咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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私も秋華賞走れるって事ですかねコレ…?

「負け… ちゃった…」

 

 勝てなかったショックと、ラストスパートで全身全霊を注ぎ込んだ走りによる疲労で、私は立っている事すら出来ずにその場で呆けたまま、腰が抜けた様にペタリと座り込んでしまった。

 

 それでも気力を振り絞り、なんとか首だけを巡らせて掲示板に目を遣る。表示された順位は1着がヴァーンズィンさん、2着がクビ差でアーマーピアスさん、3着が更に2馬身差で私、4着は1馬身差でアウターハッピーさん、ジュエルフラッシュは着外で今は正確には順位は分からない。

 

「コスモスちゃん、大丈夫? 立てそ?」

 

 放心している私の顔を下から覗き込んできたのは、優勝したヴァーンズィンさんだ。ウィナーズサークルへ向かう前に私を気遣って見に来てくれたらしい。

 

 ヴァーンズィンさんって行動が突飛で読めないのだけど、決して悪い人では無いんだよね。基本的に優しい人なんだとは思う。

 

「あ、大丈夫です。ちょっと力が抜けちゃって… 勝てると思ったんですけど、ヴァーンズィンさん強いですねぇ。完敗です…」

 

 確かにヴァーンズィンさんの最後の走りは凄まじかった。普段のヘラヘラした態度から一変した『悪鬼羅刹』とでも呼べそうな強烈なオーラは、真に見た者を震え上がらせる。本当に怖かった……。

 

 ヴァーンズィンさんが手を引いてくれてなんとか立ち上がる事が出来た。ヴァーンズィンさんのオーラに呑まれてしまった事もショックだったが、何よりもレースに負けてしまった事が悲しい。不意に涙が溢れてくる。

 

「ヴァーンズィンさんと走れて良かったです! 次の『秋華賞』もぜひ頑張って、今度こそ優勝して下さい…」

 

 ヴァーンズィンさんは私の尊敬するヴィルシーナさんと同様に、桜花賞とオークスで共に2着という、この上なく「惜しい」成績の持ち主だ。最後の秋華賞では絶対に優勝して欲しい。

 

 直接競って自分を負かしていった勇者を祝福しつつ、次に送り出すのは敗者の責務だ。私には次のティアラはもう無くなってしまったのだから……。

 

「はい? 何言ってんのコスモスちゃん。コスモスちゃんは秋華賞走らないの…?」

 

 ヴァーンズィンさんは私の言葉の意味が心底分かっていない様で、本気の「???」を出しているのが少しイラつく。だって私にはもう永久に秋華賞への、憧れのティアラへの出走権利は無くなってしまって……。

 

 あれ…?

 

 そう言えばローズステークスで定められた、秋華賞への優先出走権は先着3名だ。

 

 あれ…?

 

 私は今ローズステークスで3着になった。

 

 つまり…?

 

「え? あの… 私も秋華賞走れるって事ですかねコレ…?」

 

「もぉ、あったりまえじゃん! これでボクら1勝1敗なんだから次の秋華賞で… GⅠの舞台でケリ着けるよぉ!」

 

 GⅠに出られる?! 夢のティアラを走れる! 先ほどとは真逆の意味でまた涙が溢れてくる。レースに負けちゃった悔しさはあるけど、秋華賞に出られる嬉しさはそれを補って余りある。

 

「本当にコスモスちゃんは可愛いよねぇ〜」

 

 ヴァーンズィンさんがそう言って私の肩に腕を回してくる。そのまま間髪入れずに私の頬にキスをしてきたのだ。

 

 まさかの不意打ちに私も固まってしまう。まさか本当にキスしてくるとは思っても見なかった。

 

「な、な… な…?」

 

「あはははは! 本当に可愛いねぇ!」

 

 言葉にならないリアクションを見せる私を、ヴァーンズィンさんは指差して笑い出した。これは何と言うか、もうハラスメントなのでは無かろうか?

 

 そこまで話して「ヴァーンズィンさん、早くウィナーズサークルへ!」と係員さんがヴァーンズィンさんを呼びに来たので、ヴァーンズィンさんは私へのフォローをすること無く、そのまま「はいは〜い」と悠然とウイナーズサークルへ歩き去って行った。

 

 もうホント調子狂うなぁ……。

 

 ☆

 

「コスモス、お疲れ様。良い走りだったぞ!」

 

 控室に戻って新代トレーナーと合流する。エッヘン! 見ててくれましたかトレーナーさん? 私、秋華賞への切符を手に入れましたよ! ただなぁ……。

  

「ハイ、でも負けちゃいました… スタートから出遅れたりとかでみっともない走りを見せちゃってスミマセン…」

 

 スタートの失敗からの無駄なスタミナロスが無ければ、最終直線で《領域(ゾーン)》が息切れする事も無かったかも知れない。

 そうしたら優勝して堂々と秋華賞へ進めたかも… まぁ結果は結果。『タラレバ』の話をしてもしょうがないよね。

 

「いやいや。初の重賞、しかもGⅡで3着なんて大した物だよ。しかも次は秋華賞だぞ? 憧れのティアラGⅠだぞ?! もう結果オーライで最高じゃないか!」

 

 新代さんは私の『夢』を知っている。そしてその夢への挑戦権を掴んだ私を、自分の事の様に喜んでくれている。

 

 ウマ娘とトレーナーは一心同体。同じ『夢』を見て、二人三脚でゴールへ進んで行く。この心地良い連帯感は何物にも代えられない。

 

 ヴァーンズィンさんじゃないけど新代トレーナーにハグしたい気分だ。ハグしてそのまま2人でピョンピョンと飛び回りたい。さすがに無理だけど……。

 

 というか、1つ大きな事に気が付いてしまった。今までは『トレーニングのため』と称して自分自身を誤魔化してきたが、今日のアレコレでそれも不可能となってしまった気がする。

 

 私は『新代トレーナーを男性として愛している』事に。

 

 彼の笑顔が大好きだ。彼と喜びを分かち合いたい。彼にGⅠのトロフィーを捧げてこれまでの苦労を労いたい。彼と触れ合いたい。彼に抱きしめて欲しい……。

 

 年の差とか社会的立場とか、私は気にしないけど、新代トレーナーとしてはそうはいかないんだろうなぁ… 教え子に手を出したら業界追放だし、私も退学必至だろう。

 

 そして何よりあのオオエドカルチャー先輩が恋敵になってしまった。カルチャー先輩も分かりやすく新代トレーナーの事が大好きだしね……。

 

 何にせよ今は色々考えても答えなんか出ないから、この後のウイニングライブだけに集中しよう。それにもうすぐ集合時間だから、あまりノホホンともしていられない。

 

「本当に新代トレーナーと一緒にやってきて良かったと思ってます… あの、これからもご指導よろしくお願いします!」

 

 照れ隠し8割くらいの心理バランスで頭を下げる。今は真っすぐ新代トレーナーの顔を見られないよ……。

 

 しかしどうしたものかなぁ…? 恋愛禁止… とまではいかないけど、恋なんてしている暇はないトレセン学園じゃ『恋の悩み』なんて誰に話せば良いんだろう……。

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