咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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私も身を以て体感していますし

 秋の京都は賑やかだ。『秋華賞』から始まって『菊花賞』、『エリザベス女王杯』と連続してGⅠが開催される。

 私たち競走ウマ娘にとって、「秋の京都」はとても特別な存在だと言わざるを得ない。

 

 さて秋華賞から1週間、今日はクラッシック三冠路線の最終戦である『菊花賞』の日だ。

 フォーゲルフライ、アバロンヒル、エバシブさん、ハピネスシアターちゃん、タクミノツバサさんら有力選手が再びしのぎを削って熱い競争(バトル)を繰り広げる。

 

 実際人気順も、かろうじてフォーゲルこそ1番だが、続くエバシブさんやハピネスちゃんらも人気に大きな開きは無い。

 しかも今回は3000mというロングコースでもあるので、これまでに無かったスタミナ面が最重要視される展開になる。

 

 当地の天気は朝方まで小雨が降っていたらしく、空は曇っており馬場は『稍重』。日光に弱いエバシブさんには走りやすい環境では無かろうか?

 起伏の少ない京都レース場という場所も相まって、勝敗予想が立てづらいのは致し方ないと思う。

 

 ☆

 

 今日の視聴環境はトレーナー事務所の大型テレビ。今日の課題である坂路練習を終わらせて、体操着のまま待機している。本当はちゃんと制服に着替えて匂いケアしてからにしたかったのだけど、時間が無くてねぇ……。

 

 なお、新代トレーナーは「取材の打ち合わせ」とかで、今は隣に居ない。秋華賞に勝ってから大量に取材の申し込みが来ているとかで、その対応も全て新代さんが1人で切り回しているのだ。とてもありがたいのだけど、寂寥感は否めない。

 

 という訳で今日はソロなのだが、正直新代トレーナーが居なくて少し助かっている面もある。彼を意識してから『汗をかく』事が少し恥ずかしくなってきたのだ。これでも花も恥じらう乙女なのだから……。

 

 ちなみに今日は新代さん以外のチームのフルメンバー揃っていて、山西チーフ他、林トレーナーとその担当のババヤーガ先輩もテレビに注目して、思い思いの予想を語っていた。

 

 あ、オオエドカルチャー先輩は菊花賞には興味が無いのか、まだ外で単独自主練しているみたいだ。

 私が秋華賞に勝てたのはカルチャー先輩の激励もその一因であるので、キチンとお礼を言いたいのだが、まだまともに会話が出来ていない。お互いに忙しかったしね……。

 

「さぁラストクラッシックの菊花賞、解説のコスモスキュートさんはどう予想しますか?」

 

 隣に座ってきたバー先輩が実況アナウンサーの真似なのか、ふざけた口調で質問してくる。しょうがないなぁ、ノッてあげるか。

 

「そうですねぇ、やはりフォーゲルフライさんのスピードやスタミナが群を抜いているのは、私も身を以て体感していますし1番人気なのは頷けます」

 

 そう、やはりフォーゲルは文句無しに強いウマ娘だ。如何に普段の生活がだらしない変人でも、トレセン学園の流儀では「速い者が偉い」となる。フォーゲルは間違いなくそんな「偉いウマ娘」の1人なのだ。

 

「ただ他の娘達と比べて実力が頭一つ抜けているとも思えません。春にGⅠを獲っているハピネスシアターさんやエバシブさんの粘りに注目ですね」

 

 そこまで言ってバー先輩に微笑み返す。今更だけど、私何かトンチンカンな事を言っていたりしないかな? 私なりに真面目に答えてみたけど…?

 

「なるほど、コスモスの予想はフォーゲルフライか… 当たると良いね!」

 

 バー先輩はそんな私にニッコリと笑顔を返してくれて、楽しそうにテレビに視線を戻す。

 

「はいっ!」

 

 さぁ、菊花賞のスタートだ。

 

 ☆

 

 開始早々アバロンが逃げを打つ。タクミノツバサさんが2番手、いつもは先行策を取るフォーゲルは珍しく中団後ろ。すぐ後ろにハピネスちゃん、エバシブさんは最後方で様子見かな?

 

 3000mという未曾有の長距離レースは予想以上にスタミナを削られるはずだ。

 

 ただ単に3000m走るだけなら、どのウマ娘だって余裕でこなせるけど、走行ペースや位置取り、仕掛け時の選定や他のウマ娘との駆け引き等々、レース中は考えないといけない事が多すぎる。その『考えながら走る』という行為が途轍もなくエネルギーを消費するのだ。

 

 新代トレーナーからは私の距離適性はマイルから2000mの1800m前後だと言われている。

 そのマイルから中距離のレースでも、走り切った時の疲労感は凄まじい物だった。

 

 そこから更に1000m追加して、なおかつ「考えながら走れ」と言われたら、私なら「ごめんなさい、ちょっと無理です」と言ってしまうだろう。

 

 そんな超高難易度のレース、しかもGⅠを走る同期の娘達にはリスペクトしか無い。菊花賞とはそんなレースだ。

 

「うわ、このアバロンヒルって子、2000走ってから加速したよ。どんなスタミナしてんの?」

 

 バー先輩が驚きの声を上げる。『逃げ』戦術で先頭をキープしたまま2周目の第3コーナーで更にペースを上げてきた。

 

 普通ならここまで『逃げ』てきて更に加速する余裕は無いはずなんだけど、アバロンはとにかく『努力』を是とするウマ娘なんだよね。

 

 普段から学級委員長でクラスをまとめる役割を完全にこなしつつ、学内模擬レースでも常に上位の成績をおさめる秀才、それがアバロンヒルだ。

 

 アバロンはいつだったか、「フォーゲルが天才型なのは一目瞭然。だから私は『努力』で『天才』を打ち破るの!」と豪語していた。

 

 そのアバロンが今、後続を約4馬身離して『淀の坂』を降っている。坂を抜けた京都の直線は平地の勝負だ。坂を降りた勢いを速度に乗せて走り切れば「まさか」のアバロン優勝も十分あり得る話になる。

 

 だがしかし、アバロンには気の毒だがそれを許すメンツでは無かった。直線に入ってすぐにフォーゲルが加速、ハピネスちゃんとタクミノツバサさんも続く。

 

 必死で逃げるアバロンだが、200m付近でフォーゲルに並ばれる。2人が100m近く競り合うが、やがてフォーゲルが追い抜いた。

 

 タクミノツバサさんやハピネスちゃんも加速するがフォーゲルやアバロンには届かないまま。

 このままフォーゲルがゴールするかと思いきや、ラスト直前で密かに上がってきていたエバシブさんがフォーゲルを捉え、一気に追い抜いた。

 

 エバシブさんは今までどこに居たのだろう? 一応気を付けて見ていたつもりなのだが、彼女は皐月賞の時と同様、見えない場所からワープしたかの様に唐突に現れた。そういう《領域(ゾーン)》なのかな…?

 

 京都レース場の観客席は、その興奮がテレビ越しに伝わってくる程に大きく沸いた。いやぁ、今回も凄いレースだったねぇ……。

 

 結果、1着はエバシブさん。2着はフォーゲル、3着がアバロン、以下タクミノツバサさん、ハピネスちゃんと続く。

 

 ダービー後に話した時は冗談だったのだけど、アバロンマジで3着になっちゃったね… 結果は残念だったけど、「三冠レース全て入着」って普通に『偉業』だと私は思うよ。

 

 フォーゲルもアバロンも惜しかったけど、やっぱりエバシブさんが凄いなぁ。姉妹揃ってGⅠをバカスカ勝っちゃうんだから、やっぱり『血筋』って大事なのかな? とか考える。

 

「ふぅ… 凄いレースで見てて汗かいちゃいましたねぇ。ちょっと着替えてきます…」

 

 菊花賞のウイニングライブまではかなり時間があるので、その間にやり損なっていた着替えを済ませるべく立ち上がる。バー先輩も軽く「いってらー」と返し手を振ってくれた。

 

 ☆

 

 体操着を脱ぎ、ウェットティッシュとタオルで体を拭く。本当はトレーナー室にシャワーがあれば最高なんだけど、さすがにそこまでは贅沢だろう。それとも私達がもっとGⅠ勝ったりすれば叶うのかな?

 

「でもやっぱり、好きな人と一緒にレース見たかったな… 新代さん今頃何してるんだろう…?」

 

 ふと新代トレーナーの事を思い出し少し寂しくなる。楽しみは分かち合いたいよね。ちょっと会いたいなぁ、などとセンチメンタルな気分になる……。

 

「ふぅん… やっぱりアンタも新代のこと好きなんだねぇ…?」

 

 誰も居ないと思っていた更衣室の奥から聞き慣れた声が聞こえてきて、恐怖から叫びそうになる。体の芯から一気に体温が下がる気がした。

 

 そこに居たのは、いつの間にか自主練から戻って着替えていたカルチャー先輩だった……。

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