咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
秋華賞の後はプレオープンの亀岡特別が行われ、本日の全レースは終了した。しかし最終レースが終わってもレース場を後にする観客は数少ない。
それはもちろん、その後に私達秋華賞メンバーによるGⅠ限定楽曲『
普段の様にレース後すぐにライブにならないのは、すでに骨身に叩き込まれて「たとえ何着のポジションでもいつでも歌って踊れる」『
今更だがウイニングライブはその立ち位置がレース結果に左右される為に、自分がどの位置でどの様な動きをすれば良いのか、レース後まで分からないと言うカオスさがある。
という訳で、現在パドック地下にある練習用の小ホールに全員が集まって、立ち位置確認と実際に曲を流してのリハーサルを行っている最中という訳だ。
URA直属のダンス講師が、失敗の許されない即席のユニットをビシバシ訓練する。ある意味、レース以上に緊張する場面でもある。
レースの上位3名のみが着られる見慣れたライブ服に袖を通し、私は早くも次の戦場に立っていた。
☆
「コスモス、改めておめでとう! やっぱりコスモスは凄いよね」
レッスン場となった小ホールで私に最初に話しかけてきたのはジュエルフラッシュだった。
ジュエルは最終的に6着だったが、彼女の勢いはまだまだ止まらないだろう。きっとまた近い内に
「ジュエル… ありがとう、今になってジワジワ感動してるよ…」
これは本当だ。レースしてインタビューして、慌ただしさから解放された今だからこそ、勝利の喜びが私を内側からポカポカと温めてくれている。
「
「あ〜、奇遇だねぇ。ボクもさっき濃密なコミュニケーションが出来なかったから、コスモスちゃんを襲ってしまいたくてムラムラしているんだよ〜」
柱の影に隠れていたのか、ジト目で急にひょっこりと現れたメジロパラディンさんとヴァーンズィンさんに驚いて軽く悲鳴を上げてしまった。2人は2着と3着だったので、私と同じセンター用のライブ服を着ている。
「あ、どうも… 何て言って良いのか… 勝っちゃってスミマセン…」
もちろん2人の仏頂面も本気ではなく冗談のつもりの演技だったろう。ヴァーンズィンさんも本気じゃない、よね…?
しかし、本気で腹を立てている人が他にいた。
「そうよ! なんでアンタみたいな雑魚がGⅠ獲ってるのよ!? あんなインチキレースあたしは認めないわよ!」
不慮の事故 (?)で5着になってしまったヘリアンさんが乱入してくる。でもあれだけ走りを乱されつつ入着できるのもさすがに凄い実力だと思う。
それはそうと彼女の標的は私の様で、このままだと数秒後にはきっと彼女に物理的に噛みつかれる。怖い……。
確かに事故が無ければヘリアンさんが最後まで逃げ勝っていた可能性は高いと思うよ? それでもさ……。
「まぁヘリちゃんの気持ちも分かるけど、レースは何があっても止まらないし『やり直し』も無いからねぇ。今回は運が無かったと諦めて、次に賭けるしか無いんじゃん?」
ヴァーンズィンさんが私とヘリアンさんの間に入って取りなして、私の代弁までしてくれた。
ヴァーンズィンさんだってティアラGⅠの3戦で2着、2着、3着だから、私の好きだったヴィルシーナさん(ティアラGⅠ全て2着)並みに悔しい想いをしているに違いない。
ヴァーンズィンさん本人は凄く飄々としていて本心が見えないタイプの人だけど、学園でGⅠを走る様な人が『熱い魂』を持っていないはずがない。こういう人の方が怒りを発散出来る人より怖かったりするんだよね……。
「あーもう! 面白くないわ!! …良い? ここの全員で改めて勝負をするわよ! やる気のある奴は来月の『エリザベス女王杯』に出なさい。本当の『格の違い』を見せてあげるんだから!」
う〜ん、エリ女は私とトッカンクイーン先輩との約束のレースだから元々出走するつもりではあったけど、ヘリアンさんも出るのかぁ。それに今の檄に応えてエリ女に出てくるティアラのライバルが増えそうだなぁ。怖いなぁ……。
当然だけど、エリ女にはトッカン先輩はじめシニア級の先輩達も多く参戦してくるだろう。怖い… 怖いけど、そんなオールスターの中で競える事にとてつもなくワクワクしている私がいた……。
☆
GⅠレースのウイニングライブは、いつものコース脇の小ステージではなくて、芝の直線コースの地下から機械式に迫り上がった巨大なステージで行われる。
ライティングされていない薄暗いステージで、壇上にガムテープで留められたバミリを目当てに私達は配置に付く。
初めてのGⅠでまさかのセンター、4万人のお客さんを前に私なんかに務まるだろうか? 今更になって心臓が自分の物じゃないくらいにバクバク言っている。誇張抜きに放っておいたら口から心臓が飛び出しそうだ。
「コスモスさん、リラックスして下さいまし。
「そうそう、これでもボク達『彩 phantasia』は3回目のベテランだから、フォローは任せて」
パラディンさんとヴァーンズィンさんが、緊張で固まっている私を見かねたのか声を掛け元気づけてくれた。
そう、『彩 phantasia』は子供の頃から夢に見た憧れのステージで、今そのセンターに私は立っているのだ。親やファンの皆様、トレーナーやライバル達、何より自分自身の為に情けないステージは見せられない。
「ありがとうございます。センターが縮こまっていたらステージが台無しですもんね。気合入れていきます!」
そしてステージ脇のADさんから「10秒前でーす」の声がかかり、私は改めて息を整えた。
☆
軽快な曲が流れてステージ全体が明るく照らされる。だがそれもイントロの間の12秒ほど。すぐに暗くなりスポットライトが私だけを照らす。
「day by day 憧れて〜 step by step 積み重ね〜
そうだ、夢に憧れて、努力を積み重ね、新代トレーナーと2人でこの道のりを紡いできた。
この歌詞だけで、溜め込んでいる想いと涙が爆発しそうになる。でもステージで涙は厳禁、ぐっと堪える。
「one by one 乗り越えて〜」
「by and by 手繰〜り寄せた〜」
パラディンさんとヴァーンズィンさんのソロパートにそれぞれライトが当たる。そして3人で「たぁ〜った一度の
私の一番好きなフレーズはサビ前の
「このまま〜」と私。
「離さな〜い」とパラディンさん。
「譲れな〜い 」とヴァーンズィンさん。
最後に私が「渡さな〜い」と前に右手を伸ばし、何かを掴んで離すまいと小さく、しかし強く胸の前に抱え込む瞬間だ。
勝利の栄光、喜び、名誉、それら全てを離さず譲らず渡すまいとする決意の証、ここに『
ティアラ路線はキュートさで売っているみたいなイメージがあるが、その代表曲は斯様に重い意味の歌詞で作られているのだ。
「ドキドキってもっと ファンタジア〜 手を伸ばし〜 つかもう〜」と3人で揃ってサビに入り、「きゅんとぎゅっと鼓〜動が こ〜んなにっ
冗談抜きで本当に胸が苦しいよ。嬉しさ、興奮、緊張、責任感、その全てが1つになって私にのしかかる。
「ねえ やっと逢えたこの
ウイニングライブは応援してくれたお客さんやテレビの向こうの視聴者さんに感謝を伝える
そしてCパートと大サビがあり、曲のラストにも「ずっとずっと待っていた わった〜しは〜 いろ〜どりファンタジア〜 あり〜がとう〜っ!」
と歌って締められる。この最後の「ありがとう」で私はお客さんの一人一人を見つめるつもりで歌ったけど、感謝の気持ちが伝わったかな…? 伝わっていたら良いなぁ……。