咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
レース及びライブの後、私は新代トレーナーと一緒に少し早めの夕飯として、健闘したご褒美を兼ねて名古屋グルメを楽しませて貰った。
凄く今更な感想だけど、好きな人と一緒に食べるご飯って何倍も美味しく感じられるんだね……。
もちろん私の淡い恋心なんて新代トレーナーは知る由もないし、むしろ知られたらいけない事だ。
この気持ちはまだまだずっと、下手したらお墓まで黙ったまま持っていかないとダメな気持ちなんだと思う。ちょっと辛いけど仕方ないよね……。
そんなこんなで学園の寮に帰ってきたのは午の後8時を過ぎていた。
部屋ではトッカンクイーン先輩が勉強している最中で、邪魔しない様にひっそりと部屋に入って行ったつもりだったのだけれども、瞬時に気付かれてこちらを振り向いてきた。
「あ、コスモスちゃんおかえりなさい。レース見てたよ、惜しかったね」
先輩の「惜しかったね」という割には明るそうな声は、レースには負けたが次の『秋華賞』への切符を手に入れた事を受けての物だろう。
「はい、ありがとうございます。自分的にはかなり悔いの残るレースで色々と反省する事しきりですけど…」
とにかくレースを前にしてメンタル面の弱さを克服したい。いつでも全力を出し切るレースが出来ないと、ファンにも申し訳ない。
「うふふ、みんなそうだよ。どんなレースも後悔ばかりで、後から考えて『完璧なレース』なんて一生に何回走れるか分からないよ。とにかく次はいよいよ秋華賞だね。絶対に1着獲ってよね!」
トッカン先輩はシニア級で、私よりも1年早く実戦の世界に飛び込んでおり、その分多くの戦いを経験している。
しかも同期にはブラックリリィさんを筆頭に、スメラギレインボー生徒会長、スズシロナズナさん、オカメハチモクさん、パッションオレンジさん、クリスタルセイバーさん、ドキュウセンカンさん、そしてオオエドカルチャー先輩その他諸々の『化け物』クラスのウマ娘がひしめいている。
私だったら彼女達の
一見気弱で大人しそうなトッカン先輩でも、そんな人達と戦って立派な結果を残している。もうひたすら尊敬しかない。
そんな先輩に応援されているのだ。泣き言は言っていられない。気合いだ、気合い!
「はい、頑張ります! あ〜、でも本当に秋華賞走れるのが嬉しすぎて夢みたいですよ~。憧れのティアラに挑戦できるんだなぁ…」
「ビリ〜ブドリ〜ム…」
うん? 急にトッカン先輩が透き通る様なキレイな声で歌い出した。しかもその後でこちらをじっと見て、「続きを歌え」と目で訴えている。
この歌は知っている。『
確かこの続きの歌詞は… あっ…!
「あ、『あこ〜がれ〜はもう挑戦〜になったんだ〜』…」
そう、子供の頃から憧れだった夢のレースに私は今度こそ挑む事が出来る。「『憧れ』が『挑戦』になった」は、まさに今の私の思いそのままじゃないか。
ウマ娘の楽曲は本当に心に来る歌詞が多い。それだけ多くのウマ娘が夢に挑んで、夢を叶えて、夢に敗れてきた積み重ねの証左、まるで歴史書の様でもある。
今まで単なる楽曲の1つとしてしか認識していなかった『Glorious Moment!』が、まるで私の為に作られたかのような錯覚に陥る。
この曲が一気に好きになった……。
「ビリ〜ブプラ〜イド」
私が歌い返した事で、意図が通じて嬉しそうなトッカン先輩は微笑みを深くして歌を繋げてくる。
「舞台に立つん〜だって、強い感情〜」
そこまでされたら私も乗るしか無い。そうだ、これから戦うGⅠの舞台は、ライバルからも観客席からも、GⅡのローズステークスなんか比べ物にならない程に遥かに大きなプレッシャーを与えてくるだろう。
そんな場所に臨む意思、感情… 生半可な思いでは弾き飛ばされてしまうに違い無い。「メンタルがどうこう」などと甘えた事は言っていられない。
「ビリ〜ブエ〜ル」
「こた〜えた〜い気持〜ちも抱っき〜し〜め〜」
私を応援してくれる人はたくさんいる。約1万人のファンの皆様、家族や友人、そして大好きな新代トレーナー……。
彼らから託された想いを胸に抱いて、それを原動力としてひたすら前に走る。それがウマ娘だ。それが私『コスモスキュート』なのだと改めて実感する。
「い〜ま〜み〜ら〜い〜へ〜」
「「ゲートが、開いてく〜、レースが〜、始まってく〜」」
2人でハモって互いに大笑いになる。
「トッカン先輩! 今度のお休み、一緒にカラオケ行きましょう! もうこの気持ちは抑えられないです!」
「そうだね。久しぶりに歌いまくろうか」
よし、来週はトッカン先輩とカラオケデートだ! もうワクワクが止まりませんわ。
☆
翌週、私達は学園近くのカラオケ店で朝から晩まで歌いまくった。
なぜかチーム〈ミザール〉と〈アルカイド〉での合同カラオケ大会となり、私とトッカン先輩、ババヤーガ先輩と夏合宿以来のベクタースキャンちゃん。更に各人のトレーナーさんを交えて総勢8名の大所帯となってしまった。
トッカン先輩が可愛らしくティアラ路線の歌を歌ったり、スキャンちゃんが照れながらもダートGⅠの歌を歌ったり、バー先輩が1人じゃとても歌えない様な多重コーラスの歌を歌ったり、秋月トレーナーと新代トレーナーが私のよく知らないロボットアニメの歌をデュエットしたりと、かなり大盛り上がりを見せた。
私? 私も思いっきり
☆
カラオケからの帰り道、トッカン先輩がこっそりと私に耳打ちしてきた。
「コスモスちゃん、私の復帰レースも決まったよ。10月上旬の『京都大賞典』、待ってるからね?」
わぁ、遂にトッカン先輩の復帰が叶うんだね。良かった良かった、私もとても嬉しい。
京都大賞典はもちろん京都レース場のGⅡで芝2400m。長距離の得意なトッカン先輩にはうってつけのレースだ。
でも待って。「待ってる」ってどういう事…? 私はその翌週に秋華賞を走るから、京都大賞典には到底出られない。でも同じ京都レース場で… あっ!
『よし決めたよ。11月2週目のエリザベス女王杯、私はここを目標にする! コスモスちゃんもそのつもりでね』
3月の末にトッカン先輩と交わした雑談が急に頭をよぎる。
トッカン先輩の「待ってる」は、きっと11月の『エリザベス女王杯』を指しているのだ。
そして京都大賞典は同じ京都レース場で近い走行距離と、エリザベス女王杯の練習として最適なレースだった……。