咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「では本馬場入場の時間です。皆さん参りましょう」
地下馬道から本馬場へ私達を導く『誘導ウマ娘』さんが私達の前に立つ。
いつもは1人なんだけどGⅠの時って3人も居るんだね。しかも今日は特別仕様なのか、3人とも綺麗な振袖姿だ。全員が芦毛の美人さんで、ハピネスシアターちゃんのトレーナーであるプラチナアイリスさんを彷彿させる。いかにも『大人の女』という感じで凄くカッコよくて憧れる。
本馬場に出ると大歓声が沸き起こる。ティアラGⅠの最終戦『秋華賞』、京都レース場は4万人を超えるファンが来場し、その歓声とどよめきは物理的に地面を揺らしているようにすら感じられた。
これがGⅠ… これがティアラ……。
「ヘリアーン、今日もスパッと逃げてくれよ〜っ!」
「ヴァーズィン、今日こそ勝ってくれーっ!」
「メジロパラディーン! GⅠ獲れよーっ!」
「ナチュラルシャインちゃん大好きーっ!」
「ヴィブリンディーっ! 頑張れーっ!」
観客席からの応援の声がたくさん聞こえてくる。出走者17名の全員に応援してくれる人がいる。そして……。
「コスモスーっ! ずっと応援してるからなーっ!」
そんな声も聞こえる。嬉しい、癒される、励みになる、元気を貰える……。
私は、私自身の、新代トレーナーの、カルチャー先輩やチームの皆の、両親の、地元の皆の、そしてファンの皆様の期待に応えるべく走る。
だが決して気負わず、力を抜いて、何よりとことん「楽しんで」レースに臨む。
緊張はしている。だが、カチカチに固まってはいない。先ほどのパラディンさん達との軽いやり取りで、図らずも平常心を取り戻せている。
私は走れる! 全力で、今日までの全て想いと努力の結晶を『私』という弾丸に変えて、ライバル達のど真ん中に撃ち込んでいける。
京都レース場のファンファーレが鳴り響き、スターティングゲートに入る時間となった。私の枠番は「7」、ラッキー7のご利益に期待しよう。
奇数番からゲートに入る。私の右隣の5番にはアーマーピアスさん、左の9番にはジュエルフラッシュだ。
ジュエルは無言のまま私の方を向き、不敵に微笑んでこちらに親指を立ててきた。私も軽く手を振って返す。ジュエルとの初めての対決、とても楽しみだ。
続いて偶数番のゲートイン、8番ゲートにNHKマイルカップの覇者ナチュラルシャインさんが入ってきた。凛とした涼やかな美女で、大人な雰囲気がある。
でも同い年なんだよね。この差は何なんだろう…?
「よろしくお願いします。夏の借りはここで返しますので」
「私も負けませんから」
シャインさんとの短い会話。そっか、夏の模擬レースの時もシャインさん居たんだよね。でも今回も負けられない。
パラディンさんの『メジロ家の復活』、ヴァーズィンさんの『三度目の正直』等々、他の娘達も全員が何かしらの強固な想いを抱いて今この場に立っている。
もちろん他の人の諸々の事情も、秋華賞に懸ける想いも十分に知っている。でもそれは私も同じ。『想い』の強さでは絶対に負けられない。
そして蕾が咲くかの様にゲートが開き、17名のウマ娘が一斉に飛び出した。
☆
1番良いスタートを切ったのはアーマーピアスさんとジュエル。だがスタート直後の第1コーナーで、外から1番人気のヘリアンさんが被せて来て、この3人で先頭集団を形成する。
そのまま第2コーナーから向こう正面の直線に移る。変わらず前の3人がレースを引っ張る。
ヴィブちゃんやパラディンさんら先行組はその後ろに付け、仕掛けるタイミングを計っていた。
私は更にその後ろ、大体10番手くらいに控えている。もう少し欲張って前に出るべきだったかな? …いや、焦りは禁物だ。
私から少し離れてヴァーズィンさんらが続き、やや早めのペースなのか縦長の展開になっている。
京都レース場は最終直線も含めて総じて平坦なコースなのだが、第3コーナーにそびえ立つ淀の坂、いや『淀の丘』は高低差4.3mと、URA直轄10大レース場のうちで中山レース場の5.3mに続く2番目に急な坂になる。
京都の坂は登りで体力を削られ、下りで勢いが付いて坂の出口でゴチゃつく傾向がある。京都の直線は比較的短いから、坂にいるうちからスパートを掛けないと、直線で実力を出し切れない。
内側は渋滞するし、外側は飛ばし過ぎると遠心力に振られて大回りしてしまう。単純そうでなかなか悩ましいコースなのだ。
だが上り坂からスパートなのは当初の作戦通り。他のウマ娘もほとんどが同じ戦法だ。ある意味ここからが駆け引きを含めて本当のレースと言えるだろう。
まるで私をトレースするかの様にヴァーズィンさんも同じタイミングで外から上がってきた。2人並んで坂の頂上から一気に下る。
下り速度の塩梅を見誤ったのか、2人が外に流れる。その隙を突く様に先頭に躍り出たのはヘリアンさん。
ここで私の《
でも矢印の上に3、4人いるよ…? その人達を押し退けて行くのか、はたまた都合良く私の進路を開けてくれるのか…?
「きゃーーっ!!」
直線に入ってすぐ、視界上方に一瞬何か黒い影が通り過ぎる。そして突然の叫び声。先頭のヘリアンさんが頭を押さえて減速してしまった。ヘリアンさんの垂れウマに巻き込まれてヴィブちゃんら何人かのウマ娘も減速を余儀なくされていた。
恐らくは飛んでいたカラスか何かがヘリアンさんに衝突したのだろう。極めてレアな事件で不幸だとは思うが、途中で事故等が起きてもレースが止まる事は無い。
前方集団でかなりの混乱が見られたが、そこから抜け出したのはヴァーズィンさんだった。続いてシャインさんとパラディンさん、私の矢印はパラディンさんに思いっきり陣取られている。
パラディンさんの左右後方にはジュエルとパワーキャストさんがいて、私はその3人に囲まれ抜こうにも抜けない位置取りに押し込まれてしまった。
残り200m。変わらず先頭はヴァーズィンさんで、私は変わらず馬群に呑まれたままだ。せっかく秋華賞に出られたのだ。こんな埋もれたままで終わるなんて絶対に嫌だ!
その時、私の前を塞いでいたパラディンさんが一瞬後ろを振り返り、私と目が合った… 気がした。
その直後、パラディンさんは不自然に体を少し内側に寄せ、私の《
パラディンさんの真意を知る由もないが、恐らくは私と競う為にわざわざ道を空けてくれたのではないだろうか?
だが《
ここが限界なの…? もう無理なの…? せっかく道が開けたのに、私はこれまでなの…?
「違う!!」
自分の弱気を押し込めるべく声を出す。こういう場面で挫けるからいつも負けるんだぞコスモスキュート!
何度も言われてきた「メンタルが弱点」。そんな事は分かっている。その通り、私はビビリで根性無しな弱い子だ。
それでも……。
それでも秋華賞に… ティアラに懸ける意気込みは、この場の誰にも負けないし、負けられない。
『限界』がどうした?! そんな物は知った事では無いし、そんな物は私には必要ないんだ!
「うわぁぁぁぁっ!!」
私の中の
私はパラディンさん目掛けて最後の力を振り絞った。