咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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カルチャー先輩はズルいです

「あ、あの、カルチャー先輩…? あの、これは、違うんです! 変な意味じゃなくて…」

 

 油断して全く警戒していなかったのもあって、物陰から急に現れたオオエドカルチャー先輩に驚いて声のトーンが一段階上がる。

 私は着替えの途中で、今半裸なのもあって余計に焦ってしまう。

 

「違うの…? じゃああたしの好きにして良いのね?」

 

 どこぞの悪の女幹部みたいな雰囲気で冷徹に迫ってくるカルチャー先輩。普通に怖い……。

 

「え… えと、あの、あぅ…」

 

 まだ気持ちが落ち着かないせいで頭も回らない。上手い返答など考えつくはずもなく言葉に詰まってしまう。

 そもそもカルチャー先輩は「好きにする」って、一体何をするつもりなのだろう…?

 

「ふん… まぁアンタ分かりやすいからあたしも気がついてたよ。春先くらいから発情(フケ)ってるんじゃないか? ってくらい熱い視線で新代のこと見てたし…」

 

 ウソでしょ? 私が新代トレーナーへの好意を自覚したのはつい最近… いや違うな。ホワイトデーのデートから… ううん、今にして思えば初勝利の時に新代さんに抱きしめられた時からこの気持ちは始まっていたのかも知れない。

 

 自分自身が鈍感なだけで、周りから、それも女子の目から見たら私は発情しているレベルに見えていたのか… それはさすがに凄く恥ずかしいな……。 

 

「はい… 良くない事だと分かってはいるんですが… それとやっぱりカルチャー先輩も…」

 

 そう、私に迫ってくるカルチャー先輩にしたって、結構分かりやすく新代トレーナーを意識しているみたいだった。

 

 生徒とトレーナーの色恋沙汰は言うまでもなくご法度だが、カルチャー先輩にだけはその気持ちを責められる筋合いは無い。

 

「悪い…?」

 

 カルチャー先輩は一切悪びれる風もなくサラリと言ってのけた。常に自分に自信があって、自分が間違っているなどと微塵も思っていない。この人はいつもそうだ。

 

 ヘリアンさんとかもそうだけど、強いウマ娘にはそんな我の強い人が多い。逆にそれくらい強気でいないとレースなんて勝てないよね、という話でもある。私だって分かってはいるのよ?

 

「悪くは、無いです、はい…」

 

 誰が誰を好きになるかは他人には関係がない。でもそれが直接の利害関係を侵すとなると話は違って来る。

 問題は『トレーナーと担当ウマ娘』という、私と新代トレーナーの関係性でどこまで利害関係を主張出来るか? だが……。

 

「あたしに言わせれば、コスモスの気持ちはトレーナーに対する感謝がだんだん慕情に変わっていく、生徒によくあるパターンだよ。離れればすぐに冷める。でもあたしは違う。新代には何の恩も無い。そこから好きになった…」

 

 むう、確かにそれはそうなんだけど、恋愛っていきなり『ピキーン』って好きになるだけじゃなくて、じっくり付き合ううちに惹かれていく物もあるんじゃないかな? 恋愛初心者の私でもそれくらいは言える。

  

 カルチャー先輩のトレーナーである山西チーフはハゲ頭の年配者、いつもケンカばかりで恋愛に発展しなそうなのは分かるけどさ……。

 

「で、どうすんの? 新代に告白するの?」

 

 カルチャー先輩の目が細くなる。あれは獲物を射程内に捉えた肉食獣の目だ。私の答え次第では噛み付かれるのだろうか?

 

「す、するわけないじゃないですか! トレーナーは言わば教師で、生徒と教師がそんな関係になるのはダメです!」

 

 噛み付かれては堪らないので即座に否定する。倫理的に許されない話だけど、事はそれだけでは済まない。

 

「そんな事になったら2人とも業界追放されちゃいます。この想いは思い出としてお墓に持っていくつもりですよ…」

 

 新代さんの事は『好き』だ。でもそれを伝える訳にはいかない。それをしたらこれまでの関係全てを壊してしまう可能性がある。

 

 「もしフラレたらどうしよう?」なんて浅い羞恥心の更に奥にある「ずっと離れ離れになる」という『恐れ』が込み上がる。

 

「そっか… ならあたしが告白しても良いよね?」

 

「え…?」

 

 カルチャー先輩の言葉に一瞬知能が飛ぶ。何がどう巡ってそうなるの? 私がダメならカルチャー先輩だってダメだよ…?

  

「あたしは今年限りでトゥインクルシリーズを引退してドリームトロフィーに進むって話はしたよね?」

 

 した。聞いた。私は無言のままで首肯した。

 

「だからあたしは来年から正式にプロとして走る。学園生徒のままだとプロ活動が制限されて稼ぎが減っちゃうから、学園も自主退学するつもり…」

 

 マジか!? え? という事は…?

 

「学園を辞めちゃえば… 『生徒』じゃなくなればあたしは自由な『1人の女』だ。邪魔なルールに縛られる義理は無い」

 

 カルチャー先輩、そこまで考えているのか… あ、でもそうなったら私の勝ち目が無くなっちゃわない?

 

 強いて言うならカルチャー先輩はまだ未成年で、三十路の新代トレーナーと付き合うのは『青少年健全育成条例(未成年淫行条例)』違反となる事だが、普通に健全なお付き合いをしているだけならそれは適用されない。

 

 どうしよう…? 学園を辞めてまで攻め手を考えているカルチャー先輩に対して、私は全く打つ手がない。

 

「…カ、カルチャー先輩はズルいです。先輩の考えは学生に相応しくないと思います。でもそんな風に言われたら私は何も出来ないです…」

  

 それだけ返すので精一杯だった。私と新代トレーナーがお付き合いするのは許されない。かと言ってカルチャー先輩に新代さんを取られるのも面白くない… 私はどうすれば良いんだろう…?

 

「おいっす〜、エドちゃんいつの間に帰ってた? んでコスモスは半裸でどうした? エドちゃんにデカ胸自慢してたのか? てか空気悪いね何事? ひょっとしてケンカしてた?」

 

 私が言葉を詰まらせていた所にババヤーガ先輩が更衣室に入ってきた。

 空気が良くなかったのは事実だから、良いタイミングで来てくれたと思う。多分次のカルチャー先輩の言葉から本格的にケンカになりそうだったし。

 

 そして別に胸の自慢なんてしていない。私より胸の大きい娘はいくらでもいるし、競走ウマ娘にとって大きなバストは何のアドバンテージにもならない。

 

 それはそうと半裸なのは確かだったから、急いで制服のセーラー服に袖を通し、スカートを履いて中のブルマを脱ぐ。

 もぉ着替えるのも忘れる位にショッキングな話題だったからね。

 

「別にケンカじゃないよ。…何ていうか、宣戦布告? みたいな?」

 

「なんじゃそりゃ???」

 

 カルチャー先輩もバー先輩の乱入に少し頭を冷やしたらしい。それに「しゃべりたがり」のバー先輩に詳しい事を教えたく無さそうだし。

 

 話に全く()いてこれないバー先輩を無視して、カルチャー先輩はキッと私を見つめてきた。

 

「じゃあ分かりやすくコスモスに宣戦布告するよ。あたしの次走『ジャパンカップ』のつもりだったけど、『エリザベス女王杯』に変更する」

 

 え? どういう事…? 

 

「もしあたしを止めたかったら、そこであたしに勝ってみな。『秋華賞ウマ娘』のあんたに勝てば、去年トリプルティアラを逃した雪辱も果たせるだろうから、あたしとしても一石二鳥だしね」

 

 一方的にそう言ってカルチャー先輩は更衣室を後にした。残されたのは私とバー先輩。

 

「マジでエドちゃんどうしたん…?」

 

 私はバー先輩の言葉に無言のまま、答える能力(ちから)を持っていなかった……。

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