咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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戦いは常に全力で

 トレセン学園内の報道(プレス)ルームに50名程の記者さん達が集まっている。今日は『エリザベス女王杯』の有力出走者を集めて記者会見が行われる為だ。

 レースの注目度の高さからか、会見が始まる前から会場は熱気に溢れている。

 

 そんな場所に私は勝負服を着て立っていた。出走者の中で『GⅠホルダーだけを集めた記者会見』の末席にいさせてもらっている状態だ。

 

 他のメンバーは、『桜花賞』のヘリアンさん、『オークス』のジーニアスセイント先輩、『NHKマイルカップ』のナチュラルシャインさん、昨年クラッシック路線からティアラ路線に転向して秋華賞を獲ったクリスタルセイバー先輩、昨年の桜花賞とオークスのティアラ2冠を制したオオエドカルチャー先輩、最後に昨年のエリ女覇者であるイーグルダイブ先輩となる。

 

 もう全員の『圧』が強くて、私なんかこの場所に居るだけで息が詰まってくる。立っているのがやっとなくらいだ。

 比較的慣れているカルチャー先輩ですら、いつもとは比べ物にならないプレッシャーを放っているのが一目で分かる。

 多分大嫌いなセイバー先輩と横並びにされたせいもあるんじゃないかな?

 

「それではエリザベス女王杯出走者の皆さんへの定例記者会見を始めたいと思います。まずは皆様一言ずつ意気込みをどうぞ」

 

 司会者さんが登壇し、記者会見が始まると同時に多数のカメラのフラッシュが焚かれる。

 記者会見に参加するにあたって意気込みを聞かれる打ち合わせだったので、何を言うかを決めてはいる。でも緊張感から半分くらい頭から飛んでしまった。どうしよう…?

 

 私の順番は3番目、ジーニー先輩とシャインさんの間だから、その間にコメントを思い出すか新たに考えなければならない。えと、えと、いや無理でしょ……。

 

「秋華賞では実力の30%も出せなかったわ。その分の悔しさも込めて、京都でリベンジしてあげる!」

 

 ヘリアンさんが相変わらずの鼻息の荒さで捲し立てる。

 

「私も秋華賞では実力の30%どころか出走すら叶いませんでした。その悔しさをバネに、今度こそ真のティアラチャンピオンが誰なのかを証明したいと思います」

 

 ジーニー先輩も凛とした声で闘志を語る。

 そして私にマイクが渡される。何を言うつもりだったのかうまく思い出せない。もうこのまま行くしか無い。

 

「わ、私みたいな娘がこんな凄い場所にいる事が異変だと思っています。でも… でも私を信じてくれた人達の想いまで嘘にしてしまったら、私は自分が許せなくなると思います。だから… だから目一杯走ります!」

 

 そうとしか言えなかった。変じゃなかったかな…?

 

「…全力を尽くします」

 

 シャインさんは雰囲気がいつもと全く変わっていない。いないけど、穏やかで涼し気な春の日差しみたいな人なのに、内からはマグマのうねりの様な物が隠しきれずに溢れ出ている。ハッキリ分かる。

 

「GⅠもご無沙汰しとるからな、そろそろウチの存在感を見せたらなアカン思てたところや!」

 

 セイバー先輩って、見た目は名前の通り『水晶の剣』みたいな無機質クールっぽいイメージなんだけど、実際喋るとコテコテの関西弁で、そのギャップが凄いんだよね。

 

「去年と今年のティアラ優勝者が全て揃う大会よ。これに勝って2年分の『統一ティアラ』の称号を頂くわ!」

 

 カルチャー先輩もいつも通り自信満々だ。『統一ティアラ』なんて言葉は無いのだけど、確かにこの場には昨年と今年、2年分のティアラ6レースの覇者が揃っている。今回のエリ女はその中での『最強』が誰なのかを決めるレースでもあるのだ。

 

「エリ女は()()()のレースです。誰にも譲らないから…」

 

 イーグル先輩はそれだけを淡々と語り、テーブルにマイクを置いた。

 

 イーグル先輩は昨年のエリ女優勝者であると共に、昨年のダービーでもアタマ差の2着になっている強豪だ。何よりデビューから現在までの連対率が80%という、とんでもない実力者でもある。

 

 ☆

 

 この席に集まった記者さん達の注目は、事前にジャパンカップ出走を公言していたカルチャー先輩のエリ女転向だった。

 

 先日の天皇賞 (秋)の出走メンバーの多くがジャパンカップ出走を表明する中で、カルチャー先輩の不参加が惜しまれた為だ。

 

 出走レースを変えた理由を聞かれたカルチャー先輩は一言「京都でやるべき事が出来たからです…」

 

 とだけ答えて、それ以降黙秘を守った。

 

 もちろん私はカルチャー先輩がエリ女に出る原因が痴話喧嘩由来である事を知っている。でもそれを口にする訳にはいかない。私だけでなく、カルチャー先輩や何より新代トレーナーに迷惑が掛かるからね。

 

「スメラギレインボーやブラックリリィとの対戦は、次の有馬記念までお預けですか?」

 

 なんて質問もあったけど、カルチャー先輩は「トレーナーと相談します」と、答えを断言しなかった。

 

 私にも秋華賞の時の影響か、メジロパラディンさんとの関係を聞かれたりした。

 

「コスモスキュートさんと共に秋華賞を走ったメジロパラディンさんは、今回のエリ女にも出られるそうですが、コスモスさんから見て『メジロの復活』は叶うと思いますか?」

 

 この質問にはちょっとビキッときた。言葉の端々から「メジロはもう無理だろ」という意識がダラダラと漏れていたからだ。

 

 もちろんパラディンさんは強力なライバルだ。でもそれ以上に大切な大親友なのだ。親友がバカにされてヘラヘラと笑っていられない。

 

「…パラディンさんとはとても仲良くさせて頂いております。近くで見て、彼女の『メジロ家再興』に掛ける悲願は、この上ない『想い』であると確信しています」

 

 ここまで言って質問してきた記者さんの顔色が少し変わる。きっと私の口から「ティアラ全てに負けて、メジロ復活なんて無理だ」と言わせたかったのだろう。そんな手に乗るもんか。

 

「同じレースで争うならば本気で戦いますが、それとは別にパラディンさんを応援したい気持ちは、彼女のトレーナーさんにも負けないつもりです」

 

 言ってやった。件の記者さんは何とか逆襲しようかと次の言葉を選んでいる。

 

「あ〜、でもこれまでのレースの様にメジロパラディンが負けてしまうと、その分メジロ復活からは遠のいてしまいますよね? その辺りはどうお考えですか?」

 

 この質問は会場の空気を一気に変えた。暗に「メジロ復活させたいならお前が負けてやれば良いじゃないか」と言っているのが周りにも伝わったのだろう。

 それは不正行為の示唆でありレースへの冒涜に他ならない。

 

 案の定、行き過ぎた質問をしたせいであろう、件の記者に向けて学園の警備員が数名動き出した。

 

「私は既にメジロパラディンさん本人より『レースで手心を加える事こそ最大の侮辱』と宣言されております。戦い(レース)は常に全力で、がトレセン学園のルールです…」

 

 私の言葉と同時に件の記者さんは警備員に連れられて強制退場を受けた。そして会場の記者さん達や出走者の何人が私に向けて拍手を送ってくる。

 

 何か私も感情的になって強く言い過ぎてしまった気がしないでもない。でも言うべき時に言うべき事を言わないとダメだもんね。

 

 記者会見はまだ少し続いたが、それ以上荒れることも無く円満に終了した。

 

「コスモス、パラディンの件はよくあそこまで言ってくれたな。偉いぞ!」

 

 会見が終わり、控室で新代トレーナーがそう言いながら頭を撫でてくれたのが今日一番嬉しかったかな?

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