咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「コスモス、貴女の実家から荷物が大量に届いているわよ。総計100kg位あるから、新代くんと2人で運んでおいてね」
「あ、はい。分かりました。ありがとうございます」
林トレーナーから言われて、荷物を仮り受けしてもらっている学園の受付へと向かう。
100キロ位なら新代トレーナーの手を煩わせる程でもないので、台車を借りて私1人でさっさとやってしまおう。
という訳で学園の受付からトレーナー事務所まで持って来た大量の段ボール。10kgが10箱みたいな感じであったのでピラミッドの様に積み上げてみた。
「コスモス1人でやったのか? 待っててくれれば手伝ったのに…」
終わる頃には新代さんもトレーナー事務所に居て残念そうに言ってくれたのだが、私とてウマ娘、この程度の力仕事は力仕事のうちに入らないので、新代さんはゆっくりしていて下さいな。
「それで… と、中身は大量のニンジンとサツマイモかぁ、コスモスの実家で作った野菜?」
「はい! とても懐かしいです。私の体は実家の野菜で出来てますから!」
そう、私の実家は徳島で農家をしており、特にニンジンとサツマイモを主力に出荷している。徳島県はニンジンやサツマイモの上位生産地であり、近所でもよく作られていた。
「これ、お友達やお世話になった人達に配ってきても良いですか?」
とりあえず10箱あってそれぞれにニンジンとサツマイモがほぼ半分ずつ混載されている。もう箱ごと配れって意味だよね?
チームのウマ娘、私とオオエドカルチャー先輩、ババヤーガ先輩、その他トッカンクィーン先輩のチーム〈アルカイド〉さんや、フォーゲルフライの〈マルス〉さんの様に、お友達や仲のいい先輩の居るチームに配ったらあっという間に無くなってしまった。
まぁ皆で美味しく食べるのが一番良いことだよね。
「ウマ娘がニンジンを生で齧るのは有名だけど、サツマイモも生でボリボリ食べるのは初めて見たよ。美味しいのか…?」
新代トレーナーから変な物を見るような目で言われたけど、少なくともうちの野菜は生でも美味しく食べられますからね!
☆
さてその翌週、『紫苑ステークス』、芝2000mのGⅢレースが開催された。
私の次なる目標である秋のGⅠ『秋華賞』のトライアルレースのひとつである。このレースで3着以内なら続く秋華賞での出走優先権が与えられる。
本来ならば新代トレーナーの計画通り私はこの紫苑ステークスに出走していたのだが、私のわがままで来週の『ローズステークス』に変えてもらった経緯がある。
当然秋華賞を目標とするウマ娘がメンバーの大半な訳だが、その中で一番人気を得たのがメジロパラディンさんだった。2番人気がテリブルバルチャーさんという小柄なウマ娘、3番人気はスターハリアーさん、ヴィブリンディちゃんも居て彼女は6番人気らしい。もしここに私が当初の予定通り出走していたら、私は何番人気になっていただろうか…?
レースは『先行』脚質の娘が多かった為か少し速い展開となる。最終コーナーを抜けた所でパラディンさんがトップに立つが、ヴィブちゃんとの激しいデッドヒートの末に何とヴィブちゃんが差し切って1着となった。
前走スイートピーステークスでも苦汁をなめさせられたヴィブちゃんの末脚、やはり凄い。赤丸付きで要チェックだ。
2着は1馬身差でパラディンさん、3着は更に2馬身遅れてスターハリアーさんとなった。
これでヴィブちゃんもパラディンさんもめでたく秋華賞への切符を手に入れた。凄い。私は今2人の健闘にとても興奮している。私もあの2人と早く戦いたいよ!
私のレースは来週。だが私だけ置き去りにされてなるものか。これはかなり気合が入ったレースだったね。
☆
そして翌日、というかその日の晩はフランスに遠征しているスズシロナズナさんのレースがあった。凱旋門賞と同じ場所、同じ距離を走るまさに凱旋門賞の叩き台となる『フォア賞』だ。
さすがに前回のムーラン・ド・ロンシャン賞の時の様に夜更かしして朝寝坊すると、担任の呉林先生から補習を言い渡される可能性があったので、今回は大人しく時間通りに就寝し、朝早く起きる事にする。
まぁ自分じゃ起きられなくて、トッカン先輩が起こしてくれた訳だけど、そのおかげで早いうちからレースの動画を見る事が出来た。
さて晴天のロンシャンレース場で行われたフォア賞だが、昨年の凱旋門賞覇者で現フランス最強ウマ娘のルミエルシュプリームさんが2着以下を大きく引き離して優勝した。
ちなみに2着は昨年のジャパンカップを征したドイツのバラタックさん、スズシロナズナさんは最後まで馬群から抜け出せず、9着に終わってしまった。
「多分今回の走りはただの練習だねぇ… ナズナちゃんは雨が降ると強いからさ。去年のダービーも有馬記念も、そして今年のヴィクトリアマイルも全部雨だったでしょ? 凱旋門賞は雨の日が多いから、本番で雨が降ったら面白い事になるよぉ…?」
トッカン先輩が楽しそうに呟く。皐月書やダービーを始め、スズシロナズナさんと何度も戦ってきたトッカン先輩は、私なんかよりも何倍もスズシロナズナさんを知っている。その分析も的外れでは無いはずだ。
確かにスズシロナズナさんの勝ったレースっていつも『雨』なんだよね。不思議だけど雨でパワーアップする《
☆
そして更に翌週の中京レース場、ついに私の走る『ローズステークス』の日がやってきた。この今にも張り裂けそうな胸のドキドキは、半年ぶりの公式レースという緊張感と同時に、GⅡという重賞初挑戦への緊張感も含まれている。
控え室で心を鎮める為に大きく深呼吸をする。だが幾らやっても動悸や緊張は治まる気配が無い。もうパドックまで時間が無いんだけどな……。
「このレースはコスモスが自分で選んだ道だ。自信を持って走り抜いてくれ… 俺にはそれ以上に気の利いた事は言えない。俺はただ、君の勝利を信じて最後まで見守るから…!」
新代トレーナーも緊張しているのが感じられる。確か新代トレーナーが担当するウマ娘は私で4人目。前は「未勝利で引退」が2人と「オープンクラスまで上がったが重賞未勝利」という結果だったそうで、新代トレーナー自身が重賞に慣れていないと言っていた。
気の利いた話なんて期待していない。新代トレーナーが傍で見ていてくれる、寄り添ってくれているだけで私は走れる、戦える……。
そう、
私は、大丈夫だ……。
「ありがとうございます新代さん。大丈夫です、見てて下さい。では、行ってきます!」
新代トレーナーが後ろに居てくれるから、私は前だけ向いて走っていられる。この安心感は何物にも代えがたい。
この勢いを以て、パドックで私を応援してくれるお客さんに「私は気合十分だ」とアピールしてくるとしよう。