咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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それでも、私はもっと強くならないと…

 ジャパンカップを目前にしてメジロパラディンさんが怪我をした。

 怪我の治療には早くて1年。しかも治療が終わっても元の様に走れる保証は全く無い、という事だった。

 

 パラディンさんの走りには、メジロ家の悲願としている天皇賞はおろか、ここ十数年GⅡやGⅢの重賞すらも勝てていないメジロ家ウマ娘の復活を賭けた一大プロジェクトが動いていた。

 

 それはパラディンさんが期限までに一定の活躍を見せられなかった場合、メジロ家がウマ娘レースから事業撤退し、今後の支援を白紙化する。という話だ。

 

 メジロラモーヌさんやメジロマックイーンさんを代表に、かつてトゥインクルシリーズを優雅に飾った『光の子』と呼ばれた栄光のメジロ家ウマ娘達。

 

 私達、後進のウマ娘にとってそれらは「憧れ」と共に語られる物であり、現状を嘆く為の材料であってはならない。

 

 それら数々の伝説や未来への希望を手放してまで事業から撤退しようとするメジロ家の(ふところ)事情も分からなくは無い。

 

 ただ、そんな大事な事柄の全てを『メジロパラディン』という女の子1人に背負わせるのは、あまりに酷と言うものだろう。

 

 私の前で「悔しい」と号泣していた時のパラディンさんは、重すぎる使命に耐えかねて潰れてしまいそうに見えた……。

 

 ☆

  

「コスモス、メジロパラディンの事は分かるが根詰めすぎだ。お前まで故障してしまっては元も子もないだろ…」

 

「分かってますよ! それでも、私はもっと強くならないと…」

 

 次の有馬記念に向けてトレーニングを重ねる私。パラディンさんから想いを託されて、秋華賞やエリザベス女王杯と同様、いやそれ以上に「負けられない」気持ちが強くなっている。

 

 パラディンさんの件を抜きにしても、シニア級とクラッシック級のトップ達が集うグランプリに挑むにあたり、これまで通りのトレーニングでは全く通用する気がしない。

 

 もちろん新代トレーナーを疑う訳では無いが、相手はツキバミさんを始めとするレジェンドクラスのウマ娘達なのだ。私ももっと進化する必要がある。

 

 最低でも常に完成型の《領域(ゾーン)》を出せる様になりたい。まだ進化前の《道標べ(ゾーン)》ですら自在に発動できないけどさ……。

 

「今お前に必要なのは一息入れる事だと俺は思う。ただがむしゃらに走っても実力は身に付かない。その辺の理屈はトレーナーである俺を信じてくれ…」

 

 新代さんの事は信じています。新代さんのおかげで私はトゥインクルシリーズを走る事が出来て、あまつさえ憧れのティアラGⅠすらも手にする事が出来たのだから。

 

 でも今この身から溢れ出そうな程の焦燥感は「走る」事でしか消せない気がするんです。

 

 もっともっと自分を追い詰めて鍛錬して、自分の焦りやパラディンさんの絶望を、疲労で頭の中を何も考えられないくらいに真っ白にしたいんですよ……。

 

「もう一度パラディンと話してくると良い。お互いに前よりは冷静に話せるだろうしな」

 

 ☆

 

 翌日、パラディンさんのお見舞いに行って、彼女に私の焦りとか練習方針への不満をぶちまけた。

 

 走れないパラディンさんは、私の何倍もの苦しみを抱えているはずなのに、私を迎えた彼女の優しい笑顔につらつらと、情けない愚痴を語ってしまった。

 

「そうですか… でも(わたくし)もコスモスさんにだけは怪我をしてほしくありませんわ。そこは新代様が正しいと思います」

 

 そこでパラディンさんは何かを思いついたのか、はたと手を打ってイタズラめいた顔をこちらに向ける。

 

「ねぇコスモスさん、今の(わたくし)では身体的にも精神的にもジャパンカップをまともに見ることが出来そうにありません。なので私の代わりにりえさんとレースを見てきて頂けませんか…?」

 

 私が? 北野トレーナーと? 何で?

 私が疑問を口にする前にパラディンさんは次の言葉を繋いだ。

 

「それにジャパンカップの出走メンバーは、多くが次の有馬記念に向かいます。テレビ中継の映像だけでなく、己の目や肌で強豪達の(オーラ)を感じるのも鍛錬だと思いますわ」

 

 という訳で、次の日曜日は強引にパラディンさんの専属トレーナーである北野さんと私の2人で、東京レース場でジャパンカップを観戦する事になった。

 

 日曜日は元々休みの予定だったが、上記の理由でのんびり休む気にもならず、自主練でもするかな? と、1人で悶々と考えていた。

 

 パラディンさんから北野トレーナー、更に新代トレーナーへと連絡が行き、新代トレーナーもレース観戦には二つ返事で快諾したそうだ。 

 

 ☆

 

「コスモスさんのおかげでパラディンも明るさを取り戻せました。そのお礼には到底及びませんが指定席(メモリアルシート)でごゆっくり観戦なさって下さい。私は飲み物と軽食を買ってきます」

 

 北野トレーナーは私をシートまで(いざな)って、急ぐ様に部屋を出ていった。何か逆に申し訳ないんですけどね……。

 

 パラディンさんの件が響いているのか、北野トレーナーもかなりやつれている。

 今回のパラディンさんの怪我は、恐らく北野トレーナーの監督不行届きと見做されて、専属トレーナーを降ろされる可能性もあるという。

 

 北野トレーナーは方針こそ厳しかったけど、パラディンさんは嫌な顔ひとつせずトレーニングに励んでいたし、北野トレーナーの体調管理術は新代トレーナーも「教えを請いたい」と言っていたレベルだった。

 

 パラディンさんも北野トレーナーも、上手く前を向ける様になれば良いと思うけど、その為に私が出来る事って何かあるかな…?

 

 ☆ 

 

 しかし今日の東京レース場は、多分指定席とかじゃないとまともにレースを観られないくらいお客さんが入っている。発表された入場者数は約19万人だそうだ。

 

 それと言うのも、今回のジャパンカップは先月の凱旋門賞で日本人初のタイトルを獲ったスズシロナズナ先輩が走るからだ。

 

 そして凱旋門賞でナズナ先輩と競ったフランスのルミエルシュプリームさんやアメリカのロードアンドホークさん、更に昨年のジャパンカップ優勝者であるドイツのバラタックさんらが「打倒スズシロナズナ」を掲げて来日している。

 

 何より話題になったのは、イタリア出身ながらイギリスでデビューし、今年度の『エプソムダービー』と『キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス』というGⅠを連覇した『アルデーティー』というウマ娘が緊急参戦してきた事だ。

 

 彼女はこの2レースを共に、2着を5馬身以上離して優勝しており、「イギリス最強」と呼ばれ凱旋門賞にも出ていたバレンタインホープさんをすら凌ぐと言う声も多いそうだ。

 

 ちなみに『アルデーティー』とは「勝利か死か」という物騒な意味らしく、「強い人は名前から違うんだな」等と感想を抱いたりする。

 

 そんな世界の最強ウマ娘が日本に集まって来ているのだ。盛り上がらない訳がない。

 もちろん彼女らを迎え撃つ日本勢だって負けていない。

 

 ナズナ先輩以外には、これまでGⅠを4勝、名前の通り真っ黒なドレスの勝負服を身に纏ったブラックリリィ先輩を筆頭に、天皇賞の春秋連覇を成し遂げた生徒会長のスメラギレインボー先輩。

 

 そのスメラギ先輩をこよなくリスペクトして、自身の脚質まで変えてしまった、私のクラスの学級委員長アバロンヒル。

 

 スズシロナズナ先輩とは同じトレーナーに学んだ姉妹弟子関係にあたり、ナズナ先輩への刺客でもあるらしい、今年の宝塚記念(グランプリ)ウマ娘、ハピネスシアターちゃん。

 

 そして今年のダービーウマ娘である、クラスメイトのフォーゲルフライも参戦している。

 

 ここにパラディンさんも居てくれたら、私的には完全オールスターゲームなのだけれど。あ〜あ、残念だなぁ……。

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