咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「えぇっ?! 『エリ女に勝った方が新代トレーナーに告白する』の? 何であたしに相談もなくそんな事を…?」
京都から帰って翌日の放課後、私達チーム〈ミザール〉の所属ウマ娘3人は、午後のトレーニングに向けてロッカー室で着替えながら、珍しくガールズトークをしていた。
トレーナー達も3人揃っていて、あちらはあちらで今後の方針決定等、大人の話をしているのだろう。
私の次走は「有馬記念」で希望を出してあるし、新代トレーナーも「良いな」と賛同してくれている。
まぁ有馬記念は人気投票で出走者が決まるので、「出たいです」だけで出られるレースでは無い。
ただ、今回のエリザベス女王杯で2着という結果を受けて、私のファン数も結構上がっているらしいので、「少なくない確率で有馬記念出られそう」と新代さんは言っていた。もし叶うなら嬉しいよね。
そしてオオエドカルチャー先輩もジャパンカップを回避してのエリザベス女王杯だったので、次走が注目されている。
でも私はカルチャー先輩本人から「来年からドリームトロフィーリーグに進む」事を聞いている。その集大成として「GⅠを連戦してとにかく強い奴らと戦うつもり」だと言う事を。
となると、カルチャー先輩も次は有馬記念でほぼ確定だろう。早速私達の再戦の兆しが見えてきた訳だ。怖くもあるし楽しみでもある。
☆
さて、冒頭のセリフはババヤーガ先輩のもの。新代トレーナーへの告白勝負は一応私とカルチャー先輩の勝負である為に、『部外者であるバー先輩には秘密にしておこう』という取り決めは、最初にカルチャー先輩と成されていた。
それにお喋りなバー先輩に知られると翌日には学園の半分が知っている事態にもなりかねなかったからね。
「はぁ? なんでバーに相談しなきゃいけないのよ? アンタには関係無いでしょ?」
「え… いや、まぁそうなんだけどさぁ… 言ってくれてたら私も何か協力出来た事があったかもなぁ、って… ねぇ、2人とも止めた方が良くない?」
カルチャー先輩の反論に、どうにも歯切れの悪い答え方をするバー先輩。止めるどころかいつもはもっと茶化してくるパターンが多いのに、かなり妙でもある。
ウマ娘とトレーナーの禁断の愛に対して拒否感を持っているだけなのかも知れないが、どうにもバー先輩の心情は読みづらい。
「とにかくバーは関係無いから引っ込んでて。んじゃコスモスは上手いこと裏庭に新代を呼び出すのよ? あたしは先に行ってるから」
うぅ、まだ心の準備が出来てないです……。
本当に告白するの私? 本当にしなきゃダメなの…? 誰か助けて欲しい……。
「ほら、
カルチャー先輩、私を応援している風でめちゃくちゃ煽ってくるよね。
私が告白しても玉砕するのは目に見えているし、逆にカルチャー先輩は学園を退学して倫理的な問題をクリアしてから攻めるんでしょ。やっぱり不公平だよ……。
カルチャー先輩に背中を押されてロッカー室から追い立てられる。私がドアノブを捻った瞬間に外から大きな拍手が聞こえてきた。
「「?????」」
私とカルチャー先輩は顔を合わせて「何事?」という表情を浮かべる。「レースで好成績おめでとう」の拍手にしてはタイミングがズレすぎているし、他に拍手する様な事は…?
「まぁちょうど良かったんじゃねーか? あまり待たせるのも不憫だしなぁ!」
山西チーフのダミ声がトレーナー室に響いている。私達のウマ娘イヤーであれば、壁の向こうの話し声など簡単に聞き取れるのだが、プライバシーの関係もあるので、普段は聞かない様にしているのだ。
でも何となくだが、今はそういう事態じゃない気がする。
という訳で、私とカルチャー先輩は2人で耳をそばだてて壁の向こうの会話に集中し始めた。
いつもは出歯亀の見本みたいなバー先輩が今回は大人しくしているのが少し疑問ではあったが、まぁその辺の追求は後回しで良い。
「実はコスモスがGⅠ取れたタイミングで話はしていたんですよ。なかなか返事が貰えなくて…」
「だって… コスモスの事で
聞こえてきたのは新代トレーナーとバー先輩の担当である
でも何か、これまでとは明らかに雰囲気が違う。この場に物凄く乱入しづらい。
カルチャー先輩は私の横で何かを悟ったらしく、顔色が真っ青になっている。いつも自信の塊みたいなカルチャー先輩を見てきたせいか、今のカルチャー先輩はまるっきり別人に見える。
私も凄く嫌な予感がするよ……。
「で? 籍はいつぐらいに入れるんだ? 早い方が良いんじゃねーか?」
あぁ、これは確定だ……。
まさかの展開に私も目の前が真っ暗になって立っていられなくなる。
カルチャー先輩も同様らしくドアに向けて私達2人分の体重が掛かる。ドアノブは捻ったままだったから当然扉が開いて、私とカルチャー先輩は前のめりに倒れ込みそうになった。
「もぉ、だから『止めた方が良い』って言ったじゃん…」
倒れそうな私達を後ろから支えてくれたのはバー先輩だった……。
☆
先ほどの話は悪い予感が的中した。つまり『新代トレーナーが林トレーナーにプロポーズをして、OKしてもらった』という話だったのだ。
私とカルチャー先輩の初恋は、告白する前に破れてしまった事になる……。
いやまぁ新代トレーナーに嫌われた訳では無いのだから、まだ気は楽なのかも知れないが、この心の喪失感は言葉に出来ない。
カルチャー先輩も同様で、ずっと顔色が悪いままだ。彼女は新代トレーナーの為に学園を辞めようとすらしていたのに、その決意も目論見も見事に玉砕した形になってしまった。
私達は2人とも顔面蒼白のまま、空虚な「おめでとうございます」の言葉を残して、下手くそな操り人形みたいな動きでトレーナー室を後にした。
☆
「んじゃバーは、新代と林が付き合ってたの知ってたの?」
3人でトボトボとグラウンドへ歩いていく。今日は3人共通で坂路練習の予定だ。
「そりゃまぁ、晴美ちゃんはあたしの担当だしねぇ。2人でコソコソデートしてたし、言われなくても女同士そういうの何となく分かるって」
言われてみれば心当たりはいくつもある。これは私が能天気に新代さん達の恋愛に気がついていなかっただけなのだろう。
子供の頃からずっと走ってきて、愛だの恋だのの経験値を稼ぐ暇が無かったのもある。
「でもそれなら教えてくれたって良かったんじゃないですか…?」
バー先輩が悪い訳では無いのは分かっているが、どうにも乙女心を弄ばれた気がして面白くない。自然と詰める口調になってしまう。
「ううーん、でもあたしも晴美ちゃん達が結婚まで行くとは思って無かったし、君達を見てるの楽しかったし…」
「何それ最悪…」
カルチャー溜め息をつきながら声を絞り出す。私も同感だ。バー先輩は非道いです。
「んじゃ、今日は予定変更して3人で併走しようか? バーもGⅢくらい勝って、担当トレーナーに花を持たせてやりなよ」
「良いですね。私もちょうど走りたいと思ってました」
カルチャー先輩の素敵な提案に私も乗らせて貰う。何と言うか、この心のモヤモヤは走って解消するのが一番良さそうだ。
「ちょっと待ったぁ! GⅠウマ娘に挟まれて併走なんかしたら潰れて死んじゃうよ。あたしはオープンクラスで満足なんだから… って無理やり連れて行くなーっ! 拉致監禁反対ーっ!!」
バー先輩が何やら抵抗していたけど、無視して脇を固めて連行してやった。