咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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うん、分かるよ。良いよね…

76 うん、分かるよ。良いよね…

 秋華賞から数日間、学園内だけでなく近所の商店街のおじさんやおばさん、更に両親や地元の友達等々、色々な人に秋華賞の優勝を祝福してもらった。

 

 私がメジロパラディンさんやヴァーンズィンさんらを退けてラストティアラを獲得できた事が、まだ夢みたいで現実味が無く、ふわふわした気分が治まらない。

 

 もちろん次に走るエリザベス女王杯に向けてのトレーニングは始まっているが、せめて今週いっぱいくらいこの幸福感を噛み締めていたいものだ。

 

 ☆

 

「コスモスキュート先輩、秋華賞おめでとうこざいました。あのラストの追い上げは超感動です!」

 

 ある日のトレーニング休憩中にグラウンド脇のベンチで休んでいたら急に声を掛けられた。その声には聞き覚えがあるような無いような……。

 

「こんにちは、ウィッシュブリンガーです。私の事覚えてますか…?」

 

 その娘の顔を見る。黒鹿毛ミディアムヘアで、まるで髪を梳いていないかの様に毛先がほうぼうに散っている。或いはそういうセットなのかも知れない。自信に満ちた表情はどこか他人を見下しているみたいにも見える。

 

 服装は私と同じ体操服。彼女もトレーニング中の休憩時間なのかな?

 

「あ… 貴女、前に一度会ってるよね? 何だっけ…?」

 

 そう、私はこの娘と会っている。そしてあまりこの娘に好意を抱く状況では無かったのも覚えている。

 えっと、確か春先に… そこで私ははたと手を打った。

 

「思い出した! 確か私とフォーゲル(フライ)との模擬レースで賭けしてた娘だよね!?」

 

 3月末の卒業パーティーである『リーニュドロワット』の開幕エキシビションダンサーとしての任務を与えられたフォーゲルが、嫌がる私をデート(ペア)にするべく仕組んだ模擬レース。

 

 そこで私を応援してくれたのが目の前のウィッシュブリンガーちゃんだ。尤もそれは彼女の友人との賭け試合に奮起させる為の打算に満ちた物であったが、それでもあの時の私は本気で嬉しかったんだぞ…?

 

「あははぁ… そうです。あの時はごめんなさい。でもあれからコスモス先輩、見違えるほど強くなりましたよね。秋華賞でヴァーンズィンさんやメジロパラディンさんを抜いた末脚はホント感動しました!」

 

 キラキラした目で熱っぽく語るウィッシュブリンガーちゃん。そうなのかな? まぁそこまで言われると悪い気はしないけどさ……。

 

 嘘を吐いている風では無いけど、何だかまた罠が張られている気がして、ウィッシュ(このこ)の前だと落ち着かない気分になる。 

 

「あ、ありがとう… そう言えばウィッシュブリンガーちゃんも『夏にデビューする』とか言ってたよね…? どうだったのかな…?」

 

 何となく私の話よりも彼女の話をして話題を逸らした方が得策な気がしたので、話題の転換を試みる。

 

 以前会った時に確かそんな事を言っていた。自分の事にかまけ過ぎて他人の、ましてや新馬戦までの結果にはチェックしきれていない。

 

 もし彼女が勝っているなら「おめでとう」と言ってあげられるし、未勝利で苦しんでいるなら私なりの慰める言葉を掛けてあげられるかも知れない。

 

「あ、ハイ、バッチリ勝ちました! あと私の事は『ウィッシュ』で良いですよ!」

 

 ウィッシュ… ちゃんは満面の笑顔で私に親指を立てて見せた。そっかぁ、バッチリ勝てたのかぁ。凄い娘なんだなぁ。開幕5連敗の私とは大違いだね……。

 

「実は私、来年のクラッシック級で三冠路線に行くかティアラ路線に行くかでずっと悩んでいたんですが、最終的にティアラ路線を選びました。だってそれくらい先日の秋華賞で感動したんです。コスモス先輩の足跡を繋いでいきたくなりました!」

 

 ウィッシュちゃんの瞳に曇りは無い。多分この娘は真っ直ぐ過ぎて思った事をすぐ口に出してしまう、きっと隠し事の出来ない性格なのだろう。

 

 悪い子では無いのは分かるけど、こういう意図せずグイグイ来るタイプって少し苦手かも知れない……。

 

「そ、そうなんだ…? 気持ちは嬉しいけど、何で私なの? ヘリアンさんやジーニアスセイント先輩もティアラの優勝者なのに…」

 

 ヘリアンさんはレース中に事故があったし、ジーニー先輩は怪我で走れなかった。

 この2人が秋華賞でまともに走れていたら、レースはまた違った展開を見せただろう。

 

 ジーニー先輩込みでもう一度秋華賞を走ったとして、そこで私が勝てる可能性は、限りなく低い微粒子レベルだと思う。

 

「…んー、まぁメジロパラディン先輩との熱い友情も込みですかねぇ? 私もああいう『熱い』ライバルが欲しいなぁって思ってて…」

 

 確かに実力が伯仲しているライバルとの切磋琢磨はとても気持ちが良い。一瞬毎に自分の成長を感じられる気がするしね。

 

「うん、分かるよ。良いよね…」

 

 パラディンさんやヴァーンズィンさん、ジュエルフラッシュやヴィブリンディちゃんら私のライバル達の顔が、脳裏に浮かんでは消えて行く。

 あの人達と同期で、同路線で本当に良かったと思う。みんな大好きで私の尊敬するウマ娘だ。

 

「それでコスモス先輩は次走が『エリザベス女王杯』ですよね? 私の次走はその前日のデイリー杯なんですよ…」

 

 デイリー杯ジュニアステークス… エリザベス女王杯の前日に同じ京都レース場で行われる、1600mのジュニア級GⅡレースだ。

 

 デビューから2戦目でもう重賞に挑戦するのか… 凄いなぁ。きっとウィッシュ(このこ)はフォーゲルフライやブラックリリィ先輩みたいな『天才タイプ』なのだろう。少し羨ましい……。

 

「で、今日声をかけたのは『コスモス先輩が私の目標です』って言いに来たのと、来月のレース必勝祈願で『コスモス詣で』をしたいと思いまして…」

 

 そう言うとウィッシュちゃんは私に向けて手を合わせ、恐らくは願い事を何やらゴニョゴニョと呟く。

 

 あ〜、夏場に少し流行った『コスモス詣で』ねぇ… でもあんなん全然ご利益無いからね?

 

「先輩もエリ女走るなら前日に京都入りしますよね? もし良かったら私のレース応援しに来てください!」

 

 そう言うとウィッシュちゃんは私の答えも聞かずに颯爽と走ってグラウンドへと戻って行った。

 

 ホント凄いなぁ。言いたいこと言いまくって風の様に去っていったよ……。

 

 でも「私の事が目標」だなんて言ってもらえてとても嬉しかった。

 

 もちろん私自身まだまだ発展途上で、他人の目標になれる様な器じゃない事は十分理解している。

 

 それでも私の走りで誰かの心に何かを残せたのであれば、それはとても素晴らしい事なのだと思う。ウマ娘をやっていて、レースを走ってきて『良かった』と心から思えた瞬間だった……。

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