こしちゃったなら申し訳なくて…」

 

「ううん大丈夫。なんとなく寝付けなくてゴロゴロしていただけで、そしたらいつも寝付きの良いコスモスちゃんが珍しくモゾモゾし始めたから、『これは何かあるな』って思ってたんだ」

 

 はぁ、トッカン先輩が起きていたのなら幾分私の後悔も減りますけど、本当なのかなぁ?

 

「あ、ほら、パドック始まるよ」

 

 疑心暗鬼な私を差し置いて、トッカン先輩は私のスマホ画面を指差した。

 

 ☆

 

 レースの行われるロンシャンレース場は、フランスという土地柄もあるのか、晴れた天気と相まってどこかの貴族の庭園を彷彿とさせる様な美しさがある。

  

 そのパドックは外のお客さんとの距離が日本のレース場に比べて近い様に思われる。それこそ手を伸ばせば触れられる様な感覚だ。

 

 その中でカルチャー先輩は、いつものしかめっ面が更に深くなっていた。画面の中の事情までは計り知れないが、それなりに付き合いの長い私から見ると、あれは直前に何か気に入らない事があった顔だ。体調管理に失敗したのか、誰かから嫌な事を言われたのか…?

 

「カルチャーさん、調子良さそうに見えないね…」

 

「ですねぇ、いつにも増してイライラしてる様に見えます…」

 

 そういった雰囲気は現地でも出ていたのだろう、カルチャー先輩は11番人気と、優勝争いには絡んでこないと思われているみたいだ。

 

 ちなみに1番人気はイギリスの当代最強と謳われるバレンタインホープさん。2番人気はアメリカのロードアンドホークさん。黒人でドキュウセンカンさんみたいなマッチョファイターだ。

3番人気はフランスの名マイラー、フェルクペルさんとなっている。

 

 ☆

 

 レースはロードアンドホークさんが逃げを打ち、その他が追う展開になった。

 平坦なドーヴィルレース場とは対照的に、ロンシャンレース場はとにかく起伏が激しい上に芝質も重い。スピードよりもスタミナとパワーが求められるレース場(だそう)だ。

 

 カルチャー先輩は最終直線でスパートしたものの、先団に追いつく事かなわず、8着となってしまった。

 

「見た目以上に芝に足を取られていたみたいだね… マイルレースなのにスタミナ勝負って、なんか凄いね…」

 

「ですねぇ… カルチャー先輩的にはこのレースは『凱旋門賞の練習』って言ってましたから、次に繋がれば良いんですけどねぇ…」

 

 そう、カルチャー先輩の本命は次の『凱旋門賞』だ。今日の走りを糧として、凱旋門賞へ活かして欲しい。

 

 ちなみに翌日は私とトッカン先輩の2人共が、夜更かしから朝寝坊してしまい、揃って遅刻スレスレで当校したのは内緒だ。

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