咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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走りを楽しんだ娘が勝つ…

 秋華賞… 言うまでもなくティアラ路線の最後を締めくくるGⅠレースだ。

 ティアラを夢見るウマ娘は数多くいるが、実際にティアラレースを走れるウマ娘は極めて少ない。

 

 今回私は大変幸運な事に、来週行われる秋華賞のメンバーの末席に加えてもらっている。

 

 今私の手元には最終決定された秋華賞のメンバー表がある。総勢17名、私は4枠7番とど真ん中のスタート位置だ。

 

 怪我で出走を見合わせたジーニアスセイント先輩の空いた席に転がり込んできたのは、7月頭まで未勝利だった、まさかのジュエルフラッシュ。

 

 彼女は「勝てたらティアラ路線に進みたい」と言っていたが、夏場の3連勝で本当に勝ち上がってGⅠの舞台までやって来た。その根性はまさに尊敬に値するだろう。

 

 他にもティアラ常連のヘリアンさんやヴァーンズィンさん、それにメジロパラディンさんやヴィブリンディちゃんも居る。

 

 変わり種は春の『NHKマイルカップ』で優勝した同世代のマイル王、夏の模擬レースにもいたナチュラルシャインさん。彼女もこの秋華賞に出走するそうだ。

 

 来週の『菊花賞』に出るフォーゲルフライやアバロンヒル、ハピネスシアターちゃんやエバシブさんといったメンツを除いても、何ら見劣りする事の無い何とも豪華な顔ぶれである。

 

 テレビで秋華賞の話題の選手を呼んでのトークショー(当然私は呼ばれていない)でもヘリアンさんやヴァーンズィンさんは自信満々で全く気後れしていなかった。

 

 場馴れしている他のメンバーに比べて、私はGⅠ初挑戦で京都レース場も初挑戦。もう何日も緊張しっぱなしで、トレーニングも最後の追い込みなのにタイムは伸び悩んでばかり……。

 

 そんな中で本当に走れるのかな、私…?

 

 ☆

 

「コスモスちゃんの為に私も何かしたいと思ったんだよ…」

 

 トッカンクイーン先輩の優しい言葉が胸に沁みる。先輩は私が秋華賞直前だと言うのに、ずっと緊張して上手く体を動かせないでいるのを見かねて、自ら私のトレーニングパートナーに志願してくれたのだ。

 

 本来チームも違うし、トッカン先輩は先週レースを走ったばかりなのに、そこまでしてもらうのはとても申し訳無いのだが、トッカン先輩のたっての願いという事でチーム〈アルカイド〉さんの方から申し入れてきたそうだ。もう本当に感謝しか無い。

 

 その日の練習終了後、私と新代トレーナー、そしてトッカン先輩と秋月トレーナーの4人でミーティングを行った。

 

「コスモスの最大の弱点はその弱いメンタルにある。まぁこれはデビュー直後に勝たせてやれなかった新代の責任も大きいので、あまり大きな声で言えないけどな…」

 

「もう、秋月さん! 失礼ですよ?」

 

 初手からズバズバと言ってくる秋月トレーナーと小さくなる新代トレーナー、そこにツッコむトッカン先輩。雑談とは言え秋月さんに強く出るトッカン先輩って珍しいかも……。

 

 確かにデビュー後の未勝利を燻らせていた頃に、『ここまで勝てないものなのか…?』と私のプライドは完膚なきまでに打ち砕かれた。

 こんな私でも地元では常に1番で、「トリプルティアラ獲ってくるから!」と宣言して故郷を後にし、トレセン学園へとやって来た物だ。

 

 それがデビュー前からフォーゲルらクラスメイトにも連敗続きで、本気でかつての自信を無くしていた。そして現在でも「それを取り戻せたか?」と言われると、うかつに首肯しがたいものがある。

 

 いや正確に言えば自信どうこうの前に、クラスメイトどころかGⅠを獲る様な娘達を相手に『どう戦えば良いのか?』の指標すらも立てられていない。あと数日で本番なのに……。

 

「それは僕もずっと引っ掛かっていて… コスモスはメンタルさえ十分なら本当に強い娘なんですよ。それを引き出してやれない自分がもどかしくて…」

 

 新代トレーナーも苦しそうだ。私が勝てなかったのは誰のせいでもない。強いて言うなら「私が弱かった」だけの話だ。新代さんは全然悪くないよ……。

 

「なぁコスモスよ、お前今日トッカンと練習してて、どうだった? 苦しかったか? 緊張したか?」

 

 秋月トレーナーが私をじっと見つめて問いかける。(ひぐま)みたいな体格の秋月トレーナーだが、その目にはとても優しい光が浮かんでいる。

 

「まさか。トッカン先輩と走るのはとても楽しいです。リラックスして走れたと思います」

 

 だってトッカン先輩は『優しいルームメイト』で『尊敬する先輩』で『重賞ホルダーの実力者』だもの。トッカン先輩の隣は下手したら実家よりもくつろげる場所かも知れない。

 

「そうだろ? それはトッカンを『味方』だと思って気を許しているからだ。んじゃ聞くが、秋華賞で走る他のウマ娘はコスモスの『敵』なのか?」

 

「そんな訳無いです。みんな… えと、全員じゃないけど、ほとんどは優しい人達です」

 

 敵とか味方とか考えた事もない。そりゃ性格のキツい人や余裕の無い人もいるよ? でもそれは『走り』に真摯で必死なだけで、「悪」でも「敵」でもない。

 

「そうだ。レースで競っても蹴られたり噛みつかれたりする訳じゃねぇ。全員で同じスタートラインから勝負を競っているだけだ。怖がる必要なんて無い」 

 

「そうだよ。私と競っていたコスモスちゃん、走りながら楽しそうに笑ってた。それを見て私も楽しくなってきちゃったもん」

 

 秋月トレーナーの話にトッカン先輩も乗ってきた。2人で私に「何か」を伝えようとしてくれているのが分かる。

 

「楽しく…」

 

「そう! ウマ娘はね、『走ってるだけで楽しい』の。楽しんで楽しんで、1番走りを楽しんだ娘が勝つんだよ!」

  

 確かに言われてみれば、最近はGⅠの重圧感や緊張から、走りの上達ばかりを追い掛けて『楽しむ』余裕がまるで無かった。そんな余裕すら持てない程に精神的に追い込まれて… いや自分を追い込んでいた。

 

「走りを楽しんだ娘が勝つ… 確かに心当たりありまくりですね…」

 

 そうか、私は緊張の余り『走る楽しさ』を忘れていたんだ。もっとウマ娘の本能のままにレースのドキドキワクワクを楽しんで良かったんだ……。

 

「良い顔になったね、コスモスちゃん」

 

 戦術なんて要らない。というと語弊があるが、その辺は未熟で知識の足りない私じゃなくて大人のトレーナーさんに任せ、私自身はアレコレ悩まずに「走れば良い」だけの話なんだ。

 

 なんだか目の前が一気に開けた様な気がするよ。『目から鱗が落ちる』ってこういう事を言うのだろう。

 

「本当にありがとうございますお2人とも。俺も事態に浮かれて基本中の基本を見失っていました。トレーニングに加えて精神的なフォローまでしてもらって、どうお礼をしたものか…?」

 

 新代トレーナーの言う通り2人には本当に感謝が止まらない。何かお礼をしたいけど私なんかに出来る事があるかな…?

 

 そこで秋月トレーナーが「待ってました」とばかりにニヤリと顔を歪ませる。あ、何か嫌な予感がするぞ……。

 

「コスモス、お前エリザベス女王杯でトッカンとバトルするらしいじゃねぇか。なら新代と2人で秋華賞に勝って、更に万全の状態でエリ女に出てこい。今日の礼はそれで勘弁してやるよ」

 

 うわぁ「そっち」が本命かぁ。悪い顔してる秋月トレーナーの隣で、ニッコニコなトッカン先輩の方が逆に怖く感じたよ……。

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