咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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全てに大きな感謝を贈りたく思います!

 道が開けてからゴールするまでの時間、《領域(ゾーン)》の影響もあるだろうが、もう無我夢中にメジロパラディンさんだけを見て、とにかく前へ前へと走っていた。

 

 そこから先はとにかくパラディンさんに追いつきたい、絶対に負けたくない、何としても勝ちたい、そんな気持ちだけだった。

 

 パラディンさんは速くて強い、でも私だって強くなった。彼女を追う間、過去最高のドキドキワクワクが私を支配する。『ライバルと競う』ってこんなにも楽しくて心躍るものなんだ……。

 

 もう少し、もう少しでパラディンさんに届く。私がパラディンさんに並び、そして抜いた。その瞬間巻き起こる大歓声。

 そこで我に返った。初めはその意味が分からなかった。でもすぐに思い出す、「これは秋華賞(レース)だったのだ」と……。

 

 パラディンさんの前には誰もいなかった。え? つまりこれって…?

 

「勝った、の…?」

 

 未だ回らない頭で何とか状況を整理しようとする。周りには16人のウマ娘、皆が疲れ果て息を切らせている。そして全員に共通しているのが、一様に下を向き無念の表情をしていた事だ。

 

 私のすぐ横にはパラディンさんが四つん這いになって、苦しそうに荒い息をしている。えっと、大丈夫かな…?

 

 観客席からの大歓声も次第に収まり、個別の応援が聞こえてくる。

 

「コスモスちゃんおめでとうーっ!」

「やったぞコスモス!」

「ずっと応援してたんだぞ!」

「惜しかったなパラディン!」

「メジロ家復活まであとちょっとだぞ! イケるイケる!」

「ヘリアン、アンラッキーだったがよく頑張った!」

「ヴァーンズィン勝ってほしかったなー」

 

 お客さんの声でようやく頭が事態に追いついた。

 

 私、勝ったんだ… GⅠのレースで、夢のラストティアラで勝てたんだ……。

 

 頭が情報を理解して心に届く。ようやく感情が解き放たれようとしている。念願叶った喜びが私を満たす、その気持ちが涙となって……。

 

「あははははははっ! チョー楽しかったーっ!!」

 

 唐突で場違いすぎる笑い声に驚いて、出かかっていた涙が一瞬止まる。これは…?

 

 え? パラディンさんの声…? このパラディンさんらしからぬ天真爛漫なバカ笑いは、本当にパラディンさんなの? まさか負けたショックで壊れちゃった、とか…?

 

 パラディンさんは芝に大の字に横たわり、空に向けて大笑いを続けていた。やがてゆっくり立ち上がると、子供の様なキラキラした目で私の両の手を取った。

 

「コスモス、凄いね! まさか最後で抜かれるとは思わなかったよ! すっっっっっごい楽しかった! もう最っ高! 貴女と走れて良かった!」

 

「…………」

 

 取った手を上下に振りながら私に語るパラディンさん。えっと… 表情から言葉遣いから今までとキャラが違いすぎて困惑しているんですけど…? まさか本当に壊れちゃった? だとしたら私のせい…?

 

「パラディン、さん…?」

 

 パラディンさんのあまりの豹変ぶりに驚いて、私自身の涙も引っ込んでしまった。どうリアクションすれば良いのかな…?

 

 大はしゃぎで握った手を振っていたパラディンさんだったが、数秒でその動きは止まり下を向いて固まってしまった。

 

「…ちゃった……」

 

「え…?」

 

 俯いたまま発した声が聞き取れなくて思わず聞き返す。そしてガバと顔を上げたパラディンさんの目からは多くの涙が溢れていた。

 

「ティアラ終わっちゃったよ… 勝ちたかった… どうじでも秋華賞獲りたがっだのに…」

 

 クラッシックレースやティアラレースはチャンスそのものが「一生に一度」しかない、「また次回」の存在しない過酷な世界なのだ。

 『時間を戻す魔法の目覚まし時計』でも使わない限り、獲り損なった栄光を取り戻す手段は無い……。

 

「ゴズモズざん、おべでとう〜っ! でも… でも私も勝ちだがった… ()ぢだがったよぉ… う、うう… うわぁぁぁーん!!」

 

 パラディンさんは空に顔を上げ、(せき)を切った様に号泣を始めた。

 とにかくこんなにも感情を(あら)わにするパラディンさんを見るのは初めてで、私も面食らって途方に暮れている。

 

 幼子の様に泣いているパラディンさんをどう扱ったら良いのか分からなくて、私は彼女の頭をそっと包み込む様に抱きしめた。

 

 パラディンさんからも抱き返してきて、パラディンさんは私の胸に顔を埋めてしばし(むせ)び泣いていた。

 

 私は泣く子をあやす母親の気分でパラディンさんの頭を撫でる。ここでようやく役目を忘れていた私の涙腺が仕事を思い出したようで、溢れた涙が私の頬を伝い流れ落ち、その涙がパラディンさんの頭に(したた)っていった。

 

 パラディンさん… 私も人生で最高に楽しくて完全燃焼出来たレースでした。一緒に走ってくれてありがとう。私と競ってくれてありがとう。貴女とお友達(ライバル)になれて本当に良かった……。

 

 翌日のスポーツ新聞には、この泣き笑いの表情で抱き合う私とパラディンさんの写真が一面に大きく飾られ、そこには『コスモス(わら)う』の見出しがドーンと添えられる事になる。

 

 ☆

 

「ご、ごめんなさいコスモスさん… (わたくし)ったらつい我を忘れてしまって…」

 

 ようやく正気に戻ったパラディンさんが、顔を真っ赤にして私から離れる。

 

 確かに私の中の『パラディンさん像』は大きく崩れてしまったけど、今まで喜怒哀楽を()()()抑えていた印象のあるパラディンさんが、同年代の女の子としての素顔を見せてくれた事、等身大のパラディンさんを感じられた事が素直に嬉しかった。

 

「コスモスキュートさーん、インタビューを行いますのでウィナーズサークルへお願いしまーす」

 

 パラディンさんに何か言い返そうとした所でレース場の係員さんに呼び出される。

 どちらには対応しようかとあたふたしていると、パラディンさんがそっと背中を押して、笑顔で「行ってらっしゃい」と小さく手を振ってくれた。

 

 ☆

 

「まずは並み居る強豪を抜き去って最後のティアラを勝ち取りましたコスモスキュートさんに盛大な拍手を!」

 

 司会進行の人と一緒に慣れない壇上に上げられて、どうすれば良いのか分からずに固まってしまう。すぐ下には新代トレーナーが居てくれるから怖くは無いけど、緊張からか笑顔が固いのが自分でも感じられる。

 

 観客席から巻き起こる約4万人の拍手と歓声に圧倒される。その全てでは無いだろうけど、大多数が私の勝利を祝福してくれる。こんなに光栄な事はない。

 

「秋華賞優勝おめでとうございます。ここまでの道のり、決して平坦なものでは無かったと思いますが、この喜びをまずはどちらに伝えましょう?」

 

 司会者からマイクを向けられるが、うまく言葉が出てこない。言いたい事や伝えたい事は山ほどあるのに、言葉としてうまく紡ぎ出す事が出来ないでいた。えっと、まずはお礼からだよね……。

 

「あ、ありがとうございます… そうですね… 私をトレセン学園に送り出してくれた両親、なかなか勝てない私をずっと応援してくれたファンの皆様、切磋琢磨で私を強くしてくれたライバルの娘達、そして何より私を信じて今日まで導いてくれたトレーナーさん… その全てに大きな感謝を贈りたく思います!」

 

 声を出せたら途端にスラスラと言葉が湧いてきて、結構な長セリフを吐いてしまった。喋りすぎたかと思ってハッと口を閉じると、それを契機に再び観客席から拍手と喝采が巻き起こる。 

 

「ありがとうございます。とっても真面目で初々しいコスモスキュートさんでした!」

 

 あ、これで終わり? こんな問答で良かったのかな? 私がもっと気の利いた事が言えるキャラクターだったら良かったけど、変に飾るより素顔のコスモスキュートをお届けした方が良かった… んだよね?

 

 お立ち台を降りる際に新代トレーナーが手を貸してくれる。好きな人が目の前にいて、今その人と手が触れている。

 

 新代トレーナー、私やったよ。やり遂げたよ! 2人の夢を叶えたんだよ!!

 

 とその時、緊張と疲労と恋のドキドキで膝がガクついていたせいもあり、段差を踏み外してしまった。

 

 バランスを崩した私を優しく抱き止めてくれたのが新代トレーナー。

 ここで理性が爆発してしまった。思わず新代トレーナーに抱きついて、彼の胸に顔を埋めてスリスリする。少しタバコ臭い。

 

 本当はね、人目の無い所でもっと優しくハグしてもらうつもりだったのよ? でも予期せぬタイミングで変なスイッチが入ってしまい、大観衆の目の前で醜態を晒してしまった……。

 

 観客席からも冷やかしの声が聞こえてくる……。

 

 でも良いや、今すっごく幸せだから!!

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