咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
次週のジャパンカップを控え、私はメジロパラディンさんから併走のお誘いを受けた。
パラディンさん、というよりもトレーナーの北野さんが、あまり他チームやウマ娘達との繋がりを持たない主義みたいで、併走相手を探す営業活動はパラディンさんの仕事であるらしい。大変ねぇ。
「うふふ、うちのトレーナーさんはちょっと不器用なだけなんです。2人だけの時はとても優しいんですよ?」
というのはパラディンさんの言だが、私には北野トレーナーって超厳しい人って印象なんだよね。
それにパラディンさんはメジロ家の設備や一門のウマ娘を使って別途トレーニング出来る強みもある。一部では「没落した」等と言われるメジロ家だが、まだまだ地力の強さは失っていない。
しかし、このトレセン学園という場所には、色んな変わり者のウマ娘が
私の新代トレーナーなんて普通すぎて物足りないくらいだ。いやまぁトレーナーさんは普通で良いんですけどね……。
「では明日の14時半にグラウンドで。あとちょっとコスモスさんに個人的にお話ししたい事がありますので…」
なるほど、それが本命なのかな? 話したい事があるなら今すれば良いのに、何やら含んだ笑顔でパラディンさんは手を振り去って行った。
☆
翌日、私とパラディンさんは左回り800mの併走を行った。コーナーから直線に入る所で先行するパラディンさんが少し
私はそのまま外から差そうと速度を上げたが、逆にパラディンさんは急激に速度をおとし、やがて内ラチにもたれ掛かって足を止め、そのまま右足を押さえて蹲ってしまった。
『パラディンさん、まさか怪我?!』
急いで引き返すが、ウマ娘はすぐには止まれない。私も怪我をしない程度に急停止して反転、パラディンさんの元へと戻る。
外からも異変を察知したのか、新代トレーナーと北野トレーナーが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「大丈夫です… ちょっと捻っただけ… ジャパンカップの前に怪我なんてしてられない…」
トレーナーさん達に先駆け到着した私に、パラディンさんは救助を拒む様に手の平をこちらに向ける。
でもパラディンさん顔真っ青だよ? 絶対大丈夫じゃないよねコレ…?
「パラディンさんしっかり! 救急車! 救急車お願いします!」
私の声に新代トレーナーと北野トレーナーは一瞬顔を合わせ、一言二言の会話の後に新代トレーナーはスマホを取り出して救急要請を始め、北野トレーナーはそのままこちらに駆け寄って来た。
「パラディン! ……ごめんなさい、私のせいだわ…」
「りえさん… 私は大丈夫です… ちょっと捻っただけ… うっ……」
パラディンさんは北野トレーナーに対して無理やり笑顔を浮かべて無理に立ち上がろうとした。
その結果足の痛みに耐えかねて、また倒れそうになるが、
数分後、到着した救急車に乗せられて、パラディンさんは学園近くの病院に搬送されて行った。
☆
「足首の距骨という所の骨折だそうです。医者には治療には早くても1年掛かると言われました…」
2日後、新代トレーナーと入院しているパラディンさんのお見舞いに行った際に、北野トレーナーから病室の外で大体の説明を受けた。
何でも「距骨」とは足首にある骨で、足首が自由に動く滑車の様な役割の骨らしい。
そこが骨折すると、普通に足首が動かなくなるどころか、周りの筋肉が少ない場所のために血流不足から、酷い場合には骨壊死すら起こりうるとか。
壊死なんてなったら次はもう切断か人工関節か。どちらにしてもパラディンさんはもう以前の様に走る事は出来ないだろう。
「全ては私の責任です… あの娘の骨強度を高く見積もりすぎて居ました。まだ成長途中の高校生だと言うのに…」
私達に説明しながら段々と声が震え、鼻声になってくる北野トレーナー。いつもの毅然とした態度しか知らない私達は、不安に慄く彼女にどう反応すれば良いのか困ってオロオロしてしまう。
「スミマセンお見苦しい所を。私よりもパラディンを励まして上げてもらえますか? 特にコスモスさん、貴女の言葉はパラディンの力になると信じています…」
さすがにそれは無茶振りですよ北野トレーナー… 以前トッカン先輩が怪我した時も、私は大して力になれなかった。今でもパラディンさんにどう声を掛けて良いのかすら思い付かない……。
何も考えられないまま病室の扉をノックし、パラディンさんの「どうぞ」の声を受けて中に入る。
「コスモスさん… とそのトレーナーさん、来て下さったのね…」
悲しそうで寂しそうなパラディンさん。口角を少しだけ上げて無理に笑顔を作ろうとする。
いつも明るくて上品で、覇気に満ちたパラディンさんなのに、今はとても小さく儚げに見える……。
「お話はざっくりですが北野トレーナーに伺いました。この度は何と言ったら良いのか…」
言葉が思い付かない。何を言ってもパラディンさんを傷つけてしまいそうな気がして、とてもじゃないが力づけるなんて無理だよ……。
「コスモスさんには何度もお見苦しい所を見せてしまってますわね。メジロの娘として忸怩たる思いですわ…」
見苦しいも何も非常事態だからね。未然に防ぐ方法があったかも知れないのに……。
「ごめんなさい… 私がもっと早くパラディンさんの足の不調に気が付いていれば…」
それに対してパラディンさんは鼻をフンと軽く鳴らして自嘲的な笑みを浮かべた。
「トレーナーや、何より
そこまで言うとパラディンさんの声も震えてきた。溢れた涙が彼女の脚の上の布団に零れ落ちる。
「ごめんなさいコスモスさん。見苦しいついでにもう少し甘えてもよろしいですか? もう貴女にしか頼れなくて…」
涙顔ながら必死に泣くのを堪えているパラディンさんが見上げてくる。きっと弱音を吐いて北野トレーナーに心配かけたくないんだね。
良いよ。私に何でも頼って。親友だもん、出来ることなら何でもするよ。
「俺は少し外しておくよ…」
新代トレーナーも気を利かせて病室を出る。私としては少し心細いんだけど、この場に男の人がいたらパラディンさんも言いたい事が言えなくなるかもだしね。
「パラディンさん… 何でも言ってください。私への恨み言でも何でも正面から受け止めますから…」
パラディンさんの傍に行き、努めて冷静に話しかける。私まで取り乱したら全てが台無しになりそうだったから……。
「ありがとうございます、コスモスさん…」
細い声でそれだけ言うと、パラディンさんは私にしがみついてきた。徐々に嗚咽が始まり、遂には私の胸で大泣きが始まった。
「…うわぁぁっ! 悔しい! 悔しいよコスモスぅ! 私がGⅠ獲らないとメジロの未来は無いのに! レオちゃんが捨てられちゃうよ…」
泣きながら思いついた無念を、思いついたまま口にしているのだろう。支離滅裂で、しかしとても切実な叫び。
確か『レオちゃん』とはパラディンさんの親戚の小学生だったかな? パラディンさんの戦績次第でメジロ家がレースから手を引き、その娘が走れなくなる、という話だったはず。
そう考えるとパラディンさんの背負うプレッシャーって途轍もないよね……。
何だか秋華賞の後の抱擁を思い出す。あの時もパラディンさん大泣きしてたよね。
でもあの時とはパラディンさんの苦悩は比べ物にならないだろう。私はあの時同様に優しく抱き返して上げる事しか出来なかった……。
☆
「ありがとうございます。おかげで落ち着きました…」
「あの、併走の前日に『話したい事がある』と仰ってましたよね? 良かったら聞かせて下さい…」
それを聞いてパラディンさんは再び悲しげな笑顔になる。あ、言いたくないなら無理しなくても……。
「コスモスさんが次に走るのは有馬記念でしょう? なので『有馬記念で戦おう』と言いたかったのですが… それは叶わなくなりました…」
パラディンさんは一度言葉を止めて、改めて私と正面から目を合わせる。
「なのでコスモスさん、私の代わりに有馬記念、頑張って下さい! コスモスさんがブラックリリィさんやスズシロナズナさんをぶち抜く所を見せてください!!」