咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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トッカンクイーンを超えます

 エリザベス女王杯を明後日に控えた金曜日、私と新代トレーナーは京都に向かう新幹線に乗っていた。

 

 いつも通りなら明日の土曜日でも良いのだけれど、トッカンクイーン先輩やオオエドカルチャー先輩らを始めとする他の出走者達と便が同じになると、私の集中力を乱される恐れがある、として山西チーフの計らいで早めの出発とさせて頂いた次第だ。

 

「じゃあねコスモスちゃん、次に会う時は京都レース場で」

 

 トッカン先輩が笑顔で優しく送り出してくれたけど、次に会ったトッカン先輩は間違い無く私の『強敵(ライバル)』になる。あの優しそうな笑顔の裏に煮えたぎる様な闘志を秘めているのがトッカン先輩なのだから。

 

 トッカン先輩は昨年のクラッシック3冠では全てのレースで掲示板入りしている実力者だが、まだGⅠでの勝利が無い。

 

 その為、今回のエリ女優勝に対する意欲は並々ならぬ物がある。

 トッカン『クイーン』だけに『女王杯』を逃したくない、という言葉もあながち冗談ではないのだろう。

 

 ちなみに関係無いが、私の名前『コスモス』を冠した『コスモス賞』というレースも存在する。

 

 ただ札幌開催の夏レースで、しかもジュニア級のプレオープンだったので、その時期に初勝利はおろかデビューすらしていなかった私には未来永劫縁の無いレースになってしまったのは少し残念だ。

 

 ☆

 

「今日は早めにホテルで休んで、明日は軽くアップしつつ前回出来なかった京都観光をすると良いよ」

 

 新代トレーナーが新幹線の車中でそんな事を言ってくれた。

 確かに前回はレースに勝ってしまったせいもあって、取材だなんだと終始バタバタしていて、せっかくの京都を楽しむ余裕が無かった。

 

 また、早めに東京を出られたついでに、後輩であるウィッシュブリンガーちゃんの出走するGⅡ『デイリー杯』の観戦もしようと思っている。

 

 正直ちょっと苦手なタイプの娘なのだが、私のレースに感動してくれて「コスモス先輩(わたし)が目標」と、ティアラ路線へ進んだ『可愛い後輩』だ。

 

 そんな彼女を放っておけないし、何より彼女から「応援しに来てほしい」旨のリクエストは受けていたのだ。

 

 デビュー2戦目でもう重賞チャレンジ。感じるプレッシャーは物凄いだろうけど、精一杯頑張って欲しいよね。

 

 ☆

 

「ほぉ、あの娘がコスモスお気に入りのウィッシュブリンガーか… ダントツの1番人気じゃないか。後輩に抜かされないように、うかうかしてられないぞ?」

 

 京都レース場の観覧席で新代さんが冗談めかして笑う。

 

 一応言っておくと、別にお気に入りでは無いのよ? むしろちょっと苦手なタイプなのね。

 でも私のレースに感動してくれて、ティアラを目指したっていう宣言はとても嬉しかった。

 

 ウィッシュちゃんはジュニア級の娘達の中でも『実力派』としてかなり注目株らしい。来年のティアラ戦線を占う上で、今日のデイリー杯は重要なレースとなるだろう。

 

 パドックで観客に挨拶する際に、ウィッシュちゃんは目敏(めざと)く私達に気がついたのか、嬉しそうに手を振ってきた。

 

 無邪気に笑う姿はとても可愛いと思うのだけど、何だろう? 「無邪気すぎる」印象を受ける。レースに全く緊張していないのかな? それだけ大物って事なんだろうなぁ。私より年下なのに貫禄あるよねぇ……。

 

 ☆

 

 レースが始まる。ウィッシュちゃんは『逃げ』脚質らしく序盤から先頭に立ち集団を率いている。

 デイリー杯の距離は1600m。一気にかっ飛ばせる距離でもなければ、スタミナ配分をアレコレ悩んで組み立てる距離でもない。

 

「なんだか『本当にジュニア級か?』ってくらいに堂々と良い走りをしているな。軸もブレていないし、自分に相当の自信が無ければあれは出来ない。デビュー後のカルチャーを思い出すな…」

 

 なるほど、私のウィッシュちゃんに対する苦手意識は、無意識にカルチャー先輩を連想していたからなのかも知れない。

 

 結局ウィッシュちゃんは他の娘達の追随を許さないまま、終始先頭で2着に2馬身差を付けてあっさりと優勝した。

 

「なるほど、こりゃあとんでもない逸材だな…」

 

 新代トレーナーも絶句している。冗談抜きでウィッシュちゃんはフォーゲルフライやカルチャー先輩と並び立つ素質を持った、世代トップクラスのウマ娘なのだろう。

 

 ティアラ路線が決まっているのなら、恐らく来月の阪神ジュベナイルフィリーズにもウィッシュちゃんは出走するはずだ。

 そこでも優秀な成績を修めたら、ウィッシュちゃんはティアラの有望株として一気に注目を集めるに違い無い。

 

「新代さん、他の娘ばかり見ていないで私を見てください。私だって明日本番なんですよ…?」

 

 私が無理言って付き合わせたレース観戦なのに、新代トレーナーがウィッシュちゃんに注目しているのが何だか面白くなくて、つい変な事を言ってしまった。

 

 べ、別に焼きもちを焼いた訳では無いですからね? 見るべき物を見終わったのなら、早急に次の仕事に掛かるべきなのですよ。他意は無いのです、多分……。

 

 ☆

 

「コスモスさん、記者会見を拝見しました。(わたくし)を庇って頂いて本当にありがとうございました」

 

 翌日、パドックへと繋がる京都レース場の控えの廊下で、メジロパラディンさんに話しかけられた。

 先日の記者会見で、私はパラディンさんのメジロ家復活劇を腐した記者に一言申し上げたのだが、パラディンさんもそれを見ていたらしく、今、恭しく私に頭を下げている。

 

「お礼なんて不要ですよ。あれは私が言ってやりたかっただけですから。それに私がパラディンさんの夢を邪魔している張本人でもありますし…」

 

 そんな事はわざわざ言うまでもない。私がそんな性格の娘だという事はパラディンさんだって十分に知っているはずだ。

 

 その為か、顔を上げたパラディンさんの顔は既に不敵に微笑んでいた。

 

「ふふっ、これまでコスモスさんとの戦いは、『1勝2敗』で一戦ずつ勝って負けての繰り返しです。つまり次は私の勝つ番です。お覚悟あそばせ」

 

 パラディンさんの本意はお礼を言いに来たのではなくて、私に発破をかけに来たのだろう。

 パラディンさんは不敵な笑顔のまま先にパドックへと歩いて行った。

 

 ☆

 

「コスモスちゃん…」

 

 パラディンさんを見送った直後に今度はトッカン先輩に話しかけられる。

 いつもは私より小柄なトッカン先輩だが、レースを前にその放出される覇気は、その赤い勝負服と重なり彼女を何倍にも大きく見せていた。

 

「トッカン先輩…」

 

 だが私もレース前に気圧される訳にはいかない。真っ直ぐトッカン先輩を見返して微笑み返す余裕くらいはある。

 

「寮の部屋では上手く行かなかったけど、改めてライバル宣言させて… 私は今日、コスモスキュートと走れてとても嬉しい。とても楽しみ。でも『勝つのは私』。それだけは譲らないから…」

 

 トッカン先輩の目には青い炎が揺らめいているかの様な妖しい光が宿っていた。今日の先輩は、私にとって間違い無く過去最強の敵となるだろう。

 

「はい。私も今日のレースで先輩を… トッカンクイーンを超えます。見てて下さい…」

 

 言えた。トッカン先輩を呼び捨てにして『儀式』が出来た。

 私は右手を固く握りトッカン先輩に差し出す。先輩も同様に拳を出し、2人の拳が軽く衝突した。

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