咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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新代さんとだってした事が無いのに…

「はぁい、コスモス。やっと追いついたよ…」

 

 パドックから再び地下馬道へ引き込む瞬間に、聞き慣れた声が耳に入ってきた。

 

「ジュエル、本当に来たんだね… 3連勝凄いよね、おめでとう! 私も今日を楽しみにしていたよ…」

 

 クラスメイトのジュエルフラッシュも私と同じレースを走る。夏休み前まで未勝利でションボリしていたのに、今では覇気に満ちあふれた歴戦の戦士の顔をしている。

 

 ジュエルって私と同じく大人し目な娘かと思っていたけど、元々連敗で塞ぎ込んでいただけで、本来の彼女は今の様な自信に満ちあふれた娘だったのだろう。

 

 なんと言っても6連敗から転じて3連勝の実力は侮れない。その急激な進化は何なのか、その秘密を聞きたいくらいだ。

 

 彼女は「機会があればティアラに挑む」的な事を言っていたから、『秋華賞』のトライアルであるこの『ローズステークス』への挑戦は極めて妥当な流れである。新たな戦友(ライバル)の出現だよね……。

 

「やぁコスモスちゃん久し振り。なになに? ボクも話に混ぜてよぉ〜」

 

 人懐こい感じで、だがしかしネットリとした口調で混ざってきたのは、夏合宿での模擬レースで対戦した、長いボサボサ頭に瓶底メガネが特徴的なヴァーンズィンさんだ。

 彼女は『桜花賞』と『オークス』で共に2着となっている実力者で、本日の『ローズステークス』の1番人気となっている。

 

 ちなみに2番人気はオークスで3着に入ったアウターハッピーさん。3番人気は昇り龍の如き勢いのジュエル。そして私は現在6番人気、まぁ自分でも納得な位置だと思う。

 

 何しろ本日のローズステークスはGⅡであり、当然ながらこれまで走ってきたプレオープン戦やオープン戦よりも、多くの強豪ウマ娘が出走している。

 

 ヴァーンズィンさん以外にもティアラGⅠ常連のノースリーブさんやアーマーピアスさん、ジュエル同様に夏場のレースで急成長を見せたラブノートさん等の実力者が勢揃いしている。

 

 選手の層だけで言うなら、ヴィブリンディちゃんやメジロパラディンさんが先週走った『紫苑ステークス』よりも厚いと言えるだろう。

 

「ヴァーンズィンさんですね、初めまして。ジュエルフラッシュといいます」

 

 ジュエルの自己紹介にヴァーンズィンさんは目を細めてジュエルを凝視している。

 そのまま息を大きく吸い込み、ジュエルに向かって「オッケー、覚えたよ」と親指を立てた。

 

 これは多分ヴァーンズィンさん特有の『匂いで相手を判別する』能力だろう。私も以前思い切り匂いを嗅がれた。

 状況の分からないジュエルが私に向けて「何が起きたの?」と聞きたげな表情をしているが、私から言っても良いものなのかな…?

 

「アハハハハ! ボクさぁ、目が悪くてこんなメガネをしていても視力が0.2くらいしか無いんだよ。だからウマ娘(ひと)の顔とか区別つかなくてねぇ。目より鼻の方が違いが分かりやすいんだぁ…」

 

 だそうだ。私もジーニアスセイント先輩から聞いた話だったから、ヴァーンズィンさん本人の口から真相が知れたのは助かる。

 

 まぁだからと言って匂いで選別出来るスキルは真似出来ないし、匂いケアは怠っていないつもりだが、乙女として匂いを嗅がれるのはあまり楽しい物ではない。

 

「さすが1番人気の風格というか、余裕がありますねぇ。全力でぶつからせてもらいますね! もちろんコスモスにも!」

 

 早速ヴァーンズィンさんのキャラを理解して切り替えたのか、或いは早々に諦めたのかは分からないが、ジュエルも普通に対応している。凄いなぁ、私は未だにヴァーンズィンさんの動きに翻弄されているのに……。

 

「ジュエルちゃんもコスモスちゃんもよろしくねん〜。特にコスモスちゃんには夏の借りを返さないといけないから本マークさせてもらうよん〜」

 

 楽しそうに捨て台詞を吐いて去っていくヴァーンズィンさん、正直怖い。でもあんな怖い人達に勝ち抜いて行かないと夢のティアラには届かないんだよね。気合入れないとね……。

 

 ☆

 

 本馬場に出て強く感じたのはジュエルやヴァーンズィンさん以外の出走者達からの視線だった。もちろんジロジロと舐める様に見てくるウマ娘は居ない。誰しもが興味の無いふりをしながら、常に私を視界のどこかに収めているみたいな居心地の悪い感じ。

 

「そりゃあコスモスは夏の模擬レースでアバロン(ヒル)やフォーゲル(フライ)ちゃんみたいなGⅠホルダーにも勝ってるんだもん。このレース1番の注目株だよ?」

 

 ジュエルがそっと耳打ちして教えてくれる。そういう事か… 私に対する世間の評価が低いのは、あの時の模擬レースにマスコミ含む外部の目が無かった為で、学園生徒の間では「隠れた逸材」として認識されている、って事なのかしら?

 

 それは名誉な事ではあるけど、多数にマークされるのはシンドいから勘弁して欲しいなぁ… なんて贅沢な事も考える。

 

「そぉなんだよ、コスモスちゃんは凄いんだよ! ボクには分かってたからね! という訳でコスモスちゃん大好き! チューして良い?」

 

 そしてヴァーンズィンさんがジュエルの横から現れて突拍子も無い事を言い出す。この人、行動が全く読めないからホント怖いよね……。

 

「な… そ、そんなのダメに決まってますよ! だいいち新代さんとだってした事が無いのに…」

 

「ん? シンダイって誰…?」

 

 ヤバい! 私は一体何を口走って居るのだろう…? この場に新代トレーナーは関係無いはずなのに……。

 

 ヴァーンズィンさんは新代トレーナーの事を知らないから『???』な顔だけど、ジュエルはこれまでの私との会話で新代トレーナーの名前くらいは知っているはずだから『!!!』という顔をしている。

 

 あ〜ん、これ絶対に後でツッコまれるやつじゃん。やらかしたなぁ… レース前だってのヘコむわぁ……。

 

「べ、別に何でもないです! ほら、もうゲートインの時間ですよ!」

 

 誤魔化し半分で2人を尻目にゲートに向かう。係員さんが待機しているのだから出走時間間近のはずだ。

 

 はぁ… それにしても何で新代トレーナーの名前なんか出しちゃったんだろう…?

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